悪役令嬢はもう疲れた

てる

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夜の森

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屋敷を後にしてから数十分が経った。黒いコートにフードを深く被っているので顔を見られる事はないが、このような怪しい格好の2人組の目撃者は少ないに越した事はない為、慎重に移動した結果、魔獣の森に着くまでに予想以上に時間がかかってしまった。シーンと静まり返った森の入り口は深い闇に包まれていた。その不気味な雰囲気に思わずガルフの手を握る力が強くなる。

(怖い…)

本能的に森の雰囲気に怯えてしまった弱い私を見透かしたようにガルフは鼻を鳴らした。

「フッ…なーにが1人でだ。怖がりの癖に。」

「うん…すっごく怖い…正直ガルフがいてくれて助かった…。でも、きっと私1人で来ていても、ここで引き返す事なく進んでいたと思うわ。だって4周もしてきてその中で何度も悩んで…悩んで悩んで決めた道ですもの。」

簡単にやめてしまえる程の覚悟じゃない。

「……茶化すようなこと言って…悪かった。」

先ほどのニヤニヤとした顔ではなく調子がくるったような表情で謝るガルフに「気にしてないよ」と笑顔を向ける。ガルフは意地悪だが心根はすごく優しい。いまだに申し訳なさそうな横顔をニヤニヤとした顔で眺めていると、その視線に気づいたのか「見てんじゃねぇよ」と顔を逸らされた。

奥の見えない暗闇をジッと見つめると、フゥッと小さく息を吐いて森へと進んでいく。活発化した魔獣がうじゃうじゃいる森とは思えない程に森の入り口は静かで嵐の前の静けさという言葉がよく似合う状況だ。ガルフは何も言わずに私の隣を歩いている。先ほどの揶揄うような雰囲気はなくなっていて赤色の瞳が鋭く光っていた。

夜の森では極力物音を立てないように進む。魔獣は敵を察知するために嗅覚や視覚が優れている。しかし、魔獣も万能ではない。嗅覚が優れている魔獣は視覚がほぼ皆無であるし、視覚が優れている魔獣は聴覚がほぼ皆無である。物音を立てないように気をつけることで、少しだけでも危険を回避することができるのだ。

「……おかしいな…」

顎に手を当てて神妙な面持ちでガルフがボソッと呟いた。

「何が?」

小声でガルフに問いかけるとガルフはまた眉間のシワを深くした。

「…ここまで魔獣の気配が少しもしない…一匹も…だ。」

ガルフの赤い目がジーと辺りを見回す。

「おかしい…魔獣の森と呼ばれるほど魔獣達がうじゃうじゃいる森なのに…ましてや夜だぞ…?」

確かに私が何度か下見に来た時も、昼間だというのに魔獣達がたくさんいた。それなのに今日は一回も魔獣に遭遇していないのだ。魔獣が活発化する夜だというのに…。

「…まぁ…今どれだけ考えても仕方ない。このことは師匠にも伝えておく。でも今日お前を1人にするのは危険だな……今夜はとりあえず俺が泊まるか。」

「えぇっ!?」

思わず大声が出てしまった口を自身の手で慌てて押さえる。キョロキョロと周囲に魔獣がいないことを確認するとガルフに向き直る。

「何言ってるの!とっ…泊まるって…!」






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