竜王の花嫁

桜月雪兎

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第一章

16、お茶会

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 スカルディアがアリシアたちのところに戻るとそこにはもう一人増えていた。
 それはアルシードとマリアたちの兄妹の一人で猫の半獣人のクレア・グレイだ。アルシードもマリアも亜人であるのにクレアは半獣人である。これは受け継いだ血がそちらに向いただけの話だ。
 クレアは短毛の赤毛の猫の姿をしている。猫が人のサイズになって直立二足歩行しているような感じだ。
 スカルディアもクレアのことは信頼している。ルドワードが幼いスカルディアにつけた数少ない信頼できる相手で一緒にいた時間が長いためだ。
「クレア」
「スカルディア様、お久しぶりです」
「いつもどおりでいい。お前にそう言われるとなんだか腹が立つ」
「もう!花嫁様の前だからちゃんとしていたのに!!」
「いや、すでに崩れてただろう」
 アルシードは呆れながら言った。そしてスカルディアの方を見て首尾を尋ねた。ジャックスから話を聞いていたからだ。
「で、どうなった?」
「来るはずだぜ……なんか今まで溜めていたの言ってしまってすっきりした」
「だろうな」
「スカル様?お帰りなさい、どこに行っていたのですか?」
 アリシアもスカルディアが戻ってきたので話しかけた。急にいなくなったので気になっていたのだ。
 スカルディアはいたずらっ子のような笑顔をむけた。
「シア姉が喜ぶモン調達しに」
「私が喜ぶもの?」
「そう。まぁ、届くまで時間かかるし。それより何話してたんだ?」
 スカルディアに尋ねられてアリシアはクレアたちとのことを話した。
「ここに咲くお花とかの話をしていました。こう見えてたくさんの種類があるのですね」
「そうだろうな、時期によって咲くものが違うからな。どの季節もある程度は咲いているようにしている」
「すごいですね」
「さすがに雪の降る時期はほとんど咲かないがな」
「雪が降るのですか?」
「ああ、降るぜ。ひどいときは積もって大変だ」
「私、雪は見たことないんです」
「ここにいれば嫌ってほど見ることになるぜ。何せ、降らなかった時はないからな」
「わかりました。楽しみにしています」
「ああ」
 アリシアは楽しそうに期待した瞳で見た。それにスカルディアは苦笑した。置いてけぼりになっているクレアは嫌味を込めて様付けを外さずに声を掛けた。
「スカル様~、私たちを置いて話さないでよ」
「知らん」
「もう!」
 アリシアはスカルディアとクレアのやり取りを不思議そうに見ていた。スカルディアは最初クレアにいつも通りに接するように言った。そして今現在目の前で起きているのがいつもの二人なのだ。その証拠に周りは何も言わない。
 アリシアにとって初めてスカルディアが友人と呼べるような相手と接しているのを見た気がした。だから新鮮で不思議なのだ。
 それに気づいたジャックスが尋ねた。
「どうかしましたか?」
「スカル様とクレアさんは仲がいいのですか?スカル様がルド様以外にそう呼ばれているのをはじめてみました」
「ああ、そうですね。スカルディア様の遊び相手でしたからクレアは」
「遊び相手?」
「竜王は成人前より執務を行っておりまして、幼かったスカルディア様は一人でいる事が多かったのです。それゆえに竜王はスカルディア様に信頼できる相手を側に置いていました。スカルディア様に何もないように」
 ジャックスは当時のことを思い出して苦笑した。その信頼できる相手の中にジャックス自身もアルシードもいたがルドワードが信頼できるのとスカルディアが信頼できるのは違う。
 ジャックスは信頼されているがどちらかと言えば教える者として信頼されている。アルシードは悪友、いたずら仲間として相棒のような感じがある。クレアに至っては男女の間を超えた相手だ。親友のような感じがある。
 スカルディアはアルシードにも『スカル』呼びを許しているがアルシードが使い分けているのだ。それに関してスカルディアも納得しているので何も言わないがクレアは普段から使い分けをせずに『スカル』と呼んでいるので急にかしこまるとスカルディアにとっては嫌なのだ。
 それはそうとアリシアはジャックスの話を聞いて本当にルドワードはスカルディアを大事にしているのだと思った。
 大事でなければ信頼できる相手で周りを固めないだろうからだ。
「ルド様は本当にスカル様が大事なのですね」
「そうですね。竜王にとって『家族』は特別です。なのでアリシア様のことも大切に思っていますがやり方が不器用なのです。スカルディア様がそのことに気づいたのは成人手前でした。それまで竜王に嫌われていると思っていたみたいですし」
「ジャックス!余計なことを言うな!!」
「おや、気づかれた」
「聞こえるような声で話しておきながら、何が『気づかれた』だ!!」
 スカルディアはこれ以上ジャックスに昔のことを話させないために割り込んだ。そんな面々を見てアリシアは微笑ましかった。だが不意に思ってしまった。ここにルドワードがいればもっと楽しいだろうと。
 そんなことを考えてしまい、またため息が出たところで城の方から声がした。
「何やら楽しそうだな」
「ルド様?!ディスタ様?!」
「アリシア様、私の方が立場は下です。ディスタとお呼びください」 
「あ、はい。ディスタさ、ん」
「はい、慣れてください」
「はい~」
 急には慣れないアリシアの様子にディスタは苦笑した。アリシアは恥ずかしそうにしていた。周りは微笑ましそうに見ていた。
 恥ずかしそうにしていたアリシアだがルドワードが来たことを思い出し、不思議そうにしていた。
「ルド様?今日はどうされましたか?」
「ん?ああ、仕事も終わったからな、シアたちとお茶でもしようかと思ってな」
「っ!はい!」
「ふふ」
 アリシアの嬉しそうな笑顔と返事にルドワードは癒された。それと同時に罪悪感が湧いてきた。
 遠くから見ていても楽しそうにしていたがここまでの笑顔は見せてくれなかった。スカルディアの言う通りやはり寂しかったのだとルドワードは理解した。
「すまない、別事までやっていてあまり一緒にいてやれなかった」
「いいのです。お仕事は大事ですもの」
「ああ、仕事は大事だ。国民も国も。だがそれと同等、もしくはそれ以上にシアたちのことも大事だ……俺はまた同じことを繰り返していた」
「ルド様?」
「これからはもっと一緒にいられる。シアを悲しませてまでする事じゃないからな」
「い、いいのですか?」
「ああ、スカルにも怒られたしな」
「スカル様に?」
「ああ、自分の時と同じように結婚式前の花嫁をほっとくなとな」
「兄貴、言っとくが結婚後もだぞ」
「分かっている」
「本当かよ」
 スカルディアはルドワードの返事に対してあきれ口調だった。だがその場にいた全員が見て理解した。スカルディアが喜んでいるのを。
 それもそうだろう。ここにはスカルディアが信頼してたり、大事にしてたりする面々が集まっているのだ。嬉しくないはずがない。ましてや大事な家族であるルドワードとアリシアが一緒にいるのだ。破顔してしまうもの仕方ないというものだ。
 それと同時にアリシアも嬉しかった。好きになっていくルドワードが側にいないのが寂しかった。そして新しく姉弟になるスカルディアがいてくれる。『家族』に恵まれなかったアリシアにとってこれ以上のものはないと思ったのだ。
「スカル様」
「良かったな、シア姉」
「はい、はい。ありがとうございます……ルド様、一緒にいてください」
「ああ、寂しい思いをさせてすまない」
「いいえ、そばにいてくださるのなら」
「そばにいる、俺もスカルも」
「もちろん」
 アリシアはルドワードに抱きしめられながら涙した。その涙は悲しみからではなく、寂しさからでもない。本当に嬉しくて涙が出た。
 全員がその光景を微笑ましく見ていた。

 アリシアが泣き止んでからお茶会が始まった。エレナやマリアたちがアリシアが泣き止んでから始めれるように準備したのだ。
「なんだか、よく泣いている気がします」
「いいんじゃないか?涙が出るくらい待たされたんだから」
「なぜ、私を見ますか?スカルディア様」
「さぁな……心当たりあるくせに、この腰巾着」
「スカル、そうディスタを責めるな」
「そうですよ、スカル様」
「はいはい、わかったよ」
 スカルディアはルドワードとアリシアに言われ、そっぽ向いた。
 現在、お茶会に参加しているのはルドワードとアリシア、スカルディアの三名だ。アリシアが気にするから全員で行う事にしようとしたが家臣組が遠慮した。
 エレナやリンたちはもとよりそのように主人と一緒にお茶会をすることはない。もちろんアリシア一人であり、誘われたら一緒にするが主人たちがそろっている時に入る事はない。
 ジャックスやディスタもそうだ。この二人に関しては命じられなければ一緒にはお茶はしない。
 アルシードやクレアはスカルディアとならするが末妹のマリアがいる以上できない。誘われたらしてもいいと思わせないためだ。
 そんな家臣たちの思いも考慮してこうなった。
 もちろん話には家臣たちも参加するが。
「ルド様、お仕事は落ち着いたのですか?」
「もとより普段の業務ならこの時間には終わる」
「そうなのですか?!」
「自分たちだけで処理しようとするからこうなるんだ。シア姉は兄貴のことを怒ってもいい」
「そ、そんな!私の為に時間を作ってくださっているのに」
「いや、夫婦になるんだから当たり前だろう」
「ああ、そうだ。むしろスカルに言われるまで抱え込んでいたのが間違いだった。信頼できるものがこんなにいるのに……みな、すまなかった」
「いいのです、竜王」
「そうですよ、アリシア様が笑顔になったそれで十分です」
「アルシード、それだとアリシア様が笑顔にならなかったら許さないと言っているのと同じだぞ」
「え?!そ、そんなつもりありませんよ!!」
「俺はそのつもりだけどな、今度シア姉を悲しませたら兄貴でも許さない」
「気を付けよう」
「ルド様、スカル様……それでもルド様たちと一緒にいれて本当に嬉しいです」
「ああ、俺もだ」
 二人は互いを見つめあって微笑んでいた。それを見せつけられるような感じになった面々は苦笑しつつも内心微笑ましかった。
 特にスカルディアはそうだ。大事な二人が楽しそうにしているのが本当にうれしかった。
「これからは皆にも力を借りようと思う。だから、今後はもっと一緒にいれるはずだ」
「はい、ルド様」
「したいことはあるか?よくここでお茶をしているのは知っているが」
「したいことですか?ルド様と一緒にいれればそれで十分です」
「シア」
 アリシアは頬を朱に染めながら答えた。
 アリシアのそんなささやかな願いをいう姿にルドワードは微笑ましかった。
 だが、二人が素で行っているこの甘すぎる会話にほかの面々はおなか一杯の状態だ。
 特にスカルディアはこのような場面に遭遇することがほとんどないので免疫がないため、むしろ胸焼け状態だ。
「シア姉、兄貴と一緒に出かけたいところとかないのか?」
「出かけたいところですか?」
「ああ、一緒にいるにしてもずっと中庭や庭園ってわけにいかないだろ」
「そうですね~」
 スカルディアに言われてアリシアは考えた。
 スカルディアはこの甘い雰囲気を変えたくなって不自然じゃないほどに話を変えた。うまい具合にアリシアは思考の世界に向かった。

 アリシアが侍女と話し合いを始め、場所の検討に入り、その場の空気が少し変わった。
 そのためルドワードたちはその場にそぐわない雰囲気を察知した。
 アリシアがリンやエレナたちと場所の話に夢中になっているのを確認して小さい声で会話した。
「ほ~ら、つれかけた」
「やはり、竜王とアリシア様を反対する者でしょうか?」
「だろうね、人間を入れることに反対の者もまだいるでしょうし」
「あいつもまだ王位奪取を考えているかもしれないしな」
「それだけは是が非でも食い止めたいですね」
「とりあえず、しっかり食いついてくれるまでは放っておくしかないだろうな。皆、シアの安全をしっかりと確保してくれ」
「わかってるよ、兄貴」
 ルドワードは今後のためにしっかりと話し合いをしなくてはいけないと思った。スカルディアの言うとおりに獲物がつれ始めているのだ。逃がしでもしたら大変なことになる。
 今度は一人で抱え込まずに使える手を使っていくことにした。手数が多い方が取りこぼしが少なくて済む。
 そう話をしているとアリシアの方の話が終わった。
「ルド様」
「決まったか?」
「はい!ルド様やスカル様たちと一緒に街を見てみたいです」
「街、ですか?」
「街って城下のことですか?なんでまた?」
「私は館からほとんど出ずに過ごしました。ですので……街というものを知らないのです」
 ドラグーン側の全員が驚いた。
 館から出ずに生活をしてきたのもそうだが街を知らないということが本当にあるとは思わない。だがアリシアの表情かおに嘘偽りもない。それどころか知らないことを知ろうとする輝いた瞳があった。
 全員が返答に窮しているとアリシアは自分の願いが悪いものなのかと思い、暗くなっていった。
 それに気づいたルドワードとスカルディアがあわてて了承した。
「そ、そうだな。街を見てみるのはいいことだ」
「あ、ああ。城にいてもあれだしな!いろんな店があるから見てみるといいと思うぜ」
「いいのですか?」
「ああ」
「め、迷惑ではありませんか?」
「そんなことないぞ!さっそく日取りを検討しよう」
「はい!」
 アリシアが笑顔を取り戻したことに全員がほっとした。
 その様子を見ていたエレナたちユーザリア側は苦笑していた。
「すみません、アリシア様が」
「それはいいのだが」
「全てはアリシア様から」
「わかっている」
 エレナたちは自らは話さないていを取った。ルドワードたちもルークやシリウスから言われているので了承した。疑問は大きいがそれでもアリシアが笑ってくれるのならそれでもいいと全員が思った。
 アリシアを微笑ましく見ていた面々はつい不穏な気配があったことを忘れてしまっていた。
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