異世界の聖杯を拾ったら後輩系彼女ができた件

三色ライト

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28話 聖杯、起動

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 オーヴェリアとグリスティンの戦いが始まる一方、俺とリディアは尻餅をついて、力なく座る。

「正輝さん、私は……」

「見守ろう。俺たちにはそれしか……」

 そう言った俺だが、そんなことはない。

 俺の悪知恵は、奴に通用した。それは間違いない。深手を負わせ、いまオーヴェリアの助けになっている。

 まだだ、まだ俺にはこの戦局を動かせる悪知恵があるはずだ。

 徐々にだが、オーヴェリアが押され始める。早く、早く思いつけ!

 ふと、ぽつりリディアが涙を流した。

「オーヴェリア様……私はまた、守りたいものを守れない……」

「……それだ!」

「へっ?」

 何を忘れていたのか。

 俺には俺にしかない、最強のアイテムがあるではないか。

 俺はリュックサックから黄金に輝く杯、聖杯を取り出した。今度は偽物ではなく、本物である。

「リディア、聖杯を使わせたくない気持ちは変わらないか?」

「もちろんです!」

「なら、守りたいものを守る力が欲しい気持ちも変わらないか?」

 リディアは押されるオーヴェリアを一瞥して、首を縦に振った。

「そんなの、不変に決まっています!」

「それなら……俺のことを軽蔑してくれても構わない。嫌いになっても構わない。だが、もう自分を責めるのはやめてくれ! 俺が代わりに、罪を背負う!」

「まさか……まさか正輝さん!?」

 俺は聖杯を、両手で持って天に掲げた。

 痛む腕も忘れて、一心不乱に叫ぶ。 

「聞け聖杯! 俺の願いは……リディア・キューライスに、彼女が守りたいものを守る力を与えることだ!」

 刹那、聖杯は黄金の光を放った。

「まさか、貴様! 聖杯を使ったのか!?」

 グリスティン・ワルディアルが叫ぶ。二言目以降は、聞くに耐えない罵詈雑言だった。

 奴が駆け出し、俺を殺そうとする。だが聖杯の魔力なのか、黄金の結界が邪魔して一定の距離以上は近づけないようだった。

「ぐっ! くそ! 俺の聖杯を……」

「誰の物だって?」

「往ねオーヴェリア! お前が邪魔しなければ……うあっ!?」

「ぐっ!」

 グリスティンもオーヴェリアも、聖杯の魔力に吹き飛ばされる。

 吹き飛ばされていないのは、聖杯を持つ俺と、黄金の魔力に包まれたリディアだけだった。

「こ、これは……」

「聖杯からのプレゼントかもな」

 黄金の魔力はリディアの体に染み込んだ。そして魔力がすべて染み込んだ時、聖杯は粒子になってこの世から姿を消した。 

「さぁリディア、お前は守りたいものを守る力を持っている。あとはどうする?」

 俺の問いに、リディアは俯いた。

 しかしすぐに顔を上げ、凛々しい顔を見せてくれた。

「……最低です。聖杯の力を使うなんて」

「そうだな、悪い」

 謝っても、謝りきれない。リディアとその仲間たちが大切に管理していたものを俺は使ったのだから。

 でも罪を背負う覚悟ならとっくに決めている。これで嫌われようとも、リディアにもう2度と、自分を責めてほしくないんだ。

「謝罪の言葉、考えておいてくださいよ」

 そういって、リディアは俺の鼻先を人差し指で突いた。

「謝罪の言葉より愛の言葉をかけたいな」

「あっ、相変わらず、ば、バカな人です!」

 今回は、顔を隠さなくていいらしい。自分に自信がついたのだろうか。

 ならば、俺にできる最後のことは笑顔で送り出すのみ。

「……行ってこいリディア。みんなへの思いを乗せて、暴れるんだ」

「……はい。行ってきます」

 優等生リディアは、舌を出して駆け出した。標的はもちろん、尻餅をついているグリスティン・ワルディアル。

 リディアは駆けた勢いそのままに、細い足でローキックを振り切った。

「雑魚が、今さら……なにっ!?」

 グリスティンの防御も虚しく、奴は縁石まで吹き飛ばされた。

「不思議です。まるで元から強かったような感覚」

「ふざけたことを! [イビル・デクトロン]」

「[ホワイト・フレアデス・サグラード]」

 黄金の炎が、闇色の波を飲み込んでいく。体積も実力も関係なしにかき消して、グリスティンの顔から表情を消させた。

「ば、バカな……」

「貴方には言いたいことが山ほどあります」

 リディアは悲しい顔で、グリスティンを見下ろした。その目は初めて見るほどに冷たい目をしている。

「でももう結構です。早急に向こうへ行き、罪を償ってください」

「待って。待ってくれ。話を聞いて……」

「あなたはそう言う私の仲間の話、聞いたことありましたっけ。[ホワイト・フレアデス・サグラード]」

 再び現れた黄金の炎は、悪人グリスティン・ワルディアルを飲み込んだ。

 叫びもない。命乞いも聞こえない。

 ただ無慈悲に、炎は悪人の体を焼き尽くした。

 ……終わったんだな。いや、リディアの思いが終わらせたんだ。

 リディアは膝を折り、その場で指を組んで祈りを捧げた。
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