巨体の猛獣アルファは、孤独な治療家を逃がさない~強姦から始まる夫婦生活~』

Aki

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7 連戦の獣、未来の話


朝の光が、ブラインドの隙間から治療院のバックルームに差し込んでいた。その一画にあるシャワールームからはパンッパンッパンッパンッと高い音が聞こえる。壁が抜けるんじゃないかというくらいのズン、ズン、とした揺れがも部屋に響きわたる。それもそのはず。
シャワールームの中では、鷹也が猛々しく腰を突き上げていた。持ち上げられ広は抵抗する術となく空中で揺らされていた。

「もっ……待って……おおい、さん……無理……ダメですっ…」

話し切る前に、広の口をキスで塞ぐ。大きく分厚い舌が広の口の中を這いずり周り、流されてきた唾液をごくんと飲み込んだ。

「無理なわけねぇだろ。こんなケツ、締めやがって。好きなんじゃねぇのか?ん?」

煽るかのような鷹也の発言に、本当は意義を唱えたかった。そのパワーはもうない。
されるがまま、鷹也の愛を受け取り続けていた。鷹也の鼠蹊部と広の尻がぶつかる度に高い音が響き渡る。シャワールーム全体が揺れているような激しい振動は徐々にそのテンポを上げていった。

「あぁー、やっべ、このケツ最高。先生、また中に出すからな。しっかり受け止めろよ!」
「あ……おおいさん…ダメです…これ以上は……あぁ!」

ハイテンポの振動で広を揺らし、最後に勢いよくパァンという衝撃音がした。

「っつ、ぐぁぁ、気持ちぃぃ、さいっこう!」

ドクドクと脈打つ鷹也自身を、身体の内側で受け止める。昨夜からあわせたら6回目だというのに、体内を押し返す、しっかりとした量を感じる。その感覚に支配されて広は、全身を痙攣させながら鷹也にしがみついていた。

「先生……大丈夫か?」
「あっ、無理。揺らさないで下さい…」

少しやりすぎたか?と思いつつも、自分の思い人が必死にしがみつく姿はなんともそそるものがある。7回目いけるか?…いや、それはさすがに可哀想か、と断念し広の中からゆっくり自身を抜いた。

シャワーの音が止み、むわっとした熱気と石鹸の香りが充満する狭い脱衣所に、鷹也のくぐもった笑い声が響いた。

「あー、最高にスッキリした!」

つい先ほどまで、シャワールームの壁に広を押し付けて激しく腰を打ち付けていた男とは到底思えない、清々しく生気に満ち溢れた声だった。黒く日焼けした分厚い大胸筋や、丸太のような腕を水滴が弾けながら滑り落ちていく。昨夜からの計6回戦をこなした40歳とは、医学的な常識を疑いたくなるほどの体力と回復力だ。
対する広はといえば、タイルの壁に背中を預けたまま、ズルズルと座り込みそうになっていた。

「……っ、う……」

腰から下が完全に抜け落ち、自分の脚の感覚がまともにない。ただでさえ昨夜の5回戦で限界を迎えていたというのに、立ったまま、しかも自身の体重と鷹也の激しい突き上げを下半身だけで受け止めたのだ。日頃からトレーニングをしているとはいえ、35歳の広の身体は完全に悲鳴を上げていた。

「おいおい、大丈夫か? ほら、捕まれ」
「……誰の、せいで……っ」

息も絶え絶えに恨みがましく睨みつけるが、鷹也は全く悪びれる様子もなく「わりぃわりぃ」と無邪気に笑い、広の脇の下に太い腕を差し入れた。
ひょいっ、と。
177cm、69kgある大人の男の身体が、まるで羽毛のクッションでも扱うかのように軽々と持ち上げられる。鷹也は片腕で広の腰を抱きかかえたまま、空いた手でバスタオルを取り、まずは自分の身体をガシガシと乱暴に拭き上げた。

そして、別の乾いたタオルを取ると、今度はぐったりしている広の身体を、ぽんぽんと水気を吸い取るように優しく包み込んで拭いていく。

「……自分で、拭けますから……」
「いいから大人しく甘えとけ。まともに立ってられねぇだろ」

有無を言わさぬ強引さで全身を拭き上げられると、鷹也はそのまま広を抱き抱え、バックルームの居住スペースへと歩き出した。
広のプライベートスペースは、必要最低限のものしか置かれていない。シングルサイズのシンプルなベッドに、小さなローテーブル、一人用の冷蔵庫と、数着の服がかかったハンガーラック。一人で静かに、孤独を愛して生きるために整えられた、真っ白でノイズのない空間だ。

しかし今、そのミニマルな空間は、100kgを超える巨躯を持つ猛獣の存在感によって、完全に塗り潰されていた。
鷹也は広をベッドの端にそっと座らせると、自分もその隣にどしりと腰を下ろした。ギシッ、とベッドのフレームが悲鳴を上げる。

「先生、髪長めだからちゃんと乾かさねぇと風邪ひくぞ」

鷹也は洗面台からドライヤーを持ってくると、コンセントを繋ぎ、広の背後に回った。
ブォォォォン、と温かい風が広の頭部を包み込む。
鷹也の巨大でゴツゴツとした手が、広の少し長めのサラサラとした前髪や襟足を、意外なほど繊細な手つきで梳いていく。

「……大井さん、手慣れてますね」
「まぁな。パーソナルで客のケアもするし、自分の身体のメンテにも気を使ってるからな。……でも、他人の髪乾かしてやんのは、すげえ久しぶりだ。つーか、俺のことは鷹也でいい」

温風と、頭皮を撫でる太い指の感触が心地よい。広は目を閉じ、全身の力が抜けていくのを感じていた。
だが、鷹也の「ケア」は純粋なものだけでは終わらなかった。
ドライヤーを持つ手とは反対の手が、広の首筋から鎖骨へと滑り降り、昨夜自分がつけた無数の赤い痕を愛おしげになぞり始める。さらには、髪をかき分けたうなじに、チュッ、と幾度も熱いリップ音が落とされた。

「んっ……鷹也、さん。くすぐったい……っ」
「ん? 嫌か?」
「嫌じゃないですけど……髪、乾かしてるんだから、集中してください」
「集中してるよ。お前の匂い嗅ぐのにもな」

事あるごとにイチャイチャと触れてこようとする鷹也の体温。首筋に顔を埋め、まるで自分の所有物であることを確かめるように深く息を吸い込むその仕草に、広の胸の奥で、甘い痺れと同時に、どうしようもない「困惑」がじわりと頭をもたげた。

(……どうして、こんなに大事にされるんだ?)

広は、他人に「積極的に愛されること」に全く慣れていなかった。
大学生の頃、同性に想いを寄せた時に叩きつけられた「気持ち悪い」という言葉の呪縛。それ以来、自分から誰かに深く踏み込むことも、踏み込まれることも避けて生きてきた。
だから、鷹也のようにストレートで、隠し事のない、圧倒的な熱量を持った愛情表現を真正面からぶつけられると、どう応えていいのかが全く分からないのだ。

「……鷹也さん」

ドライヤーの音に負けないよう、広は少しだけ声を張った。

「ん? なんだ?」

鷹也の手が止まり、ドライヤーのスイッチが切られた。ふっと訪れた静寂の中、広は自分の膝の上で、ギュッと両手を握りしめた。

「俺に……どんなことをして欲しいですか?」

不意の問いかけに、鷹也は目を丸くした。

「どんなことって……治療の話か?」
「違います」

広はゆっくりと振り返り、鷹也の顔を見上げた。
「さっきも言いましたけど俺は男で、もう35です。女の人みたいに可愛く甘えたりもできないし、気の利いたことも言えません。鷹也さんは今、すごく俺を大事にしてくれているけど……俺は鷹也さんに、何を返してあげられるのか分からないんです」

口に出してしまうと、自分の不器用さが浮き彫りになるようで惨めだった。
与えられるばかりで、返し方が分からない。こんな無愛想な男のどこが良いのか。一時的な熱病のようなもので、いつか「つまらない」と飽きられてしまうのではないか。その恐怖が、広の瞳を微かに揺らしていた。
数秒の沈黙の後。
鷹也は大きく息を吐き出すと、太い両腕で広の身体を正面からすっぽりと抱きしめた。

「……バカだな、お前は」

呆れたような、けれど底抜けに優しい声が頭上から降ってくる。

「俺はお前に、何か特別なことをして欲しくて抱いたわけじゃねぇよ。可愛く甘える? そんなの他の女にやらせとけばいい。俺はお前の、その無愛想なくせに治療になると真剣な顔になるとことか、俺の下で必死に声殺して啼いてたエロいとことか、そういう全部が好きなんだよ」

鷹也の大きな手が、広の背中をゆっくりと撫でる。

「強いて言うなら……普通の恋人同士みたいなことがしたい」
「……普通の、恋人同士?」
「あぁ。俺は今まで女としか付き合ってこなかったけど、相手がお前に変わっただけで、やりたいことは普通の男女のカップルと何も変わらねぇんだよ」

鷹也は少し身を離し、広の目を見て一つ一つ指折り数えるように話し始めた。

「例えばさ、今日みたいな休日は、こうやって朝から一緒にのんびりして、遅めの朝飯を一緒に食う。美味いコーヒー淹れてさ」
「……はい」
「俺の大会が近くなったら、栄養の知識があるお前に、減量食のメニューを一緒に考えて欲しい。で、大会当日は客席で見守ってて欲しい。俺がお前を守るための筋肉を見せつけるから」
「……」
「仕事が終わったら、たまには外で待ち合わせてメシ食いに行く。人目が気になるなら、テーブルの下でこっそり手ぇ繋ぐのもいいな。……そういう、当たり前のことでいいんだよ。俺が『好きだ』って言ったら、お前も『俺も好きだ』って返してくれるだけで、俺は最高に満たされるんだ」

鷹也の描く未来の計画は、驚くほどささやかで、温かく、そして「日常」に根ざしたものだった。
男同士だからといって、特別な関係を強いるわけではない。ただ、好きな相手と当たり前に愛を育み、生活を重ねていきたいという、純粋で真っ直ぐな願い。
その言葉を聞いて、広の心に長年張り巡らされていた分厚い氷の壁が、完全に音を立てて溶けていくのを感じた。

(……なんだ。難しく考えていたのは、俺の方だったのか)

「……料理は、自分のためにしか作ったことないから、美味しいか分かりませんよ。減量食なんて、特に味気ないし」

広は少しだけ顔を赤らめながら、ぽつりとこぼした。

「お前が作ってくれたもんなら、鶏胸肉とブロッコリーでもフルコースより美味く感じる自信があるね」

鷹也がニカッと、少年のような無邪気な笑顔を見せる。

「……大会の応援は、目立つから後ろの方の席でこっそり見ます。鷹也さん、デカくて目立つから、俺まで注目されたくないですし」
「ダメだ。一番前の特等席に座らせて、俺がポーズ決めるたびに手振らせてやる」
「絶対に嫌です、恥ずかしい」

軽口を叩き合いながら、広の唇には自然と柔らかな笑みが浮かんでいた。
受け入れるのが怖かった。傷つくのが恐ろしかった。だが、この底抜けに明るく、強引で、愛情深い男となら——「普通のカップル」として、穏やかで温かい日々を紡いでいけるかもしれない。

「……鷹也さん」
「ん?」
「……朝ごはん、作ります。冷蔵庫に、卵とトマトくらいしかないですけど」

広はそっと鷹也の腕から抜け出すと、少しだけ痛む腰をかばいながら立ち上がった。
その不器用な歩み寄りに、鷹也の顔がパッと輝く。

「マジで!? よっしゃ、手伝う! 何すればいい?」
「鷹也さんは大きすぎて邪魔だから、座って待っててください。あ、でもコーヒーは淹れてもらおうかな」
「任せとけ。俺の淹れるコーヒー、めちゃくちゃ美味いぞ」

狭いバックルームに、二人の笑い声が静かに溶け合っていく。
規格外の身体を持つプロボディビルダーと、孤独を愛していた鍼灸師。全く違う世界を生きてきた二人が、初めて「普通の恋人同士」としての第一歩を踏み出した、穏やかで幸福な朝の光景だった。
定休日の静かな治療院を、コーヒーの香ばしい匂いと、甘く満ち足りた空気が優しく包み込んでいた。
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