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第一章
15、それぞれの思い
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ルドワードと一緒に昼食をとってから数日が立った。実はあの日以来アリシアは朝食以外でルドワードの姿を見ていない。仕事で奔走しているらしく、事前に一緒に食事がとれないことをディスタから聞くことになる。
スカルディアやジャックス、アルシードはなるべく一緒にいて寂しさを紛らわせれればとしている。そんな中で三人はある事に気づく、それはアリシアのことを監視している存在がいる事だ。
三人が捕まえようとするも逃げられてしまう。あまりアリシアから離れられないのも原因の一つだ。
「また逃げられた」
「あの、大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ、アリシア様。お兄ちゃんが守ってくれるから!!」
「マリア。そうですよ、アリシア様。今度は捕まえて見せますから!」
「はい、頼りにしています」
「お任せを」
アルシードは張り切って見せた。アリシアも楽しそうにしているのだがやはりどこか寂しそうであった。
「アリシア様」
「はい?なんでしょうか?」
「寂しいなら言ってもいいんですよ」
「え?」
「いや、あんま無理しない方がいいですよ……顔色悪いですよ」
「本当ですか?!」
「はい」
アリシアは素直に泣くことが出来なかった。
すでに婚礼着はできており、あとは式の日を待つのみとなった、それもあと数日。
アリシアは何も伝えられず、その日を迎えるのが怖い。本当にすべてを受け入れられたいとアリシアは思っている。
小さく宿った恋の花はすでに大きく成長している。だからこそすべてを受け入れられたいとアリシアは思った。自分の思いを知って欲しいと思っているが会えず話せない日が続いている。
周りが元気づけようとしていることにアリシア自身分かっておりそれにこたえようとしている。
中庭で花を見ながらお茶をしたり、図書室で本を読んだりして過ごしているも時折寂しそうに空を見ている。
アリシアもルドワードも互いに思いあっている。そんな関係なら式が間近に迫っているこの時期は幸せいっぱいのはずだ。自然と出るため息も甘いものだろう。
しかしアリシアから出るため息も表情も寂しそうで式がまじかに迫っている雰囲気ではない。
スカルディアはこの義理の姉となる存在が嫌いではない。自分のことを厄介者の様に思っている者たちがいる中、普通に受け入れてくれるのが嬉しい。
言い当てられたりすると恥ずかしくて大声を出してしまうがそれも笑って受け入れてくれる。それが本当の姉の様で好きなのだ。
アリシアの笑顔は周りを明るくしてくれる。アリシアと一緒にいるだけで見ていた世界が変わってくる。それはいい方に変わっていく。それはスカルディアだけではなくジャックスやリリアたちもそうだ。
そんなアリシアを近くで見ていただけにスカルディアはこの状況が面白くなかった。
もし何かの思惑が動いているのならそれこそ自分たちを信用して教えてほしい。
それにアリシアの笑顔が一番輝くのはルドワードの近くなのだとスカルディアは思っている。
今の様に愁いを帯びて笑うのはアリシアに似合わないとスカルディアは思った。そこでスカルディアはある行動に出ることにした。
スカルディアはルドワードの執務室の方を見た。そこにルドワードがいることを確認して、アリシアのことをアルシードに任せてその場を離れた。必ずしも時間が取れないはずがないと思い、ルドワードのもとに向かった。
執務室に向かう途中ジャックスに出会った。
「スカルディア様、急いでどちらに?」
「ジャックス」
「アリシア様のことはどうされました?」
「シア姉は中庭でアルシードたちといる。俺は兄貴の執務室に向かう」
「執務室に?」
ジャックスは疑問に思った。アリシアの護衛の任を受けた当初は嫌がっていたが一緒にいるうちに楽しそうにしており、護衛というよりただ姉に会いに行っているような感じがした。
そんなスカルディアがアリシアのもとを離れて普段ですら遠慮して向かわないルドワードの執務室に行こうとしているのだ。疑問に思わないわけがない。
そんなジャックスの疑問がわかったのかスカルディアが肩をすくめて理由を話した。
「いくらなんでもこんなに忙しいはずがないだろう。何か思うところがあってしているならこっちにも情報が欲しいし、それに」
「それに?」
「シア姉が寂しそうだ。花嫁を悲しませての式なんて笑えない」
「アリシア様のためか?」
「当たり前だろ、俺はシア姉のことを本当の姉のように思うようになった。兄弟には幸せになって欲しい……兄貴だって本当は一緒にいたいくせにバカなんだ」
「スカルディア様」
ジャックスは驚きながらも感心した。周りに興味を示さないスカルディアがここまでアリシアを大切に思うようになるとは思わなかった。
ジャックスの視線にそっぽ向くようにスカルディアは言った。
「バカだろ、俺の時だって。本当に思うならそばにいてくれればいいのに……それ以上は俺もシア姉も無理強いする気はないんだ……止めるなよ」
「アリシア様のためになることを止める気はない。それに確かに竜王も行き詰っているようだしな……本当にこっちを頼ってくれたらいいのに、あのお方だけは」
「それとジャックス……」
スカルディアはジャックスにあることを囁いた。スカルディアはここ数日のことからアリシアを監視している相手に目星をつけていた。それをジャックスに伝えたのだ。
「スカルディア様?!」
「これでも嫌われ者を長くやってない。目につく奴ってのは外からの方がよく見える」
「了解しました」
「まぁ、兄貴とシア姉が仲良くしないとあぶりだされないだろうがな」
「……可能性はあるな」
ジャックスはスカルディアと同じように思った。現状手を出してこないのはルドワードとアリシアの関係が発展していないことにある可能性が高い。相手の狙いが二人の予想通りならそういうことになる。
ジャックスはアルシードと合流するべく向かった。
スカルディアはそれを見届けてルドワードの執務室に向かった。
***
スカルディアが執務室の前に来るとディスタとルドワードの仕事の話をしているのが聞こえた。
スカルディアはため息をついて覚悟を決めた。いくらアリシアのためとはいえ、これでルドワードの逆鱗に触れることでもあればスカルディアでもただじゃすまないからだ。
戦争時戦いこそしなかったが兄であるルドワードの力の強さをスカルディアは知っている。
スカルディアは息を整えて、扉を開けた。ノックをせずに。
中にいたディスタとルドワードは一瞬身構えたが来たのがスカルディアだと分かるとほっとした。
「スカル、執務中だぞ」
「兄貴は執務より大事なことがあるんじゃないのか?」
「執務より?」
「スカルディア様、何を申されているのですか?」
「ふん!」
スカルディアは扉の外を気にしつつ、閉めた。そしてルドワードのいる執務机の所に向かった。
「何しているか知らないけどこれ以上一人で動くのはやめてくれないか、兄貴」
「何を言っている?」
「わからないか?兄貴が一人で動くには限界だって話だ」
「スカル」
「兄貴は何もわかっていない。こうしてシア姉を守っているつもりかもしれないが」
「なんだ?」
ルドワードはスカルディアを見た。いつもと違うその様子に訝しげている。
「兄貴、俺は兄貴のことが大切だ。だがシア姉のことも大切だ」
「ああ」
「兄貴が本当にシア姉のことを思うんなら一秒でも長くそばにいてやるべきだ」
「スカル」
「兄貴は遠くからシア姉を見ていたけどシア姉は朝しかあっていないんだ。花嫁をいつまで一人でいさせるつもりだよ」
「お前たちがいるだろう」
「兄貴、周りと花婿とどっちにいてもらいたいと思う?」
「っっ!!」
「それさえもわからないんなら兄貴はシア姉を悲しませるだけだ……俺の時と同じようにな」
ルドワードは目を見開いた。仕事にかまけてまだ少し幼かったスカルディアをあまりかまってあげられず寂しい思いをさせていた。
父親も戦争中であった為そばにはいなかった。
当時のスカルディアのそばにいたのはルドワードが信頼できる一部の存在だけだった。ジャックスもその一人だ。
ルドワードはスカルディアに言われ、当時のスカルディアと同じ状況になっていることにやっと気づいた。
アリシアが眠った後に見に行ったり、執務室など遠くから様子を時々見ている程度で確かにルドワードは会っているがアリシアは会っていない状況だ。
ディスタは何も言えずにいた。この状況を作ってしまった要因の一人でもあるからだ。
アリシアが心配しないように告げずに事を進めていた。だが思ったより時間がかかってしまっている。行き詰っているためこうして何度も話し合いをしているのだが解決策も見つからないままに時間だけが過ぎ去っている。
スカルディアはディスタを見た。ディスタもこれ以上はどうにもできないと判断し、ため息をついた。
「今回ばかりはスカルディア様の方が正しいようですね。何がお望みで?」
「わかりきったこと。普段の業務だけならここまでならないだろ、通常業務以外はシア姉のところにいてやれ……その方がつれそうだし」
「つれる?」
「どういうことです?」
「追ってるものが同じならいいんだがな」
「シアに何かあったのか?!」
ルドワードとディスタはスカルディアの言葉に食いついた。それは自分たちだけで解決しようとしている事と同じことかもしれないからだ。もちろん、それはスカルディアも思っていた。
ルドワードはアリシアに何かあったのかと思い、慌てた。その様子にスカルディアの方が驚いた。そして呆れもした。そこまで思っているのならそばにいればいいのにと思ったからだ。
「俺たちがいるのに何かあるわけないだろう。だが、監視している節がある。何かあれば出てくるだろう」
「シアを囮にするつもりか?」
「まさか?!シア姉に危険が及ぶようなことはしない!だが相手が望まない方向に来れば動き出す……そういうものだろ、嫌な奴ってのは」
「スカル?」
話をしていてスカルディアは嫌なことを思い出して暗くなった。
「俺は嫌な奴をたくさん見てきた……兄貴以上にな。そんな中で俺を普通に受け入れてくれるシア姉は大切だ、幸せになってほしい。それができるのは俺の大事な兄貴だけなんだ」
「スカルディア様」
「これでも俺だって考えているんだ。兄貴ほど頭はよくないけどな」
「いや、お前はいい子だよ。スカル」
「はは、兄貴にそう言ってもらえたの久しぶりだ……今日の分が終わったらシア姉のところに来いよ、兄貴。絶対に喜ぶ」
スカルディアはそう言って執務室から出ていった。その顔は少し晴れやかだった。
スカルディアは緊張からとかれて安堵のため息が出た。ルドワードもディスタも返事こそしなかったが様子から見て通常の仕事が終わり次第アリシアのもとにくることが分かった。それだけでスカルディアは満足だった。久しぶりにアリシアが心から笑った顔が見られる。それが嬉しいからだ。
スカルディアが出ていった執務室ではルドワードが苦笑していた。
「スカルに言われてしまった」
「今回ばかりは私たちが悪いですね、こちらだけで解決しようとしたのが間違いでした」
「そうだな。見落としてしまっていた」
「竜王?」
「スカルの言うとおりだな、シアが起きていない時に会ってもシアにしてみれば会ってないのと同じことだ」
「そうですね」
「それにシアを守るなら任せた面々と連携するべきだった」
「今からでも間に合いますよ。どうやらあちらは相手に目星をつけているようですので」
「そうだな……良し!これが済んだらシアとお茶をしよう」
「それがいいですね」
「もちろんお前も来るんだぞ、ディスタ」
「了解しました」
そう話して二人は仕事を進めた。少しでも早くアリシアと一緒に過ごすために。
スカルディアやジャックス、アルシードはなるべく一緒にいて寂しさを紛らわせれればとしている。そんな中で三人はある事に気づく、それはアリシアのことを監視している存在がいる事だ。
三人が捕まえようとするも逃げられてしまう。あまりアリシアから離れられないのも原因の一つだ。
「また逃げられた」
「あの、大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ、アリシア様。お兄ちゃんが守ってくれるから!!」
「マリア。そうですよ、アリシア様。今度は捕まえて見せますから!」
「はい、頼りにしています」
「お任せを」
アルシードは張り切って見せた。アリシアも楽しそうにしているのだがやはりどこか寂しそうであった。
「アリシア様」
「はい?なんでしょうか?」
「寂しいなら言ってもいいんですよ」
「え?」
「いや、あんま無理しない方がいいですよ……顔色悪いですよ」
「本当ですか?!」
「はい」
アリシアは素直に泣くことが出来なかった。
すでに婚礼着はできており、あとは式の日を待つのみとなった、それもあと数日。
アリシアは何も伝えられず、その日を迎えるのが怖い。本当にすべてを受け入れられたいとアリシアは思っている。
小さく宿った恋の花はすでに大きく成長している。だからこそすべてを受け入れられたいとアリシアは思った。自分の思いを知って欲しいと思っているが会えず話せない日が続いている。
周りが元気づけようとしていることにアリシア自身分かっておりそれにこたえようとしている。
中庭で花を見ながらお茶をしたり、図書室で本を読んだりして過ごしているも時折寂しそうに空を見ている。
アリシアもルドワードも互いに思いあっている。そんな関係なら式が間近に迫っているこの時期は幸せいっぱいのはずだ。自然と出るため息も甘いものだろう。
しかしアリシアから出るため息も表情も寂しそうで式がまじかに迫っている雰囲気ではない。
スカルディアはこの義理の姉となる存在が嫌いではない。自分のことを厄介者の様に思っている者たちがいる中、普通に受け入れてくれるのが嬉しい。
言い当てられたりすると恥ずかしくて大声を出してしまうがそれも笑って受け入れてくれる。それが本当の姉の様で好きなのだ。
アリシアの笑顔は周りを明るくしてくれる。アリシアと一緒にいるだけで見ていた世界が変わってくる。それはいい方に変わっていく。それはスカルディアだけではなくジャックスやリリアたちもそうだ。
そんなアリシアを近くで見ていただけにスカルディアはこの状況が面白くなかった。
もし何かの思惑が動いているのならそれこそ自分たちを信用して教えてほしい。
それにアリシアの笑顔が一番輝くのはルドワードの近くなのだとスカルディアは思っている。
今の様に愁いを帯びて笑うのはアリシアに似合わないとスカルディアは思った。そこでスカルディアはある行動に出ることにした。
スカルディアはルドワードの執務室の方を見た。そこにルドワードがいることを確認して、アリシアのことをアルシードに任せてその場を離れた。必ずしも時間が取れないはずがないと思い、ルドワードのもとに向かった。
執務室に向かう途中ジャックスに出会った。
「スカルディア様、急いでどちらに?」
「ジャックス」
「アリシア様のことはどうされました?」
「シア姉は中庭でアルシードたちといる。俺は兄貴の執務室に向かう」
「執務室に?」
ジャックスは疑問に思った。アリシアの護衛の任を受けた当初は嫌がっていたが一緒にいるうちに楽しそうにしており、護衛というよりただ姉に会いに行っているような感じがした。
そんなスカルディアがアリシアのもとを離れて普段ですら遠慮して向かわないルドワードの執務室に行こうとしているのだ。疑問に思わないわけがない。
そんなジャックスの疑問がわかったのかスカルディアが肩をすくめて理由を話した。
「いくらなんでもこんなに忙しいはずがないだろう。何か思うところがあってしているならこっちにも情報が欲しいし、それに」
「それに?」
「シア姉が寂しそうだ。花嫁を悲しませての式なんて笑えない」
「アリシア様のためか?」
「当たり前だろ、俺はシア姉のことを本当の姉のように思うようになった。兄弟には幸せになって欲しい……兄貴だって本当は一緒にいたいくせにバカなんだ」
「スカルディア様」
ジャックスは驚きながらも感心した。周りに興味を示さないスカルディアがここまでアリシアを大切に思うようになるとは思わなかった。
ジャックスの視線にそっぽ向くようにスカルディアは言った。
「バカだろ、俺の時だって。本当に思うならそばにいてくれればいいのに……それ以上は俺もシア姉も無理強いする気はないんだ……止めるなよ」
「アリシア様のためになることを止める気はない。それに確かに竜王も行き詰っているようだしな……本当にこっちを頼ってくれたらいいのに、あのお方だけは」
「それとジャックス……」
スカルディアはジャックスにあることを囁いた。スカルディアはここ数日のことからアリシアを監視している相手に目星をつけていた。それをジャックスに伝えたのだ。
「スカルディア様?!」
「これでも嫌われ者を長くやってない。目につく奴ってのは外からの方がよく見える」
「了解しました」
「まぁ、兄貴とシア姉が仲良くしないとあぶりだされないだろうがな」
「……可能性はあるな」
ジャックスはスカルディアと同じように思った。現状手を出してこないのはルドワードとアリシアの関係が発展していないことにある可能性が高い。相手の狙いが二人の予想通りならそういうことになる。
ジャックスはアルシードと合流するべく向かった。
スカルディアはそれを見届けてルドワードの執務室に向かった。
***
スカルディアが執務室の前に来るとディスタとルドワードの仕事の話をしているのが聞こえた。
スカルディアはため息をついて覚悟を決めた。いくらアリシアのためとはいえ、これでルドワードの逆鱗に触れることでもあればスカルディアでもただじゃすまないからだ。
戦争時戦いこそしなかったが兄であるルドワードの力の強さをスカルディアは知っている。
スカルディアは息を整えて、扉を開けた。ノックをせずに。
中にいたディスタとルドワードは一瞬身構えたが来たのがスカルディアだと分かるとほっとした。
「スカル、執務中だぞ」
「兄貴は執務より大事なことがあるんじゃないのか?」
「執務より?」
「スカルディア様、何を申されているのですか?」
「ふん!」
スカルディアは扉の外を気にしつつ、閉めた。そしてルドワードのいる執務机の所に向かった。
「何しているか知らないけどこれ以上一人で動くのはやめてくれないか、兄貴」
「何を言っている?」
「わからないか?兄貴が一人で動くには限界だって話だ」
「スカル」
「兄貴は何もわかっていない。こうしてシア姉を守っているつもりかもしれないが」
「なんだ?」
ルドワードはスカルディアを見た。いつもと違うその様子に訝しげている。
「兄貴、俺は兄貴のことが大切だ。だがシア姉のことも大切だ」
「ああ」
「兄貴が本当にシア姉のことを思うんなら一秒でも長くそばにいてやるべきだ」
「スカル」
「兄貴は遠くからシア姉を見ていたけどシア姉は朝しかあっていないんだ。花嫁をいつまで一人でいさせるつもりだよ」
「お前たちがいるだろう」
「兄貴、周りと花婿とどっちにいてもらいたいと思う?」
「っっ!!」
「それさえもわからないんなら兄貴はシア姉を悲しませるだけだ……俺の時と同じようにな」
ルドワードは目を見開いた。仕事にかまけてまだ少し幼かったスカルディアをあまりかまってあげられず寂しい思いをさせていた。
父親も戦争中であった為そばにはいなかった。
当時のスカルディアのそばにいたのはルドワードが信頼できる一部の存在だけだった。ジャックスもその一人だ。
ルドワードはスカルディアに言われ、当時のスカルディアと同じ状況になっていることにやっと気づいた。
アリシアが眠った後に見に行ったり、執務室など遠くから様子を時々見ている程度で確かにルドワードは会っているがアリシアは会っていない状況だ。
ディスタは何も言えずにいた。この状況を作ってしまった要因の一人でもあるからだ。
アリシアが心配しないように告げずに事を進めていた。だが思ったより時間がかかってしまっている。行き詰っているためこうして何度も話し合いをしているのだが解決策も見つからないままに時間だけが過ぎ去っている。
スカルディアはディスタを見た。ディスタもこれ以上はどうにもできないと判断し、ため息をついた。
「今回ばかりはスカルディア様の方が正しいようですね。何がお望みで?」
「わかりきったこと。普段の業務だけならここまでならないだろ、通常業務以外はシア姉のところにいてやれ……その方がつれそうだし」
「つれる?」
「どういうことです?」
「追ってるものが同じならいいんだがな」
「シアに何かあったのか?!」
ルドワードとディスタはスカルディアの言葉に食いついた。それは自分たちだけで解決しようとしている事と同じことかもしれないからだ。もちろん、それはスカルディアも思っていた。
ルドワードはアリシアに何かあったのかと思い、慌てた。その様子にスカルディアの方が驚いた。そして呆れもした。そこまで思っているのならそばにいればいいのにと思ったからだ。
「俺たちがいるのに何かあるわけないだろう。だが、監視している節がある。何かあれば出てくるだろう」
「シアを囮にするつもりか?」
「まさか?!シア姉に危険が及ぶようなことはしない!だが相手が望まない方向に来れば動き出す……そういうものだろ、嫌な奴ってのは」
「スカル?」
話をしていてスカルディアは嫌なことを思い出して暗くなった。
「俺は嫌な奴をたくさん見てきた……兄貴以上にな。そんな中で俺を普通に受け入れてくれるシア姉は大切だ、幸せになってほしい。それができるのは俺の大事な兄貴だけなんだ」
「スカルディア様」
「これでも俺だって考えているんだ。兄貴ほど頭はよくないけどな」
「いや、お前はいい子だよ。スカル」
「はは、兄貴にそう言ってもらえたの久しぶりだ……今日の分が終わったらシア姉のところに来いよ、兄貴。絶対に喜ぶ」
スカルディアはそう言って執務室から出ていった。その顔は少し晴れやかだった。
スカルディアは緊張からとかれて安堵のため息が出た。ルドワードもディスタも返事こそしなかったが様子から見て通常の仕事が終わり次第アリシアのもとにくることが分かった。それだけでスカルディアは満足だった。久しぶりにアリシアが心から笑った顔が見られる。それが嬉しいからだ。
スカルディアが出ていった執務室ではルドワードが苦笑していた。
「スカルに言われてしまった」
「今回ばかりは私たちが悪いですね、こちらだけで解決しようとしたのが間違いでした」
「そうだな。見落としてしまっていた」
「竜王?」
「スカルの言うとおりだな、シアが起きていない時に会ってもシアにしてみれば会ってないのと同じことだ」
「そうですね」
「それにシアを守るなら任せた面々と連携するべきだった」
「今からでも間に合いますよ。どうやらあちらは相手に目星をつけているようですので」
「そうだな……良し!これが済んだらシアとお茶をしよう」
「それがいいですね」
「もちろんお前も来るんだぞ、ディスタ」
「了解しました」
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