異世界の聖杯を拾ったら後輩系彼女ができた件

三色ライト

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27話 正輝の策

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 待つのも虚しく、時間だけが過ぎていった。

「いいぜ、約束してやるよ。聖杯で願いを叶えても、お前には手を出さないと」

「リディアにもだ」

「ちっ、分かったからさっさと持ってこい」

 俺はリュックサックを前に掛け、一段一段ゆっくりとメゾングレイルの階段を降りていく。

 道路に降り立って、グリスティンと向き合った。大怪我をしているというのに、この圧倒的な存在感。半端じゃない。

 リディアは俺に続いて階段を降りてきた。その顔には心配と不安が張り付いている。

「リディア、ごめんな」

「正輝さん……」

 悔しそうだ。その気持ちは痛いほどわかる。

「おらぁ! なにモタモタしていやがる!」

「せっかちだな、嫌われるぞ」

「上等だ。俺を嫌う奴はどこにいようがすり潰してやるよ」

 過激な男だ。

 俺はリュックサックを前に掛けたまま歩き出す。

 一歩踏み出すたびに目に映るグリスティンが大きくなっていく。

 怖い。
 逃げたい。

 本音に蓋をして、俺はグリスティンに聖杯を手渡せる距離まで近づいた。

 目の前のグリスティンがニヤッと笑う。

「さぁ、聖杯を渡しな」

「あぁ」

 俺はリュックサックの口を開け、聖杯を取り出した。

 聖杯は軽く、俺でも簡単に持ち上げられる。グリスティンが重みでふらつくなどあり得ないだろう。

「ほら、聖杯だ」

「ははっ、ははははっ!」

 グリスティンはようやく掴んだ聖杯に興奮を隠しきれていない。

 笑い、叫び、小躍りする。

 歓喜を全身で表現していた。そのせいで傷口が広がり、出血が進もうとも。

「ついに、ついにだ! 聖杯が俺のものになった! これからは、俺の時代だ!」

 グリスティンは聖杯を天に掲げた。

「さぁ俺の願いを叶えろ! 俺の願いは、邪神と同じ力を手にすることだ!」

 ついに、願いが聖杯に届けられた。

 ……が、聖杯は何の反応も示さない。

「なにっ!?」

 今だ!

 俺はリュックサックに隠してあった包丁で、グリスティンの腹を突き刺した。

 人肉を切る感覚。
 気持ち悪い。

 流れる生暖かい血が手に絡む。
 気持ち悪い。

 自分が人を傷つける様子が、ありありと目に映る。
 気持ち悪い。

 ともかく、最悪であった。
 だが1番最悪なのは、刺された張本人だろう。雄叫びをあげ、膝をついた。

「あ……ぐあぁぁっ!」

「はぁ、はぁ」

「正輝さん!」

 リディアが駆け寄ってきた。何が起きたかわからないと強く主張するような顔で。

「クソが! 何で俺の願いが叶わない!」

「悪いなグリスティン。その聖杯は偽物だ」

「偽物だと!?」

 俺はリディアと大須商店街に行った時、彼女と別れてアニメショップに行った。

 そこにはコアなグッズが売っており、俺の予想通り聖杯を模した金属製の杯も売っていた。

 俺はその時買った偽物を、グリスティンに渡したわけだ。

 聖杯自体から魔力が漏れていないと聞いた時、俺の悪知恵が働いた。それならば、偽物を渡してもバレないのではないか、と。

 リディアも俺も顔に出るタイプ。だから嘘がバレる確率を減らすために、リディアには黙っていたわけだ。敵を騙すには味方からとは言うが、まさにだったな。

「聖杯が題材のアニメ、流行っていたんでね」

「くそ、くそがっ、あああっ!」

 グリスティンは力を入れて立とうとするが、元から重傷な上にトドメの一撃。立てるはずもなかった。

 そう、立てるはずなどないのだ。

「[イビル・ブレイズ]」

「なにっ!?」

 グリスティンは手に闇色の炎を纏わせ、己の傷口を焼いていった。

 何をしているのか理解できなかったが、思い返せばライトノベルでこんな展開があった。自分の傷口を塞いで、出血を止めているのだ。

「ま、正輝さん……」

「離れるぞリディア! ここは危険だ」

「遅いぞ、バカが」

「ぐあっ!?」

 俺の肩を、グリスティンが掴んだ。もちろん軽くなどという言葉は枕には付かず、肩の骨が砕けるかと思うほど強く掴まれている。

 グリスティンは俺の肩を支えに立ち上がった。そして、

「むんっ!」

「ゴッ!?」

 満身創痍の体で俺に殴りかかった。奴の拳は俺の腕に当たった。

 何メートル吹っ飛んだことだろう。腕が痛い上に思うように動かない。折れているのだろうか。

「くそっ!」

「[ホワイト・フレアデス]」

「洒落臭ぇ!」

 リディアの炎を真正面から受け、そして吹き飛ばした。

 いったいどこからそんな力が湧いてくるのか。それほどまでに弱っているはずのグリスティンですらも、俺たちなど蟻に等しいのかもしれない。

 はは、ここまで悪知恵働かせても、まだダメだったか。

 諦めかけた、その時だった。

「うあああっ!」

「出たなクソ女!」

 現れたのは銀の風。

 銀の剣を振るい、グリスティンに襲いかかる。

「だあっ!!」

 もはや開き直ったヤケとも言える力で、グリスティンはオーヴェリアの剣を受け止めた。

 再び距離を取り、俺たちとグリスティンの間に立ったオーヴェリアは、初めて俺に優しい笑顔を向けた。

「よく頑張ってくれたな。あとは任せてくれ」

「でもオーヴェリアさんだって……」

 そう、オーヴェリアも満身創痍である。

 左腕が折れているのか、ぷらんと力なく垂らしている。

 足や頭には火傷のような痛々しい傷が残っており、出血もしていた。

「お前たちに頑張らせて、私だけサボるわけにはいかない」

 オーヴェリアは胸を張り、銀剣を構えた。

「最終決戦だ、グリスティン・ワルディアルよ。貴様をこの世界の墓に埋めてやる!」

「やってみろ! テメェは切り刻んで、ペットの亀の餌にしてやる!」

 オーヴェリアとグリスティンによる、最後の戦いが始まった。
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