30 / 118
第一章
21、誘拐犯の正体
しおりを挟む
ルドワードたちがルイと接触している間にアリシアはある屋敷に連れてこられた。そこはルイやカイ、リンの主人の屋敷でそこの一室に入れられた。
そこは屋敷の中で一番質素な場所ではあったが主人の見栄なのかそれでも調度品は確かなものばかりだった。
カイがアリシアを連れてくると自らの正体を隠すようにローブに包まれた主人がいた。主人がベッドの方に顎をやるのを見てカイはアリシアをそこのベッドに寝かした。
「花嫁の捕獲完了しました」
「ああ、鎖でつないでおけ」
「了解しました」
カイは言われたとおりに鎖でベッドとアリシアの右腕をつないだ。カイは主人に天井にいるように命ぜられ、天井裏から事の成り行きを見ることになった。
だが、天井裏にルイがいないことを確認して安堵した。これから行われるだろうことをルイが見る必要はないのだ。
(ごめんね、花嫁さん)
カイは心の中でアリシアに謝った。自身の右肩をつかんで。カイもまたそこにある証が刻まれている。それは何をしても消えることはない。カイたちには消し方さえも分からない。そしてそれがカイたち兄弟を苦しませる生い立ちの証だ。
しばらくするとアリシアが目を覚ました。
アリシアは視界に入ったその場所が知っている所でないことに驚いた。そして自身の右腕につけられている鎖の手かせをみていた。そうしているとこの屋敷の主人が話しかけた。
「目が覚めたようだな」
「だ、誰ですか?!」
「この屋敷の主人だ、ユーザリアから来た花嫁」
「……ここはどこですか?」
「ここは王都・グランディアから離れたわが領地」
「私に何用ですか?」
アリシアは努めて気丈にふるまった。何一つ情報を渡そうとしない目の前の人物に危機感を覚えたからだ。左手で手かせに触れた。
気がかりなのは気を失う直前まで一緒にいたリンが側にいないことだ。
「簡単な話だ。君にあいつの子供を産まれては困るんだよ」
「……」
「王族の血統に忌まわしき『人間の血』を入れるわけにはいかない」
「それで私に何をするつもりですか?」
「子供を産めなくする、ただそれだけだ」
屋敷の主人は黒い笑みを浮かべた。アリシアは発せられた言葉に絶句した。
屋敷の主人は「子供を産めなくする」と言った。道具も何もないこの部屋でそれが出来る方法は限られている。アリシアは青ざめた。
アリシアの怯えた表情を見て屋敷の主人は笑みを深くした。そして合図を送ると数人の男たちが入ってきた。
男たちは覆面をしているがそれ以外はパンツのみで自身の屈強な体をさらしていた。間違ってもアリシアがかなう相手ではない。もちろんそんな男たちにかなうものなど限られているだろう。
男たちは卑下た笑い声を上げながら屋敷の主人に話しかけた。
「本当にこの女を自由にしていいのですか?」
「ああ、かまわん。壊してしまえ」
「あ~あ、かわいそうに。ここに嫁がなければこんな目に合わずに済んだのによう」
「ちげぇねぇ」
男たちは楽しそうに獲物であるアリシアに詰め寄っていった。
カイは天井裏で口をかみしめていた。傷つけたくない相手が傷つくのを見届けなくてはいけない。こんなことリンにもルイにもカイはさせたくない。
だから一人でここにいる。何かあった際に飛び込んでいけるように。
カイがアリシアの方に目をやると驚いた。アリシアは絶句はしていても絶望はしていなかった。
「あなたがどなたかは分かりませんが一つ言わせてもらいます」
「なんだ?」
「あまりユーザリア大国の者を見くびらないでいただきたいです」
「何だと?」
「力がすべてではございませんよ?」
「構わん!やって黙らせろ!!」
男たちは屋敷の主人の命に従ってアリシアにかけていった。
だが、誰一人としてアリシアにたどり着かなかった。アリシアにたどり着く直前になって何かに阻まれ、勢いのまま全員が頭を打ち気絶したのだ。
その光景に屋敷の主人は言葉が出なかった。
そうしているとアリシアがベッドより下りた。鎖の手かせはベッドから出れるほどの長さはなかった。だがアリシアはベッドから下りている。その手には開錠された手かせがあった。
屋敷の主人は己が目を疑った。
「な、なぜ?」
「なぜ?簡単なことです。私はユーザリア大国の者。こんな変哲もない鎖の手かせならすぐに開錠できます」
(すごい)
カイは感嘆した。ただ悲しみ、もがきながらもなす術なく事が行われるものだとこの場に居合わせた者たち全員が思っていたからだ。
だが、実際はアリシアは自らの主人と対峙している。ただ竜王たちに守られている少女ではなかった。戦う術を持った少女だ。
「ユーザリアの魔法か」
「理解しているようですね」
「忌まわしい奴だ、おとなしく犯されていればいいものを!」
「誰が愛した人以外にされますか!」
(まぁ、確かにね)
「だがここからは逃げられないぞ、お前にはここの地理がない。帰り道など分かるまい!!」
屋敷の主人は高笑いをした。確かにアリシアにはここがどこでどう帰ればいいのか分からない。
だがアリシアには焦りはなかった。それは確かな自信があった。確かではあるが根拠はない。
「ルド様たちがすぐに迎えに来てくださりますのでお気になさらず」
「……なぜそう言える」
「信じておりますので」
「信じる?ハハハハ!なんの根拠もない。本当に信じられるのか?」
「もちろんです」
「これを見てもか?来い!リン・ロウ」
屋敷の主人は自らの右腕をつかみ、リンの名を呼ぶと召喚陣が浮き出てそこからリンが出てきた。さすがのアリシアも驚いた。召喚陣が出たこともそこからリンが召喚されたことも。
「リン?なぜ?」
「リンはわが僕だ。つまりお前をここに導いたのはお前の信じるリンだ」
「アリシア様……申し訳ありません」
(姉さん!)
カイは急に召喚されたリンを見て苦悩した。リンを本当は巻き込みたくはなかった。一番近くにいたからこそリンには苦しむアリシアを見せたくなかった。
アリシアはリンを見ていた。リンはアリシアの視線に耐え切れず瞳をそらした。その瞳には雫が一つ流れた。
「リン」
「アリシア様」
「大丈夫ですよ、あなたは悪くありません」
「っっ!」
「何を言っている?」
「私はあなたを許さないと言っているのです」
アリシアの魔力が上がった。アリシアが一歩また一歩と屋敷の主人に近づく。
アリシアはリンを防護球の中に閉じ込めた。間違っても流れ弾が行かないように。
「その姿拝見させていただきます。衝撃破」
「っっ!!」
アリシアはわざとローブをはぎ取るように攻撃した。ローブは留め具を破壊され、衝撃破の余波で吹き飛んでいった。
そして現れた屋敷の主人の姿をアリシアは見た。
それは竜の亜人だった。目つきも悪く、紫の瞳に金色の短髪をしている。
「竜の亜人?ルド様たちの関係者?」
「あんな奴らと一緒にするな!俺の方が正統な後継者だ!!」
「正統な後継者?」
「わが名はエンデリック・ディス・クレメント。本来は俺がこの国の王になるはずだった」
「……」
「あいつらさえいなければ!」
アリシアはエンデリックを見た。本人は正統な後継者だというがアリシアにはそうは見えなかった。だが竜の亜人がそう多くいるとはアリシアにも思えなかった。この国の王を竜王と呼ぶように竜の亜人であることが王家の血筋という可能性がある。
アリシアの疑問に答えたのはリンだった。
「アリシア様、この国で王族やその分家に当たる方々だけが竜の亜人であり、竜の獣人なのです」
「王族とその分家」
「あいつらさえいなければ俺が竜王になっていたものを!忌々しい!!」
アリシアは呆れた。エンデリックがどのような者か分からないが少なくともアリシアには竜王に向かない人物であることが分かった。
傲慢なものが頂点に立てばその行く先が既に見えている。
「あなたは己の欲望を叶えるためだけにこんなことをしているのですか?」
「欲望?違うな、正しい道になおすだけだ」
「誰も望んでいないことをするのは自らの欲望です。今日半日を見ても分かります。ルド様はこの十五年でこの国を良き方に導いています。誰にでもできる事ではありません」
「俺ならもっと良く出来る!」
「あなたが歩む道に人々の幸せがあるとは思えません。少なくともリンをこんな風に苦しめているあなたに王になる資格などありません」
「きさま!!」
アリシアは防護球を強めた。間違ってもリンを召喚されないために。これで簡単には召喚できなくなった。
そしてアリシアは力を込めた。身勝手なわがまま者を黙らせるために。
「衝撃破!」
「来い!カイ・ロウ!!」
「え?ぐふっ!」
「カ、カイ!!」
「な、なに?!」
エンデリックはリンの方を見たが呼べないのを理解し、天井裏に忍ばせておいたカイを召喚した。
カイは急の召喚に驚き、防御もできないままアリシアの衝撃破を受けた。
リンはカイが召喚され、アリシアの攻撃を受けたことに叫んだ。
アリシアは別の人物の召喚に驚いた。
エンデリックはカイを盾代わりに使ったのだ。
「ハハハハ、リンだけが俺の手持ちじゃない。まぁ、こいつはリンの弟だがな」
「リンの弟」
「カイ!カイ!!返事をして!」
「グッ、姉、さん」
カイは頭を振って正面を見た。アリシアがとっさに力を緩めたからだ。アリシアは顔をしかめた。
エンデリックは再度黒く笑った。アリシアにとってリンの弟であるカイを傷つけられないことがその表情から読み取れたのだ。そして最も最低な命をカイにした。
「カイ、命令だ。お前がそいつを犯せ」
「なっ!」
「リンの弟であるお前をそいつは邪険に扱えない。子供などできないように犯しつくせ」
「っっっ!そ、それは」
「何をしている、命令だ。それとも命令違反か?」
「ぐぅぅ!りょ、了解、で…す」
エンデリックが命令違反だと判断しようとした際カイは右肩をつかんで苦しんだ。そして命令に従うとその痛みは消えた。その様子を見てアリシアはあることを確信した。
アリシアは近づいてくるカイから距離を保っていたが壁にぶつかり、それ以上逃げれなくなった。逃げ場をなくしたアリシアは恐怖した。リンの弟を傷つけることはアリシアにはできなかった。
カイはなるべく乱暴にならないように気をつけながらアリシアをベッドに横たわらせ、その上にのり上半身の服を脱いだ。
その右肩にはある証があった。そうそれは十五年も前に一部の貴族たちがドラグーン国民につけた服従の刻印だ。
アリシアはその刻印に目をやりながらも現状に恐怖した。ルドワードたちが必ず助けに来てくれると信じているが、相手がカイである以上アリシアは満足な抵抗もできない。
「や、やめて」
「っっ!……すみません、花嫁さん」
「カイ、アリシア様……誰か、助けて」
「はやくしろ!」
エンドリックの命令が下ったとき扉が大きな音を立てて蹴破られた。
そこにいた人物たちの姿を目にとめたアリシアは涙した。
そこは屋敷の中で一番質素な場所ではあったが主人の見栄なのかそれでも調度品は確かなものばかりだった。
カイがアリシアを連れてくると自らの正体を隠すようにローブに包まれた主人がいた。主人がベッドの方に顎をやるのを見てカイはアリシアをそこのベッドに寝かした。
「花嫁の捕獲完了しました」
「ああ、鎖でつないでおけ」
「了解しました」
カイは言われたとおりに鎖でベッドとアリシアの右腕をつないだ。カイは主人に天井にいるように命ぜられ、天井裏から事の成り行きを見ることになった。
だが、天井裏にルイがいないことを確認して安堵した。これから行われるだろうことをルイが見る必要はないのだ。
(ごめんね、花嫁さん)
カイは心の中でアリシアに謝った。自身の右肩をつかんで。カイもまたそこにある証が刻まれている。それは何をしても消えることはない。カイたちには消し方さえも分からない。そしてそれがカイたち兄弟を苦しませる生い立ちの証だ。
しばらくするとアリシアが目を覚ました。
アリシアは視界に入ったその場所が知っている所でないことに驚いた。そして自身の右腕につけられている鎖の手かせをみていた。そうしているとこの屋敷の主人が話しかけた。
「目が覚めたようだな」
「だ、誰ですか?!」
「この屋敷の主人だ、ユーザリアから来た花嫁」
「……ここはどこですか?」
「ここは王都・グランディアから離れたわが領地」
「私に何用ですか?」
アリシアは努めて気丈にふるまった。何一つ情報を渡そうとしない目の前の人物に危機感を覚えたからだ。左手で手かせに触れた。
気がかりなのは気を失う直前まで一緒にいたリンが側にいないことだ。
「簡単な話だ。君にあいつの子供を産まれては困るんだよ」
「……」
「王族の血統に忌まわしき『人間の血』を入れるわけにはいかない」
「それで私に何をするつもりですか?」
「子供を産めなくする、ただそれだけだ」
屋敷の主人は黒い笑みを浮かべた。アリシアは発せられた言葉に絶句した。
屋敷の主人は「子供を産めなくする」と言った。道具も何もないこの部屋でそれが出来る方法は限られている。アリシアは青ざめた。
アリシアの怯えた表情を見て屋敷の主人は笑みを深くした。そして合図を送ると数人の男たちが入ってきた。
男たちは覆面をしているがそれ以外はパンツのみで自身の屈強な体をさらしていた。間違ってもアリシアがかなう相手ではない。もちろんそんな男たちにかなうものなど限られているだろう。
男たちは卑下た笑い声を上げながら屋敷の主人に話しかけた。
「本当にこの女を自由にしていいのですか?」
「ああ、かまわん。壊してしまえ」
「あ~あ、かわいそうに。ここに嫁がなければこんな目に合わずに済んだのによう」
「ちげぇねぇ」
男たちは楽しそうに獲物であるアリシアに詰め寄っていった。
カイは天井裏で口をかみしめていた。傷つけたくない相手が傷つくのを見届けなくてはいけない。こんなことリンにもルイにもカイはさせたくない。
だから一人でここにいる。何かあった際に飛び込んでいけるように。
カイがアリシアの方に目をやると驚いた。アリシアは絶句はしていても絶望はしていなかった。
「あなたがどなたかは分かりませんが一つ言わせてもらいます」
「なんだ?」
「あまりユーザリア大国の者を見くびらないでいただきたいです」
「何だと?」
「力がすべてではございませんよ?」
「構わん!やって黙らせろ!!」
男たちは屋敷の主人の命に従ってアリシアにかけていった。
だが、誰一人としてアリシアにたどり着かなかった。アリシアにたどり着く直前になって何かに阻まれ、勢いのまま全員が頭を打ち気絶したのだ。
その光景に屋敷の主人は言葉が出なかった。
そうしているとアリシアがベッドより下りた。鎖の手かせはベッドから出れるほどの長さはなかった。だがアリシアはベッドから下りている。その手には開錠された手かせがあった。
屋敷の主人は己が目を疑った。
「な、なぜ?」
「なぜ?簡単なことです。私はユーザリア大国の者。こんな変哲もない鎖の手かせならすぐに開錠できます」
(すごい)
カイは感嘆した。ただ悲しみ、もがきながらもなす術なく事が行われるものだとこの場に居合わせた者たち全員が思っていたからだ。
だが、実際はアリシアは自らの主人と対峙している。ただ竜王たちに守られている少女ではなかった。戦う術を持った少女だ。
「ユーザリアの魔法か」
「理解しているようですね」
「忌まわしい奴だ、おとなしく犯されていればいいものを!」
「誰が愛した人以外にされますか!」
(まぁ、確かにね)
「だがここからは逃げられないぞ、お前にはここの地理がない。帰り道など分かるまい!!」
屋敷の主人は高笑いをした。確かにアリシアにはここがどこでどう帰ればいいのか分からない。
だがアリシアには焦りはなかった。それは確かな自信があった。確かではあるが根拠はない。
「ルド様たちがすぐに迎えに来てくださりますのでお気になさらず」
「……なぜそう言える」
「信じておりますので」
「信じる?ハハハハ!なんの根拠もない。本当に信じられるのか?」
「もちろんです」
「これを見てもか?来い!リン・ロウ」
屋敷の主人は自らの右腕をつかみ、リンの名を呼ぶと召喚陣が浮き出てそこからリンが出てきた。さすがのアリシアも驚いた。召喚陣が出たこともそこからリンが召喚されたことも。
「リン?なぜ?」
「リンはわが僕だ。つまりお前をここに導いたのはお前の信じるリンだ」
「アリシア様……申し訳ありません」
(姉さん!)
カイは急に召喚されたリンを見て苦悩した。リンを本当は巻き込みたくはなかった。一番近くにいたからこそリンには苦しむアリシアを見せたくなかった。
アリシアはリンを見ていた。リンはアリシアの視線に耐え切れず瞳をそらした。その瞳には雫が一つ流れた。
「リン」
「アリシア様」
「大丈夫ですよ、あなたは悪くありません」
「っっ!」
「何を言っている?」
「私はあなたを許さないと言っているのです」
アリシアの魔力が上がった。アリシアが一歩また一歩と屋敷の主人に近づく。
アリシアはリンを防護球の中に閉じ込めた。間違っても流れ弾が行かないように。
「その姿拝見させていただきます。衝撃破」
「っっ!!」
アリシアはわざとローブをはぎ取るように攻撃した。ローブは留め具を破壊され、衝撃破の余波で吹き飛んでいった。
そして現れた屋敷の主人の姿をアリシアは見た。
それは竜の亜人だった。目つきも悪く、紫の瞳に金色の短髪をしている。
「竜の亜人?ルド様たちの関係者?」
「あんな奴らと一緒にするな!俺の方が正統な後継者だ!!」
「正統な後継者?」
「わが名はエンデリック・ディス・クレメント。本来は俺がこの国の王になるはずだった」
「……」
「あいつらさえいなければ!」
アリシアはエンデリックを見た。本人は正統な後継者だというがアリシアにはそうは見えなかった。だが竜の亜人がそう多くいるとはアリシアにも思えなかった。この国の王を竜王と呼ぶように竜の亜人であることが王家の血筋という可能性がある。
アリシアの疑問に答えたのはリンだった。
「アリシア様、この国で王族やその分家に当たる方々だけが竜の亜人であり、竜の獣人なのです」
「王族とその分家」
「あいつらさえいなければ俺が竜王になっていたものを!忌々しい!!」
アリシアは呆れた。エンデリックがどのような者か分からないが少なくともアリシアには竜王に向かない人物であることが分かった。
傲慢なものが頂点に立てばその行く先が既に見えている。
「あなたは己の欲望を叶えるためだけにこんなことをしているのですか?」
「欲望?違うな、正しい道になおすだけだ」
「誰も望んでいないことをするのは自らの欲望です。今日半日を見ても分かります。ルド様はこの十五年でこの国を良き方に導いています。誰にでもできる事ではありません」
「俺ならもっと良く出来る!」
「あなたが歩む道に人々の幸せがあるとは思えません。少なくともリンをこんな風に苦しめているあなたに王になる資格などありません」
「きさま!!」
アリシアは防護球を強めた。間違ってもリンを召喚されないために。これで簡単には召喚できなくなった。
そしてアリシアは力を込めた。身勝手なわがまま者を黙らせるために。
「衝撃破!」
「来い!カイ・ロウ!!」
「え?ぐふっ!」
「カ、カイ!!」
「な、なに?!」
エンデリックはリンの方を見たが呼べないのを理解し、天井裏に忍ばせておいたカイを召喚した。
カイは急の召喚に驚き、防御もできないままアリシアの衝撃破を受けた。
リンはカイが召喚され、アリシアの攻撃を受けたことに叫んだ。
アリシアは別の人物の召喚に驚いた。
エンデリックはカイを盾代わりに使ったのだ。
「ハハハハ、リンだけが俺の手持ちじゃない。まぁ、こいつはリンの弟だがな」
「リンの弟」
「カイ!カイ!!返事をして!」
「グッ、姉、さん」
カイは頭を振って正面を見た。アリシアがとっさに力を緩めたからだ。アリシアは顔をしかめた。
エンデリックは再度黒く笑った。アリシアにとってリンの弟であるカイを傷つけられないことがその表情から読み取れたのだ。そして最も最低な命をカイにした。
「カイ、命令だ。お前がそいつを犯せ」
「なっ!」
「リンの弟であるお前をそいつは邪険に扱えない。子供などできないように犯しつくせ」
「っっっ!そ、それは」
「何をしている、命令だ。それとも命令違反か?」
「ぐぅぅ!りょ、了解、で…す」
エンデリックが命令違反だと判断しようとした際カイは右肩をつかんで苦しんだ。そして命令に従うとその痛みは消えた。その様子を見てアリシアはあることを確信した。
アリシアは近づいてくるカイから距離を保っていたが壁にぶつかり、それ以上逃げれなくなった。逃げ場をなくしたアリシアは恐怖した。リンの弟を傷つけることはアリシアにはできなかった。
カイはなるべく乱暴にならないように気をつけながらアリシアをベッドに横たわらせ、その上にのり上半身の服を脱いだ。
その右肩にはある証があった。そうそれは十五年も前に一部の貴族たちがドラグーン国民につけた服従の刻印だ。
アリシアはその刻印に目をやりながらも現状に恐怖した。ルドワードたちが必ず助けに来てくれると信じているが、相手がカイである以上アリシアは満足な抵抗もできない。
「や、やめて」
「っっ!……すみません、花嫁さん」
「カイ、アリシア様……誰か、助けて」
「はやくしろ!」
エンドリックの命令が下ったとき扉が大きな音を立てて蹴破られた。
そこにいた人物たちの姿を目にとめたアリシアは涙した。
13
あなたにおすすめの小説
前世で孵した竜の卵~幼竜が竜王になって迎えに来ました~
高遠すばる
恋愛
エリナには前世の記憶がある。
先代竜王の「仮の伴侶」であり、人間貴族であった「エリスティナ」の記憶。
先代竜王に真の番が現れてからは虐げられる日々、その末に追放され、非業の死を遂げたエリスティナ。
普通の平民に生まれ変わったエリスティナ、改めエリナは強く心に決めている。
「もう二度と、竜種とかかわらないで生きていこう!」
たったひとつ、心残りは前世で捨てられていた卵から孵ったはちみつ色の髪をした竜種の雛のこと。クリスと名付け、かわいがっていたその少年のことだけが忘れられない。
そんなある日、エリナのもとへ、今代竜王の遣いがやってくる。
はちみつ色の髪をした竜王曰く。
「あなたが、僕の運命の番だからです。エリナ。愛しいひと」
番なんてもうこりごり、そんなエリナとエリナを一身に愛する竜王のラブロマンス・ファンタジー!
黒騎士団の娼婦
イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
王宮侍女は穴に落ちる
斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された
アニエスは王宮で運良く職を得る。
呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き
の侍女として。
忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。
ところが、ある日ちょっとした諍いから
突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。
ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな
俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され
るお話です。
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる