19 / 19
王宮にてーアルベルトsideー
しおりを挟む
「ビビが…いなくなった…?」
空もまだ白んでいる早朝であるにも関わらず、部屋には緊迫した空気が流れていた。目の前にはビビの父親であるラスカリア公爵とビビの兄であるノエル・ラスカリアが並んで座っている。早朝にお忍びで王宮を訪れた彼らは、僕に1枚の羊皮紙を差し出してきた。そこにはビビの字で家を出て行ったことが読み取れる文章が綴られていた。
目の前の2人は僕が手紙を読んでいる間も、呆然としている間も何も言わずに、ただ黙ってジッと座っていた。しかし、その目には怒りの色と侮蔑の色が見てとれる。
「…本当に申し訳ない。僕のせいだ」
ラスカリア公爵は何も言わずにスッとテーブルの上のティーカップを手に取り、紅茶をコクリと一口飲んだ。
「僕が…僕が責任を持って…この国の軍を総動員して彼女を探すことを誓おう。」
「…失礼ながら殿下。ここからはビビアンの兄として発言することを許していただけますか?」
ノエルは冷え切ったペリドットの瞳で真っ直ぐにアルベルトを貫いた。
その目は拒否することを許さないと言う様に鋭く、僕の口からは「っあぁ」と情けない声が漏れる。僕の返事を確認すると、ノエルはふぅっと小さく息を吐き、再び僕の事を真っ直ぐと見つめてきた。
「…ビビは幼い頃から殿下の事を慕っておりました。努力も怠らず、真っ直ぐに健気に…それを貴様は粉々に打ち砕いたんだ!ビビの殿下に対する純粋な愛も、幼い頃から王妃になるためにと色々な事を必死に耐えてきた努力も、私達とビビとの幸せで平穏な日々も!全て殿下が無に返したのですよ。ビビがどれだけ辛い思いをしていたか、貴方が1番分かっていたでしょう?どうですか1人の幼気な少女の未来を奪ったお気分は?」
悲痛な彼の叫びが頭の中で反響する。ビビの未来を守ろうと僕がした選択は間違っていたのだろうか。いいや、間違っていることなんて婚約破棄を切り出した時に、ビビが涙を見せた時から気づいていた。気づかないフリをしたかったんだ。僕はどこまでも幼稚で、独りよがりで、自分勝手だった。彼女の事を1番理解しているフリをして、実は何も見えていなかった。
「…僕のせいだ…本当に申し訳ない…」
「私達に謝られても。どうしようもないのですよ殿下」
ずっと黙っていた公爵は目を細め冷たい口調で言い放った。
「…しかし、私達がここで殿下を責め立てる行為も意味がないものですな。」
そう言うと、興奮して立ち上がっていたノエルを椅子に座らせて、また紅茶を一口コクリと飲んだ。
「殿下、ビビは探さないでと言っています。騒ぎにしたくないからでしょう。なので軍を使い大っぴらに捜索することはやめてほしい。…しかし、私達は一刻も早くビビの身の安全とビビの所在が知りたい。」
ラスカリア公爵はそこまで言うと、僕をジッと見つめ「ここまで言えば分かるだろう」とも言いたげな表情をした。
「分かりました。なるべく人に知られない様に…」
「なるべく?」
公爵の片眉がピクリと動く
「いえ!国の機密事項として秘密裏に捜索をします。」
「えぇ、よろしくお願いしますよ」
公爵とノエルは僕の返答を聞くとそれでいいんだと言わんばかりの表情をして、足早に去っていった。
1人になった執務室でハァと溜息を吐く。この部屋で数日前に僕の目の前に座っていた彼女がいなくなった。僕のせいで。
「情けないよ…本当に」
『どうですか1人の幼気な少女の未来を奪ったお気分は?』
先程のノエルの言葉が今だに頭の中で反響している。まるで呪いの言葉の様に、僕の心を鉛の様に重くして苦しくさせる。
「…最悪の気分だ。消えてしまいたい程にね…。でも、今は彼女を見つける事だけを考えるんだ。」
そして、彼女を見つけた暁には精一杯の謝罪をしよう。許されなくてもいい、許されようなんて思っていない。ただ、僕は彼女に謝らなければならない。謝らさせてほしい。
そして可能であるなら
「僕の本当の気持ちを…君に告げてもいいだろうか…」
こんなどこまでも自分勝手な僕を、君はどう思うだろう。
空もまだ白んでいる早朝であるにも関わらず、部屋には緊迫した空気が流れていた。目の前にはビビの父親であるラスカリア公爵とビビの兄であるノエル・ラスカリアが並んで座っている。早朝にお忍びで王宮を訪れた彼らは、僕に1枚の羊皮紙を差し出してきた。そこにはビビの字で家を出て行ったことが読み取れる文章が綴られていた。
目の前の2人は僕が手紙を読んでいる間も、呆然としている間も何も言わずに、ただ黙ってジッと座っていた。しかし、その目には怒りの色と侮蔑の色が見てとれる。
「…本当に申し訳ない。僕のせいだ」
ラスカリア公爵は何も言わずにスッとテーブルの上のティーカップを手に取り、紅茶をコクリと一口飲んだ。
「僕が…僕が責任を持って…この国の軍を総動員して彼女を探すことを誓おう。」
「…失礼ながら殿下。ここからはビビアンの兄として発言することを許していただけますか?」
ノエルは冷え切ったペリドットの瞳で真っ直ぐにアルベルトを貫いた。
その目は拒否することを許さないと言う様に鋭く、僕の口からは「っあぁ」と情けない声が漏れる。僕の返事を確認すると、ノエルはふぅっと小さく息を吐き、再び僕の事を真っ直ぐと見つめてきた。
「…ビビは幼い頃から殿下の事を慕っておりました。努力も怠らず、真っ直ぐに健気に…それを貴様は粉々に打ち砕いたんだ!ビビの殿下に対する純粋な愛も、幼い頃から王妃になるためにと色々な事を必死に耐えてきた努力も、私達とビビとの幸せで平穏な日々も!全て殿下が無に返したのですよ。ビビがどれだけ辛い思いをしていたか、貴方が1番分かっていたでしょう?どうですか1人の幼気な少女の未来を奪ったお気分は?」
悲痛な彼の叫びが頭の中で反響する。ビビの未来を守ろうと僕がした選択は間違っていたのだろうか。いいや、間違っていることなんて婚約破棄を切り出した時に、ビビが涙を見せた時から気づいていた。気づかないフリをしたかったんだ。僕はどこまでも幼稚で、独りよがりで、自分勝手だった。彼女の事を1番理解しているフリをして、実は何も見えていなかった。
「…僕のせいだ…本当に申し訳ない…」
「私達に謝られても。どうしようもないのですよ殿下」
ずっと黙っていた公爵は目を細め冷たい口調で言い放った。
「…しかし、私達がここで殿下を責め立てる行為も意味がないものですな。」
そう言うと、興奮して立ち上がっていたノエルを椅子に座らせて、また紅茶を一口コクリと飲んだ。
「殿下、ビビは探さないでと言っています。騒ぎにしたくないからでしょう。なので軍を使い大っぴらに捜索することはやめてほしい。…しかし、私達は一刻も早くビビの身の安全とビビの所在が知りたい。」
ラスカリア公爵はそこまで言うと、僕をジッと見つめ「ここまで言えば分かるだろう」とも言いたげな表情をした。
「分かりました。なるべく人に知られない様に…」
「なるべく?」
公爵の片眉がピクリと動く
「いえ!国の機密事項として秘密裏に捜索をします。」
「えぇ、よろしくお願いしますよ」
公爵とノエルは僕の返答を聞くとそれでいいんだと言わんばかりの表情をして、足早に去っていった。
1人になった執務室でハァと溜息を吐く。この部屋で数日前に僕の目の前に座っていた彼女がいなくなった。僕のせいで。
「情けないよ…本当に」
『どうですか1人の幼気な少女の未来を奪ったお気分は?』
先程のノエルの言葉が今だに頭の中で反響している。まるで呪いの言葉の様に、僕の心を鉛の様に重くして苦しくさせる。
「…最悪の気分だ。消えてしまいたい程にね…。でも、今は彼女を見つける事だけを考えるんだ。」
そして、彼女を見つけた暁には精一杯の謝罪をしよう。許されなくてもいい、許されようなんて思っていない。ただ、僕は彼女に謝らなければならない。謝らさせてほしい。
そして可能であるなら
「僕の本当の気持ちを…君に告げてもいいだろうか…」
こんなどこまでも自分勝手な僕を、君はどう思うだろう。
16
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(49件)
あなたにおすすめの小説
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
許すかどうかは、あなたたちが決めることじゃない。ましてや、わざとやったことをそう簡単に許すわけがないでしょう?
珠宮さくら
恋愛
婚約者を我がものにしようとした義妹と義母の策略によって、薬品で顔の半分が酷く爛れてしまったスクレピア。
それを知って見舞いに来るどころか、婚約を白紙にして義妹と婚約をかわした元婚約者と何もしてくれなかった父親、全員に復讐しようと心に誓う。
※全3話。
そちらがその気なら、こちらもそれなりに。
直野 紀伊路
恋愛
公爵令嬢アレクシアの婚約者・第一王子のヘイリーは、ある日、「子爵令嬢との真実の愛を見つけた!」としてアレクシアに婚約破棄を突き付ける。
それだけならまだ良かったのだが、よりにもよって二人はアレクシアに冤罪をふっかけてきた。
真摯に謝罪するなら潔く身を引こうと思っていたアレクシアだったが、「自分達の愛の為に人を貶めることを厭わないような人達に、遠慮することはないよね♪」と二人を返り討ちにすることにした。
※小説家になろう様で掲載していたお話のリメイクになります。
リメイクですが土台だけ残したフルリメイクなので、もはや別のお話になっております。
※カクヨム様、エブリスタ様でも掲載中。
…ºo。✵…𖧷''☛Thank you ☚″𖧷…✵。oº…
☻2021.04.23 183,747pt/24h☻
★HOTランキング2位
★人気ランキング7位
たくさんの方にお読みいただけてほんと嬉しいです(*^^*)
ありがとうございます!
愛のゆくえ【完結】
春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした
ですが、告白した私にあなたは言いました
「妹にしか思えない」
私は幼馴染みと婚約しました
それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか?
☆12時30分より1時間更新
(6月1日0時30分 完結)
こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね?
……違う?
とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。
他社でも公開
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
婚約破棄は踊り続ける
お好み焼き
恋愛
聖女が現れたことによりルベデルカ公爵令嬢はルーベルバッハ王太子殿下との婚約を白紙にされた。だがその半年後、ルーベルバッハが訪れてきてこう言った。
「聖女は王太子妃じゃなく神の花嫁となる道を選んだよ。頼むから結婚しておくれよ」
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。
【完結】真実の愛とやらに目覚めてしまった王太子のその後
綾森れん
恋愛
レオノーラ・ドゥランテ侯爵令嬢は夜会にて婚約者の王太子から、
「真実の愛に目覚めた」
と衝撃の告白をされる。
王太子の愛のお相手は男爵令嬢パミーナ。
婚約は破棄され、レオノーラは王太子の弟である公爵との婚約が決まる。
一方、今まで男爵令嬢としての教育しか受けていなかったパミーナには急遽、王妃教育がほどこされるが全く進まない。
文句ばかり言うわがままなパミーナに、王宮の人々は愛想を尽かす。
そんな中「真実の愛」で結ばれた王太子だけが愛する妃パミーナの面倒を見るが、それは不幸の始まりだった。
周囲の忠告を聞かず「真実の愛」とやらを貫いた王太子の末路とは?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
作品読ませていただきました。とても面白かったです😊続きが気になります😱💨💦これからも応援してます😊
4週目→4周目では?
お久しぶりでございます。
学業はかどっておられますか?うふふ
また、1話から読んでおりました!
今読みますと、王子もガルフも同情の余地なしでしたわ!
何故、こうなる前に行動を起こさなかった?
と、幼すぎる男どもに 喝💢 でしたわ‼️
ふふふふふっ