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第九話
しおりを挟むドンッ、と冷たいドアに背中を押し付けられ、幸広は息を呑んだ。
目の前に立つ智也の瞳には、先ほどまでの泥酔した様子など微塵もない。アルコールで火がついたアルファの凶暴な独占欲だけが、ギラギラと暗い光を放っている。
(騙したのか……っ!)
『ゆきひろぉ……』と泣きついてきたあの姿は、幸広の同情を誘い、この部屋に連れ込むための罠だったのだ。昔から要領が良く、頭の回転が早かった親友の悪知恵が、こんな最悪の形で自分に向けられるとは。
「幸広。お前が俺の部屋にいる。俺のベッドの前にいる……。夢みたいだ」
智也の大きな手が、幸広の頬を撫でる。
その指先から伝わる異様な熱と、まとわりつくような重いフェロモンに、幸広は全身の毛を逆立てた。
(触るなっ!)
幸広は両手で智也の胸板を力一杯突き飛ばし、横に逃げようとした。
しかし、現役の柔道特待生である智也の反応速度は、幸広のそれを遥かに凌駕していた。
「っと、危ねぇ」
智也は幸広の腕をいとも簡単に絡め取ると、そのままの勢いで幸広の身体を宙に浮かせ、背後に口を開けていたベッドへと乱暴に投げ飛ばした。
「――っ、んっ!」
スプリングが軋む音と共に、幸広の身体がシーツに沈み込む。
すぐさま跳ね起きようとしたが、智也が素早く覆い被さり、幸広の腰を重い体重で完全に押さえ込んだ。
「暴れるなよ。お前、昔から受け身は上手かったけど、寝技は俺の方が得意だったの、忘れたのか?」
耳元で囁かれる、かつての部活の思い出。しかし今の状況で聞くそれは、絶望的な力の差を見せつける残酷な宣告でしかなかった。力では勝てず幸広が履いていたデニムとパンツをあっという間に引きずり下ろし、下半身が無防備びさらされる。
「エロっ……あ、」
智也はベッドの脇にあった引き出しから、何本かの太い革ベルトを掴み出した。
柔道着をまとめるためのものか、それともトレーニング用か。用途はわからないが、智也はそれを手際よく幸広の足首と太ももに巻きつけ始めた。
(なにして……っ、やめろ、やめろ!!)
幸広は声にならない悲鳴を上げながら、必死に脚をバタつかせて抵抗した。しかし、智也の容赦ない力によって、右の太ももがベッドの頭側にある太い支柱にガッチリと縛り付けられる。続いて左の太ももも、反対側の支柱に固定された。
「よし。これで動けないだろ」
智也が満足げに息を吐く。
両脚を左右に大きく開かれ、ベッドに固定された状態。それは、逃げ場がないだけでなく、オメガとしての秘部をアルファの前に完全に無防備に晒すという、あまりにも恥辱的な体勢だった。
鍛え上げられた幸広の筋肉質な脚が、皮肉にもその無様なV字の体勢を維持してしまっている。
「んんっ……!、んっ……」
屈辱と恐怖に、幸広の目からボロボロと涙がこぼれ落ちた。
智也の手が、幸広のシャツのボタンを引きちぎるように外し、素肌を露わにする。そして、幸広の両手首を掴もうと手を伸ばしてきた。
(……っ!!)
拘束される。そう直感した幸広は、咄嗟に両手を跳ね上げ、自分の首の後ろ――『うなじ』を、強く、強く覆い隠した。
脚を開かれようと、身体を蹂躙されようと、これだけは絶対に守らなければならない。あの日、四人に囲まれても最後まで死守した、オメガの急所。
番(つがい)の刻印だけは、絶対に刻ませない。
幸広はガタガタと震える両腕に全身の力を込め、首を丸めて防御の姿勢をとった。
しかし、智也は幸広の手を無理やり引き剥がそうとはしなかった。
それどころか、喉の奥で低く笑ったのだ。
「……お前、手は抵抗しないの? ああ……なるほどな。うなじを守ってんのか」
智也の目が、いやらしく細められる。
「両手でそこを守ってるってことは、お前の下半身は、俺に好き勝手されても抵抗できないってことだろ?」
「――っ!?」
ハッとして幸広が目を見開いた時には、すでに遅かった。
智也の顔が幸広の胸元に沈み込み、鍛えられた大胸筋の突起を、鋭い歯を立てて強く吸い上げたのだ。
「!?んんっ!!…………っ!!」
うなじを守るために両手を首の後ろで固定している幸広は、智也の頭を突き飛ばすことも、その凶悪な愛撫を振り払うこともできない。
大きく開かれたまま固定された太もも。ガラ空きになった身体を、智也の熱い舌と手が、文字通り『くまなく』舐め回し、愛し尽くしていく。
「すげぇ良い匂い……。幸広、幸広……っ、俺、ずっとお前に触りたかった」
智也の唇が、首筋から鎖骨、腹筋へと這い下りていく。
そのたびに、アルファの唾液に含まれる『アルファソース』が幸広の肌から吸収され、オメガの身体を強制的に発情へと導いていく。
「ひ……ん……、………っ」
かすれた息の音が漏れる。
嫌だ。智也は親友だったのに。一緒に笑って、一緒に全国大会を目指して汗を流したのに。
どうしてこんな、獣みたいな目で俺を見るんだ。
「お前を離したくない。他のやつになんか、絶対触らせたくない。……お前は、俺だけのものだろ?」
智也の独占欲にまみれた重い言葉が、幸広の耳にこびりつく。
大きく開かれた脚の間、すでに愛液でドロドロに濡れそぼっていた幸広の入り口に、智也の指が這っていく。中指があっという間に侵入し、すぐに人差し指を入れて中を確かめるように蠢いていく。
「すご……あの時よりグチョグチョで感じてんな」
(感じてなんかいない!)
無言の抵抗虚しく、智也の指は中を掻き回す。
暗い部屋中に水温が響きわたり、それに合わせて幸広の嗚咽が混じっている。
「あーやっべ、もう我慢できねぇわ」
指を引き抜き、智也の熱く硬いペニスがゆっくりとあてがわれた。
(だめだ……っ、入る、やめ……っ!!)
「幸広。全部……受け入れてくれ」
「んぁっ!! ――っ、んんんっ!!」
両脚を縛られているため、逃げることも、腰を引くこともできない。
智也の巨大な熱が、何の抵抗も受けずに幸広の最奥まで一気に突き入れられた。
「はぁっ……! すげぇ、幸広、お前の中、熱くて、こんなに締まって……っ!」
智也が荒い息を吐きながら、容赦のないストロークを開始する。
柔道で鍛えられた智也の腰の動きは力強く、深く、そして執拗だった。
うなじを守るために首の後ろで組まれた幸広の両腕は、激しい律動に合わせて無様にシーツに擦れ、ガタガタと震えている。
「ふ、んっ、ひん、……っ!」
憎い。こんなことをする智也が憎い。
なのに、両脚を縛られ、ただただ智也の巨根を受け入れるしかなくなった幸広の身体は、アルファソースの劇薬によって完全に支配され、恐ろしいほどの快感を拾い上げてしまっていた。
(ちがう……こんなの、俺じゃない……っ!)
男としてのプライドが、親友に抱かれる屈辱が、ドロドロの快感に塗り潰されていく。
智也は幸広の全身にキスマークを刻みつけながら、「俺のオメガ」「誰にも渡さない」と、呪いのような愛の言葉を囁き続けた。
うなじを守る代償として、他の全てを明け渡してしまった幸広。
大きく開かれた脚の先で、幸広は抗えない本能の波に飲まれ、自ら腰を震わせて智也の快楽に沈んでいくしかなかった。
防音の壁もない普通のアパートの一室。
声を殺して泣き咽ぶ幸広の涙を、智也は狂おしいほどの愛おしさで舐め取っていた。
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