悪役令嬢はもう疲れた

てる

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意地悪な魔導師

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「はぁ…やっちゃったわね…。」

勢いで殿下に好き勝手言ってしまった事に頭を抱える。少し落ちついて思い返せば、私はとんでもなく無礼な事を次期国王にしでかしたのだ。

「国外追放は私だけにしてよね…家族に迷惑なんてかけたくないもの…。」

柔らかい笑顔の父といつもなんだかんだ優しくしてくれる兄を思い浮かべる。母は私が幼い時に病気で亡くなってしまっているが、私はこの4人家族が何よりも大切で大好きで、私と同じくらい彼らも家族である私を大切にしてくれている。
そう考えると1周目の人生とは何もかもが変わっていた。1周目の父と兄は怠惰で傲慢な態度の私に呆れて見限り、国外追放される前に家族の縁を切られた程、淡白な関係だった。しかし、何もかも私の行いが悪かったのだと今ならば分かる。その証拠に、何事にも真摯に取り組み、傲慢でなくなった今の私に2人はとても良くしてくれている。

「2人には、また悲しい顔させちゃうわよね…。」

1周目はともかく、性格を矯正した2周目3周目の人生では婚約破棄をされた私と共に悲しみ怒ってくれた2人だ、今回で3回目だが大切な人達が自分のせいで悲しむ辛さには慣れない。

「あーあ、今回はすっぱりすっきり諦めた!たとえ国外追放されなくても、今後も貴族社会で生きていくなんてごめんだわ。後ろ指をさされるに決まってるもの。森に小屋でも建てて慎ましく生活するの、動物さんと自然に囲まれた自由な生活よ今までの生活より断然いいわ!たまにお父様とお兄様に会いに来れたらそれで満足よ。」

うんうんと自分に言い聞かせるように首を縦に振る。

「なーにが満足なんだ?」

ベンチに座っていた私の頭に、何者かが手を置いた。急な感覚に「ひっ!!」と思わず間抜けな声が出る。

「今回もダメだったのか?4週目のご令嬢」
後ろを振り返ると、ルビー色の瞳をした美少年がにやにやと意地の悪い笑みを浮かべて立っていた。

「なんだガルフか…えぇ、ダメダメだったわ今回も。あとその顔やめて。」

「そうか」と言って未だにやにやした顔をやめない彼は、私にやり直すチャンスを与えてくれた張本人ガルフレッド・シュライン。1周目の国外追放時の馬車に突如現れ、私のこれまでの行いについての反省や後悔の話を聞いた後に「もしも、人生をやり直せると言ったらお前は戻りたいか?」と怪しげな提案をしてきた男だ。私と同じくらいの歳(18歳ほど)に見えるが魔導師界きっての天才であり、世界に3人しか操ることのできない時空魔法を使うことができる。(だがいくら天才と言っても、遡ることができる年数は10年までと決まっている。)

彼は私を24時間見張っているのではないかと疑う程、毎回婚約を破棄された直後にタイミング良く私の前に現れる。何度も話すうちに自然と仲良くなって、今ではビビ、ガルフと愛称で呼び合うまでの仲になった。

「で?やっと諦めたんだ?あの王子様の事」

「えぇ、今回で綺麗さっぱり諦めたわ。今まで何度も何度もありがとう。結局、結末は同じだったけどガルフのおかげで得たものもたくさんあったの。本当にありがとう。」

そう言って微笑むと「ビビのくせに変な顔で笑うな。」と不機嫌そうな顔でクシャクシャと乱雑に私の頭を撫でた。

「ちょっ…グシャグシャにしないでよ!…今日は一応殿下との…約束があっ…たから…綺麗に…して…っ」

止まった筈の涙が頬を伝っていく。淡い期待をして綺麗に結い上げた髪の毛も、気合を入れたお化粧も今となっては何の価値もないもので、数時間前に浮かれ気分で鏡の前に立っていた自分がバカらしく思えた。

「お前は弱虫なんだから無理して笑うなよ。涙と鼻水でグチャグチャになってる顔の方が似合ってるぜ~。」

「っうる…さい…っばか…っ」

憎まれ口を叩きながらも背中を撫でてくれるガルフの手は底無しに優しいもので、私はそれに甘えて涙が枯れるまで泣き続けた。これが最後の涙。私の油汚れのようにしつこい恋心もこれで流しきってしまおう。


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