顔の裏側その顔は。

ASFAKE

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嫌な先輩

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「新人の癖に、遅刻とかウケるんだけど。先輩に対して挨拶も出来ないわけ?」

 その言葉は、冷たい空気が支配する控え室に響き渡る。

 天羅は早速振り返ると、自信過剰な様子で腕を組んだ先輩?と思われる女の子が立っていた。

 背後にいるスタッフの視線が一瞬、気まずさを帯びる。

 先輩の目線は鋭く、まるでこちらを見下すかのような冷たさを帯びている。

 フリルのついたブラウスとスカートからは、決して妥協しないスタイルが窺え、彼女の存在感を一層際立たせている。

 その姿勢は威圧的で、まるで自らの権力を誇示しているかのようだ。

「先輩?」

 天羅は首を傾げ、どこか疑問を抱きながらその場を見つめた。

 目の前の先輩は、小柄で幼い顔立ちをしている。

 彼女の姿は、確かに威圧感を漂わせているが、その反面、子供のような無邪気さが垣間見える。

 先輩の短い髪はカールし、全体的に可愛らしい印象を与える。

 彼女の大きな目は、どこか挑戦的でありながらも、内心の不安を隠そうとしているように映る。

 服装はきっちりしているものの、どこか不自然なほどの完璧さが、まるで自分を強く見せようとする演技のようにも見える。

「もしかして、このわたしを知らないって言うの?」

「ま、まぁ…」

「世間知らずもいい所だわ。鹿毛搦 萌唯子って聞いた事ない?」

 彼女の言葉は、どこか威圧感を帯びている。

 先輩の姿は、まるで自分のアイデンティを他人に認めさせようとしているかのように強烈だ。

「ないですね」

 天羅は、はっきりと答える。

 萌唯子の顔が一瞬崩れ、手で顔を抑える。

 彼女の小さな体からは、信じられないという感情が滲み出ている。

 鹿毛搦 萌唯子かもがら めいこ
 14歳の彼女は、華やかなキャリアを持つジュニアモデルだ。
 10歳でデビューし、一躍スターダムにのし上がった彼女は、人気投票で1位に輝いたこともある。しかし、その輝かしい経歴の裏側には、少々やっかいな性格が隠れている。

「ねぇ、本当に知らないの?」

 と顔を隠したまま、萌唯子は言った。
 その声には、誇り高いプライドと、少しの苛立ちが混ざっている。
 彼女のスタッフに対する発言はいつもタメ語で、その立場にそぐわない態度が彼女の存在を物語っている。

 他者を見下すような言動に、周囲は少なからず距離を置き、彼女のわがままな態度は、いつの間にか人間関係を難しくしていた。

「新人ちゃんを苛めるのは良くないよ。知らないのは仕方ない」

 と、コルハの優しい声が控え室に響いた。

 周囲の空気が一瞬和らぎ、緊張感が和らぐ。

 彼女の存在は、まるで冷え切った場所に温かい光が差し込むようだ。

 コルハは穏やかな笑顔を浮かべながら、天羅の元まで近づいてくる。

 その姿には、天羅の不安や戸惑いを感じ取った優しさが溢れていた。

 萌唯子は、コルハの言葉に少し戸惑った様子を見せる。
 普段は周囲を威圧し、自分の立場を誇示する彼女も、コルハには抗えないのかもしれない。

「でも、私のことを知らないなんて失礼じゃないですか?」

 と反論しようとするものの、言葉に力が乗り切らない。

「憧れや興味。業界に足を踏み入れる理由は人それぞれだよ。先輩なら支えないとダメじゃない」

 コルハは萌唯子を優しく諭す。

「じゃあ、コルハさんが教えてあげればいいじゃないですか…っ!わたしは教える気、ありませんから」

 萌唯子は声を荒げてその場を後にした。

 その瞬間、空気が凍りつくような感覚が走り、天羅は驚きと戸惑いに包まれる。

 彼女の背中が扉に向かって遠ざかると、コルハも一瞬呆然としていた。

「萌唯子ちゃん…」

 と呟き、心配そうに目を細める。

「華崎さん、すみません」

 天羅が頭を下げると、コルハが慌てる。

「天羅ちゃんが謝ることないよ。でも、萌唯子ちゃんは誤解を生む事が多いけど勘違いしないでね」

 と、優しく告げた。

 コルハの言葉には、萌唯子の性格に対する理解が感じられる。

 彼女自身も様々な経験を経て、周囲の人々との関係がどう変わっていくのかを見守っているのだろう。

 天羅は少し安心し、コルハの気遣いに感謝の気持ちが芽生える。

「あんなに怒られると思ってなかったですよ」

 と天羅が心配そうに尋ねると、コルハは微笑みながら、
「萌唯子ちゃんは、誰かに自分の立場を脅かされるのを嫌がるの。だから、つい感情的になっちゃうんだよ」

 と何処か寂しそうに説明する。

 ☆☆☆☆☆

 鹿毛搦 萌唯子が、天羅に目を付けたのには理由があった。
 新人スカウトに伴い、AFAKE社の新規プロジェクトから外されたのだ。

 萌唯子は14歳という若さではあるが、卓越したスキルと経験はまさにプロと呼ぶには相応しい。

 もちろん、新規プロジェクトには萌唯子も起用されるはずだった。

「なんで、この私が外されなきゃいけないの!!」

 萌唯子は怒りを抑えきれず、机を叩いてマネージャーに直談判した。
 彼女の表情は怒りで歪んでいる。

「まぁ、上からの指示だしね…」

 と、マネージャーが言葉を返す。
 彼の口調には、どこか言葉を濁しているように感じられたが、その言葉は萌唯子には響かなかった。

「上からの指示?そんなの関係ないわ!私がこれまでどれだけ努力してきたか、知ってるはずでしょ!なんで私が外される理由があるの!?」

 彼女の声には、必死さと悔しさが混ざっていた。

 マネージャーは少し考え込み、真剣な表情で彼女を見つめた。

「萌唯子ちゃん、感情的にならないで。あなたの才能は認めているし、これからのチャンスはもっとあると思う。でも、今はこの決定には抗えないんだ」

 落ち着いた口調で説明する。

「私が外されるなんて、信じられない…」

 萌唯子は、心の奥底から湧き上がる不安と怒りを抑えきれず、振り返る。

「こんなこと、絶対に受け入れられない!」と、彼女は叫んだ。

 マネージャーは深い息をつき、少し残念そうな表情で答えた。

「分かるよ。でも、君のキャリアは長い目で見なければならない。まだこれからなんだから、それにね」

 マネージャーは言葉を続けた。

「新規プロジェクトは、新人らしさを全面的にPRするものだ。君はもう新人じゃないんだよ?」

 マネージャーの言う通りだ。
 彼女は14歳ながら、大人顔負けのプロの領域にいる。

 しかし、この新規プロジェクトは大きな計画でもあった。

 それは、彼女が外されたことで、これまで積み上げてきた地位が脅かされるものでもあったのだ。

 萌唯子はその影響を深く理解していた。

 プロの世界では、わずかなチャンスやポジションが、その後のキャリアに大きな差をもたらすことも少なくない。

「私の努力が無駄になるなんて…」という思いが心をざわめかせた。

 努力と情熱を持ってきた彼女にとって、このプロジェクトから外されることは、自分の価値を否定されるような衝撃だった。

 彼女が築いてきたものが、一瞬で崩れ去るという恐れが、萌唯子の心に影を落とす。

 周囲の新たな才能が次々と台頭してくる中で、競争が激化するのは目に見えた。

 このプロジェクトが成功を収めれば、その影響で新しいスポットライトが当たる若手たちが現れる。

 そして、彼女が蓄積してきた経験や地位が、他の新顔たちによって脅かされるかもしれないという不安が、まるで暗雲のように迫ってきていた。
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