悪役令嬢はもう疲れた

てる

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魔獣の森

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「あー!すっきりした!」

「…俺のローブを引き換えにな…」

そう言って私の涙やら鼻水やらでビチョビチョになったローブの裾を持ち上げる。

「グッ…洗って返します…。」

「いや、別にいい。それより、いつもに増してひでー顔だ。これで冷やしとけ。」

そう言って、大きな鞄の中から巾着袋のようなものを取り出し、それに向かってボソッと「アイス」と唱えると巾着袋の中に丁度いい量の氷が生み出される。それを私の顔に押し付けるガルフは口は悪いが、とてもいい友人だ。

「ありがと…」

さっきまで興奮して泣いていたせいか私の顔は熱を持っていた為、ヒヤッとする氷の感覚が心地よい。パンパンに腫れているであろう目蓋に巾着袋を当てるとスーッと気持ちまで楽になっていった。

「で?これからどうすんの?もうやり直さないんだろ?」

「うん。このまま貴族社会で生きていくのも辛いし森の奥へ失踪しようかなって考えてる。」

そういうと、「ブフッ!!」と噴き出すような音が聞こえてきた。巾着袋を当てている為、ガルフの顔は見えないが今頃目を見開いて心底驚いた顔をしているところだろう。

「…っおま…馬鹿だろ?」

ガルフのレアな驚き顔を拝んでやろうと巾着袋を目からずらすと、想像以上に驚いた顔のガルフがいた。「信じられない」とでも言うように真っ赤な瞳をこれでもかと見開いていて、その顔に思わずクスッと笑みが溢れる。

「馬鹿じゃない本気。」

「いくら箱入り娘の貴族のご令嬢であるお前でも森は魔獣がわんさかいる危険な場所だって知ってるはずだろ?それに今まで、身の回りの世話を何から何まで使用人にやってもらってきたご令嬢が森で暮らすなんてできるわけない!」

ガルフの言う通り森は非常に危険な場所だ。そこら中に魔獣がうろついている為、相当腕が立つ者でなければ森の中で生活をするなんて到底無理だろう。それどころか森に立ち入る人も少ない。だからこそ、私は森で生活したいと考えたのだ。しかも、私は戦闘はからっきしだが、そんな過酷な環境の中でも生き残れる確信があった。

「ガルフ…私は4周も同じ事を続けてきた訳じゃないわ。万が一ダメだった時のために逃げてしまえるように魔法を満足に使う訓練をしてきたのよ。特に結界魔法をね。他の魔法じゃガルフの足元にも及ばないけど、結界魔法だけはガルフと並ぶくらいの実力があるわ。」

そう言って目を閉じて「シールド」と唱えると目には見えないものの、確かに不思議なオーラを纏った感覚がある。これが結界魔法と呼ばれるものであり、私に害を加えるあらゆるものから私の身を守ってくれるものだ。そんな私の結界魔法を見て、ガルフは更に目を見開く。

「全く…ほんとにお前って奴は…俺の想像の斜め上を行くっていうか…」

「まず小屋にはうんと強い結界を張るつもりよ、そこから生活面のことだけど今まで貯金していたお金で野菜の種を買って畑を作りたいと考えてるの、余った野菜は売ることもできるでしょう?それに森には珍しい薬草がたくさん生えてるから採集して薬を作れるようになりたいと思ってるわ。それで、家事は…」

「分かった分かった!お前が本気な事は分かった!別にあの結界魔法を見せられた後で反対するわけではない。けど、1ついいか?」

「えぇ、なに?」

「お前がその…人と関わりたくなくて森に隠れるのは分かったんだけど…その、たまになら会いに行っていいか?」

後ろの方になるにつれて言葉が弱くなっていく。いつもの強気な表情はどこへやら眉を下げて自信がなさそうに問いかけるガルフを見て私は意地悪な笑顔を浮かべる。

「嫌って言っても来るくせに。」

「なっ!!…嫌なのかよ…」

「…ふふっ…仕方ないなーガルフは特別ね。」

私の言葉にコロコロと表情を変えるガルフがおかしくて、ついつい弄ってしまう。ガルフは私が関わりあいたくないと思っている他の貴族達とは違う。何度も人生を繰り返していく中で、唯一私の秘密を共有しているガルフの存在はいつの間にか私の中で大きなものになっていた。言うなれば父や兄のようなかけがえのない存在になっていたのだ。












 

ーーーーー世界に3人しかいない天才魔導師だなんて、彼のこんな様子を見たら誰が思うだろうか。先程、少女に告げられた「特別」と言う言葉に自然と熱くなっていく顔をワタワタと隠す。たった1人の少女の言葉に一喜一憂する姿は誰がどう見ても

「…特別ってなんだよ…ばーか…」



ーー恋をする少年にしか見えないだろうーー

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