竜王の花嫁

桜月雪兎

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番外

ジルフォードの恋④

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 まだ、マリアが学校に通っていた時の話だ。
 優秀な兄姉の後に入ったので期待が大きかった。そんな期待に応えられないのをマリア自身は分かっており、それでも大好きな兄姉のことなので誇らしかった。
 マリアは頑張り屋で明るいのでいつのまにかそんな期待などなくなり、普通に良好な友人関係を築いていった。
 だが、そういうのが疎ましいと思う者も確かにいた。同じような状況にあるような者たちだ。
 そんな時だった。
 偶然、ジルフォードが学校に用事があって訪れた。
「マリア?」
 その時も今回同様、声が聞こえた気がして向かうとマリアを羽交い締めにして暴行を加えている現場に出くわした。
「ジル兄……助けて」
「マリア!」
「っ!」
 ジルフォードは羽交い締めにしている者や暴行していた者を殴り飛ばし、マリアを抱きしめた。
 マリアはジルフォードの温もりに安堵し、涙が出た。
「マリア」
「ジル兄~、ジル兄!」
「もう大丈夫、いるから」
「うん」
「……許さない」
「「っっ!!」」
「どんな理由があっても、許す気はない」
「「うわぁぁぁぁ!」」
 そして怒り狂ったジルフォードがマリアを傷つけた者全員を殺しかけてしまった。
 別件で来ていたアルシードの耳に入り、アルシードが止めた。アルシード以外に誰も間に入れなかったのだ。
「ジル!そこまでだ!!」
「アル兄、ダメ、ダメだ、許さない」
「分かっている。だけど、マリアを医者に見せる方が先だ」
「…………うん」
「先生方、あとはすみませんが任せます」
「ああ」
「……アル兄」
「大丈夫だ」
「うん」
 医者に見せた結果マリアは全治三ヶ月の大怪我を負った。それ以上に心の傷が大きかった。あと少しでもジルフォードが駆けつけるのが遅かったらマリアの純潔は奪われていた。
 マリアは兄弟や祖父以外の男に怯えるようになっていた。
 もちろんこの後、暴行を加えた者たちの親が来たが追い返した。
 後日、学校で学校側の面々、暴行を加えた者たちの親、当主である祖父・アルザスとアルシードにジルフォードで話し合うことになった。
「うちの子たちは死にかけたのよ!責任はどうとってくれるのかしら?」
「意味がわからん。こっちがとって欲しいものだ」
「はぁ?!」
「お前たちの息子は我が孫娘を傷つけた上にその純潔まで奪おうとしたのだぞ!」
「な!う、うそよ!うちの子が…」
 強気できていた親たちに衝撃が走った。
 学校では身分を介さないとされているからこそ、ジルフォードの過剰防衛などであわよくば貶めようとしていたのだが、純潔問題になれば話は変わってくる。
 親たちが学校側を見たが目を伏せて首を振った。学校側は双方の病院に付き添い、結果も聞いていたのだ。
 そして、偽りのない事実であると告げた。
「診断にも出ていますし、私たちも一緒に結果を聞きました」
「ジルが間に合わなかったらと思うだけで胸が張り裂けそうだ。お前たちの息子はその代償を受けただけだ。もっとも、そんなのでは足りないがな」
「うそ、うそよ!でっち上げも大概にして!!」
「落ち着きなさい」
「でも、あなた!」
 男親は苦渋の顔をしている。
 自らの息子の不祥事、相手は孫煩悩で知られているグレイ家当主・アルザスだ。勝ち目などない。
 むしろ、その罪の軽減を願いでなくてはいけない。
 ドラグーン大国では婦女子暴行は大きな罪だ。この問題一つで御家断絶になった例も多くある。このままでは一族が路頭に迷うことになる。
 その場にいた男親たちはアルザスに頭を下げた。その姿に母親たちは顔を青くした。
「この度は息子の不祥事、誠に申し訳ありません」
「あ、あなた」
「どうか、平にご容赦を」
「……アルシード、どう考える」
「まぁ、ジルフォードがかなり懲らしめてますし、こちらも手を加えているのですから」
「許すか?」
「……ダメ」
「ジル?」
「ダメ、ダメだ。許さない。マリア、泣いてた。どんなに辛くても泣かずに頑張ってきたマリアを泣かした」
「…………」
「許したくない」
「ジル、お前の気持ちはわかった。だけどな、いつまでも引きずるわけにはいかない」
「……なら、もうマリアに近づくな。次は絶対殺してやる」
「……うちはそれで手を打とう。どんな形でも関わりを持ちたくない」
「そうだな。うちに手を出してこれですんで良かったと思うことだな。お前達とこれ以上どんな関わりも持ちたくない。本当ならお前たちの息子の退学を願いたいところだが、今回は様子を見よう」
「そういうことだ」
 アルシードの説得でもう一度怒りを爆発させそうだったジルフォードは大人しくなった。
 こうして、マリアの一件はおさめられた。
 その後、マリアが復学できたのは半年以上たってのことで、その息子たちがマリアと関わることは無かった。

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