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第一章
22、奪還
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アリシアがエンデリックと対峙している頃ルドワードたちはその屋敷に向かって林の中を馬で駆けていた。
ルドワードたちはこの林の道に覚えがあり、行き先が予想できた。
それによってスカルディアはこの上もなく嫌そうな顔をしていた。それを見た誰もが何も言わなかった。表面に出さないだけで全員が同じ気持ちだからだ。
「この道……」
「やっぱりあいつなのか?」
「予想通りだと思いますよ、俺はあいつ嫌いですから何とでも言っていいと思いますけど」
「嫌いって」
アルシードは自らの主人だと言いつつもそんなことを言うルイに苦笑した。
「嫌いですよ、同じドラグーン出身なのにあんなことするやつ」
「……なんだかすまないな」
「いえ、竜王様は悪くないですよ!あいつの逆恨みでしょ」
「確かに」
「スカルディア様、一度口をお閉じになられては」
「うるさい」
面々は馬を走らせる速度を速めた。相手が相手だけにアリシアのことが余計に心配になった。
「竜王様、花嫁様が通される部屋はたぶん二階の東の奥の部屋です」
「東の奥の部屋?」
「あそこだけはあの屋敷で一番地味なんですよ。あの見栄っ張りはある程度のメンツが保てるだけの部屋に入れるはずですから」
「そうか」
「それに、そこに兄貴の気配がするんです」
「兄の気配?」
「俺たちは嫌なものでつながっているから、それが居場所を教えてくれるんです」
「分かった。全員屋敷に着いたらその部屋に向かう」
「了解!」
「シア、無事でいてくれ」
(花嫁様、兄貴)
屋敷に着くと馬を下り、そのままルイが言っていた部屋に向かった。急なルドワードたちの来訪にその屋敷のメイドたちは慌てた。
五人の気迫に飲まれ止めることもできずに後をついて行くことしかできなかった。
***
目的の部屋にたどり着いてすぐにルドワードは扉を勢いよく開けた。
そこで五人が目にしたのはベッドに寝かされたアリシアの上にのっている上半身裸のカイと光の入り具合で虹色に輝く球体の中にいるリン、それにベッドの近くにたたずむ今回の主犯と思われるエンデリックだ。
その場の全員が突然の侵入と状況に固まってしまった。
先に動いたのはルイだった。
「あ、兄貴?!何やってんだよ?」
「ルイ、お前、何で?」
「ルイ、あなた」
カイとリンは困惑した。確かに気配が屋敷からなかった。だからルイは竜王城にいるのだとばかり思っていたのだ。
それが今ここにいるだけでなく、ルドワードたちと一緒にやってきたのだ。その現実をリンとカイは理解した瞬間に青ざめた。カイはアリシアの上からよろめきながら下り、壁にもたれかかった。そんなカイにルイは駆け寄っていった。
カイがどけたことで上半身を起こしながらアリシアはルドワードたちの姿をしっかりと見れて安堵の声を上げた。
「ルド様、スカル様」
「シア!」
「シア姉!」
ルドワードとスカルディアはアリシアの声にはじかれたように側に駆け寄った。二人はアリシアの無事を確認するようにアリシアを抱きしめた。そんな二人をアリシアも抱きしめ返した。
アルシードはリンの入っている球体のそばに寄った。
「リン、どうして?」
「すみません、アルシード様」
「いや、謝られても……これがお前の言っていたことか」
「はい……すみません」
「泣くな、もう大丈夫だから」
「はい、はい。ありがとうございます、アルシード様」
リンはアルシードたちが来てくれたことに安堵して泣いた。アルシードはリンを覆っている膜しか触れなかったが優しい顔をしてリンを見ていた。
ジャックスはそんな周りを見て苦笑しながらも視線はいまだに固まっているエンデリックに向けている。
やっと状況が把握できたエンデリックは顔を真っ赤にして怒り出した。
「ルイ!貴様、俺を裏切ったな!!」
「ぐぅ、あああああああ!」
「ルイ!」
「ルイ!」
「な、何事だ?!」
エンデリックの怒りに呼応するようにルイは右肩をつかんで苦しみだした。カイはルイを抱きしめた。リンは球体から出ようとしたが出れず悲痛な声を上げた。
それを見たルドワードたちはいきなり苦しみだしたことに驚いた。
アリシアはルイとカイを包むように防護球を展開させた。包まれた瞬間ルイの苦しみが落ち着いた。それを見計らってアリシアはリンとカイとルイの防護球を一つにした。
弟たちが来たことによりリンは二人を抱きしめた。それを見たアルシードは防護球を守るように前に立った。アリシアはエンデリックを睨み付けながら言った。
「私の防護球は魔力の効果を通しません」
「チッ!」
「魔力?まさか?!」
「はい、あの三人はある魔術によってそこの方に縛られています。十五年前ユーザリアでは禁術になった魔術」
「まさか?!あいつはドラグーン国民だぞ!ドラグーンには魔術を使える者なんて」
「その禁術は本人が魔術を使えなくてもいいのです。仲介人が出来ればそれで解決します。そしてその証がある限り縛られ続けます」
アリシアは自分の横にあった。カイの上着を持ってカイたちのもとに向かった。それにルドワードもスカルディアもついて行った。
アリシアはカイにその上着を掛けてあげた。そんな証をさらしていたくないだろうと思ったからだ。カイはアリシアのその心遣いに感謝した。
ルドワードたちはエンデリックを見た。
「エンデリック、あなたという人は!」
「お前たちが悪いんだ!俺の邪魔をしようとするから!!」
「俺たちが何したっていうんだよ!あんたはいつもそうだ!俺や兄貴のことを見下しやがって!!」
「当たり前だ!お前たちさえいなければ俺がこの国を統べていた!」
「哀れだな、エンデリック」
「ジャックス」
エンデリックの叫びにジャックスは呆れた声で話した。
「お前はいつもそうだ。周りが見えていない。だから前竜王は後継者を残す事を早々に考えた。お前に後を継がせればどうなるか、前竜王もその前の竜王もわかっていた」
「な、何だと?」
「前竜王はお前に跡目を継がせる気は毛頭なかった」
「そんな、そんなことは関係ない!人間と関係を持つなど認めない!」
「エンデリック、あなたを拘束する」
「くそっ!!」
エンデリックはジャックスの話を受け入れられなかった。次期竜王は自分だと疑っていなかったし、ドラグーンを見下している人間と関係を持つなど許せなかった。
エンデリックはアリシアを拘束していた手かせでジャックスによって拘束された。リンたちを苦しめないように手かせには魔力効果不可の術をアリシアが施した。
そんなエンデリックの姿を見てアリシアは哀れに思った。変化を受け入れられないだけではなく、自分が嫌う人間と同じことをしていることに気づかないことも。
ルドワードはルイたちに優しい声で話しかけた。
「お前たちの処遇についても検討しよう」
「竜王様」
「悪い様にはしない」
「はい」
アリシアはそんな姿を見て微笑んでいた。
和やかな雰囲気になっているとジャックスの横だけが異常に不穏な雰囲気を醸し出していた。
「お前たちさえいなければ」
「エンデリック?」
「お前たちさえいなければ!!」
「ルド様!!」
エンデリックはそう叫びながらルドワードに向かって火の咆哮を放った。とっさのことでジャックスも反応できずに防げなかった。
それを見たアリシアは衝動的にルドワードの前に出た。リンたちを守る為に防護球を限界密度で展開し続けているため他の防御系の魔法を展開することが出来なかった。いや、しようと思えばできたのだが急すぎてその考えが出なかった。
反射的にルドワードの前に出たアリシアに火の咆哮が直撃した。
アリシアが自分をかばいエンデリックの火の咆哮を受けたのをルドワードにはスローモーションのように見えた。
「シ、シア?シア!アリシア!!」
「シア姉!」
「アリシア様!」
「花嫁様!」
「花嫁さん!」
スカルディアはアリシアとルドワードのもとに向かった。リンたち姉弟は防護球の中から青ざめ、叫んだ。アルシードはジャックスのもとに向かいエンデリックがこれ以上攻撃できないように拘束を強めた。
ルドワードはアリシアを抱えて名前を呼び続けた。
「シア!シア!」
「シア姉!」
「なぜ?なぜ、前に出た?」
ルドワードはアリシアに問いかけた。その声を聴いてアリシアはゆっくりと目を開けた。
「ルド、様」
「シア、なぜだ?」
「ルド、様が、傷つく事は、ありません……私、ルド様に、お話したいことが…あります」
「ああ、元気になったら、聞くから」
「ふふ、約束、ですよ?」
「もちろんだ」
弱弱しくもアリシアは微笑んだ。リンたちの方を見て、ルドワードにお願いした。
「リ、リンたちを、お願いします。回復に、力を…使います、ので……」
「ああ、わかった。全員、無事に帰ろう」
「はい」
アリシアはそう話すと眠りについた。アリシアが眠りにつくとリンたちを包んでいた防護球は解かれた。それに代わりアリシアは淡く優しい光に包まれた。それはとても暖かく優しい光だ。
ルドワードはアリシアを優しく抱えなおし、全員に号令をかけた。
「竜王城に帰ろう」
「兄貴」
「シアは回復に力を使うと言った。なら最悪の事態になる事はないだろう」
「でしたら早くお部屋で横になられませんと」
「そ、そうだな!おい、馬車は用意できないのか?」
「すぐに用意します」
スカルディアがメイドたちの方を見て言うとメイドたちは慌てて馬車の用意をするために走った。現状の把握をした限り、自らの主人に非がある事は明白でこれ以上竜王に逆らうのは爵位に傷がつくのが分かった。
「勝手なことをするな!ここは俺の屋敷だ!馬車の許可は出さないぞ!」
「おいおい、自分の立場を考えろよ。現竜王に牙をむいた反逆者の話を聞くわけないだろ」
「黙れ!近衛隊風情が!!」
メイドたちが馬車の用意のため走り出したのを見てエンデリックは静止の声を掛けた。
アルシードの言う通り反逆者となった主人の言葉に従い、没落するわけにもいかないが主人の命でもある。どうすればいいかわからず、メイドたちはジャックスの方を見た。
「はぁ~~、俺が許可を出そう。ジャックス・ワイズ・クレメントがな」
「はい、了解しました」
ジャックスはメイドたちの懇願するような瞳に耐え切れず、ため息をつきながら命を出した。メイドたちはその言葉を聞いて笑顔で準備にかかった。
ジャックスの正式名を聞いてアルシードとリン姉弟は驚いた。
「え?隊長の正式名ってそれなの?ワイズがファミリーネームじゃないの?」
「ジャックスの正式名はジャックス・ワイズ・クレメントでクレメント候爵の次期当主だ」
「エンデリックは俺の姉と一緒になったからな。姉に何かあったときは血筋で俺が当主となる事になっている」
「まさかの話だよ」
ルドワードやジャックスの説明にアルシードは呆れ顔になった。
そうしていると馬車の準備が整った。馬車は二台用意された。もちろん一つはアリシアとルドワード用でもう一つはエンデリック護送用だ。
「リン、お前たちはシアの方にのってくれ」
「りゅ、竜王様!?ですが私たちは……」
「シアはお前たち姉弟を守ってほしいと願った。何か理由があるのだろう?大丈夫だ」
「はい」
ルドワードと一緒にリン姉弟は馬車に乗った。アリシアはルドワードに抱えられている。
アリシアたちの馬車の御者の場所にスカルディアが御者と一緒に乗った。エンデリック護送用の御者のところにアルシードが座り、ジャックスはエンデリックと一緒に乗った。
竜王城に戻り次第スカルディアたちはエンデリックの逮捕を皮切りにその日半日で反竜王勢すべてを拘束することに成功した。
「これが芋づる方式ってことか」
「頂点をなくすとあっけないものだな」
そんな話をスカルディアとアルシードが満足げにしていた。
そしてアリシアが目を覚ましたのは夕飯時を過ぎたあたりだった。アリシアが目を覚ますまでルドワードは抱きしめていた。
ルドワードたちはこの林の道に覚えがあり、行き先が予想できた。
それによってスカルディアはこの上もなく嫌そうな顔をしていた。それを見た誰もが何も言わなかった。表面に出さないだけで全員が同じ気持ちだからだ。
「この道……」
「やっぱりあいつなのか?」
「予想通りだと思いますよ、俺はあいつ嫌いですから何とでも言っていいと思いますけど」
「嫌いって」
アルシードは自らの主人だと言いつつもそんなことを言うルイに苦笑した。
「嫌いですよ、同じドラグーン出身なのにあんなことするやつ」
「……なんだかすまないな」
「いえ、竜王様は悪くないですよ!あいつの逆恨みでしょ」
「確かに」
「スカルディア様、一度口をお閉じになられては」
「うるさい」
面々は馬を走らせる速度を速めた。相手が相手だけにアリシアのことが余計に心配になった。
「竜王様、花嫁様が通される部屋はたぶん二階の東の奥の部屋です」
「東の奥の部屋?」
「あそこだけはあの屋敷で一番地味なんですよ。あの見栄っ張りはある程度のメンツが保てるだけの部屋に入れるはずですから」
「そうか」
「それに、そこに兄貴の気配がするんです」
「兄の気配?」
「俺たちは嫌なものでつながっているから、それが居場所を教えてくれるんです」
「分かった。全員屋敷に着いたらその部屋に向かう」
「了解!」
「シア、無事でいてくれ」
(花嫁様、兄貴)
屋敷に着くと馬を下り、そのままルイが言っていた部屋に向かった。急なルドワードたちの来訪にその屋敷のメイドたちは慌てた。
五人の気迫に飲まれ止めることもできずに後をついて行くことしかできなかった。
***
目的の部屋にたどり着いてすぐにルドワードは扉を勢いよく開けた。
そこで五人が目にしたのはベッドに寝かされたアリシアの上にのっている上半身裸のカイと光の入り具合で虹色に輝く球体の中にいるリン、それにベッドの近くにたたずむ今回の主犯と思われるエンデリックだ。
その場の全員が突然の侵入と状況に固まってしまった。
先に動いたのはルイだった。
「あ、兄貴?!何やってんだよ?」
「ルイ、お前、何で?」
「ルイ、あなた」
カイとリンは困惑した。確かに気配が屋敷からなかった。だからルイは竜王城にいるのだとばかり思っていたのだ。
それが今ここにいるだけでなく、ルドワードたちと一緒にやってきたのだ。その現実をリンとカイは理解した瞬間に青ざめた。カイはアリシアの上からよろめきながら下り、壁にもたれかかった。そんなカイにルイは駆け寄っていった。
カイがどけたことで上半身を起こしながらアリシアはルドワードたちの姿をしっかりと見れて安堵の声を上げた。
「ルド様、スカル様」
「シア!」
「シア姉!」
ルドワードとスカルディアはアリシアの声にはじかれたように側に駆け寄った。二人はアリシアの無事を確認するようにアリシアを抱きしめた。そんな二人をアリシアも抱きしめ返した。
アルシードはリンの入っている球体のそばに寄った。
「リン、どうして?」
「すみません、アルシード様」
「いや、謝られても……これがお前の言っていたことか」
「はい……すみません」
「泣くな、もう大丈夫だから」
「はい、はい。ありがとうございます、アルシード様」
リンはアルシードたちが来てくれたことに安堵して泣いた。アルシードはリンを覆っている膜しか触れなかったが優しい顔をしてリンを見ていた。
ジャックスはそんな周りを見て苦笑しながらも視線はいまだに固まっているエンデリックに向けている。
やっと状況が把握できたエンデリックは顔を真っ赤にして怒り出した。
「ルイ!貴様、俺を裏切ったな!!」
「ぐぅ、あああああああ!」
「ルイ!」
「ルイ!」
「な、何事だ?!」
エンデリックの怒りに呼応するようにルイは右肩をつかんで苦しみだした。カイはルイを抱きしめた。リンは球体から出ようとしたが出れず悲痛な声を上げた。
それを見たルドワードたちはいきなり苦しみだしたことに驚いた。
アリシアはルイとカイを包むように防護球を展開させた。包まれた瞬間ルイの苦しみが落ち着いた。それを見計らってアリシアはリンとカイとルイの防護球を一つにした。
弟たちが来たことによりリンは二人を抱きしめた。それを見たアルシードは防護球を守るように前に立った。アリシアはエンデリックを睨み付けながら言った。
「私の防護球は魔力の効果を通しません」
「チッ!」
「魔力?まさか?!」
「はい、あの三人はある魔術によってそこの方に縛られています。十五年前ユーザリアでは禁術になった魔術」
「まさか?!あいつはドラグーン国民だぞ!ドラグーンには魔術を使える者なんて」
「その禁術は本人が魔術を使えなくてもいいのです。仲介人が出来ればそれで解決します。そしてその証がある限り縛られ続けます」
アリシアは自分の横にあった。カイの上着を持ってカイたちのもとに向かった。それにルドワードもスカルディアもついて行った。
アリシアはカイにその上着を掛けてあげた。そんな証をさらしていたくないだろうと思ったからだ。カイはアリシアのその心遣いに感謝した。
ルドワードたちはエンデリックを見た。
「エンデリック、あなたという人は!」
「お前たちが悪いんだ!俺の邪魔をしようとするから!!」
「俺たちが何したっていうんだよ!あんたはいつもそうだ!俺や兄貴のことを見下しやがって!!」
「当たり前だ!お前たちさえいなければ俺がこの国を統べていた!」
「哀れだな、エンデリック」
「ジャックス」
エンデリックの叫びにジャックスは呆れた声で話した。
「お前はいつもそうだ。周りが見えていない。だから前竜王は後継者を残す事を早々に考えた。お前に後を継がせればどうなるか、前竜王もその前の竜王もわかっていた」
「な、何だと?」
「前竜王はお前に跡目を継がせる気は毛頭なかった」
「そんな、そんなことは関係ない!人間と関係を持つなど認めない!」
「エンデリック、あなたを拘束する」
「くそっ!!」
エンデリックはジャックスの話を受け入れられなかった。次期竜王は自分だと疑っていなかったし、ドラグーンを見下している人間と関係を持つなど許せなかった。
エンデリックはアリシアを拘束していた手かせでジャックスによって拘束された。リンたちを苦しめないように手かせには魔力効果不可の術をアリシアが施した。
そんなエンデリックの姿を見てアリシアは哀れに思った。変化を受け入れられないだけではなく、自分が嫌う人間と同じことをしていることに気づかないことも。
ルドワードはルイたちに優しい声で話しかけた。
「お前たちの処遇についても検討しよう」
「竜王様」
「悪い様にはしない」
「はい」
アリシアはそんな姿を見て微笑んでいた。
和やかな雰囲気になっているとジャックスの横だけが異常に不穏な雰囲気を醸し出していた。
「お前たちさえいなければ」
「エンデリック?」
「お前たちさえいなければ!!」
「ルド様!!」
エンデリックはそう叫びながらルドワードに向かって火の咆哮を放った。とっさのことでジャックスも反応できずに防げなかった。
それを見たアリシアは衝動的にルドワードの前に出た。リンたちを守る為に防護球を限界密度で展開し続けているため他の防御系の魔法を展開することが出来なかった。いや、しようと思えばできたのだが急すぎてその考えが出なかった。
反射的にルドワードの前に出たアリシアに火の咆哮が直撃した。
アリシアが自分をかばいエンデリックの火の咆哮を受けたのをルドワードにはスローモーションのように見えた。
「シ、シア?シア!アリシア!!」
「シア姉!」
「アリシア様!」
「花嫁様!」
「花嫁さん!」
スカルディアはアリシアとルドワードのもとに向かった。リンたち姉弟は防護球の中から青ざめ、叫んだ。アルシードはジャックスのもとに向かいエンデリックがこれ以上攻撃できないように拘束を強めた。
ルドワードはアリシアを抱えて名前を呼び続けた。
「シア!シア!」
「シア姉!」
「なぜ?なぜ、前に出た?」
ルドワードはアリシアに問いかけた。その声を聴いてアリシアはゆっくりと目を開けた。
「ルド、様」
「シア、なぜだ?」
「ルド、様が、傷つく事は、ありません……私、ルド様に、お話したいことが…あります」
「ああ、元気になったら、聞くから」
「ふふ、約束、ですよ?」
「もちろんだ」
弱弱しくもアリシアは微笑んだ。リンたちの方を見て、ルドワードにお願いした。
「リ、リンたちを、お願いします。回復に、力を…使います、ので……」
「ああ、わかった。全員、無事に帰ろう」
「はい」
アリシアはそう話すと眠りについた。アリシアが眠りにつくとリンたちを包んでいた防護球は解かれた。それに代わりアリシアは淡く優しい光に包まれた。それはとても暖かく優しい光だ。
ルドワードはアリシアを優しく抱えなおし、全員に号令をかけた。
「竜王城に帰ろう」
「兄貴」
「シアは回復に力を使うと言った。なら最悪の事態になる事はないだろう」
「でしたら早くお部屋で横になられませんと」
「そ、そうだな!おい、馬車は用意できないのか?」
「すぐに用意します」
スカルディアがメイドたちの方を見て言うとメイドたちは慌てて馬車の用意をするために走った。現状の把握をした限り、自らの主人に非がある事は明白でこれ以上竜王に逆らうのは爵位に傷がつくのが分かった。
「勝手なことをするな!ここは俺の屋敷だ!馬車の許可は出さないぞ!」
「おいおい、自分の立場を考えろよ。現竜王に牙をむいた反逆者の話を聞くわけないだろ」
「黙れ!近衛隊風情が!!」
メイドたちが馬車の用意のため走り出したのを見てエンデリックは静止の声を掛けた。
アルシードの言う通り反逆者となった主人の言葉に従い、没落するわけにもいかないが主人の命でもある。どうすればいいかわからず、メイドたちはジャックスの方を見た。
「はぁ~~、俺が許可を出そう。ジャックス・ワイズ・クレメントがな」
「はい、了解しました」
ジャックスはメイドたちの懇願するような瞳に耐え切れず、ため息をつきながら命を出した。メイドたちはその言葉を聞いて笑顔で準備にかかった。
ジャックスの正式名を聞いてアルシードとリン姉弟は驚いた。
「え?隊長の正式名ってそれなの?ワイズがファミリーネームじゃないの?」
「ジャックスの正式名はジャックス・ワイズ・クレメントでクレメント候爵の次期当主だ」
「エンデリックは俺の姉と一緒になったからな。姉に何かあったときは血筋で俺が当主となる事になっている」
「まさかの話だよ」
ルドワードやジャックスの説明にアルシードは呆れ顔になった。
そうしていると馬車の準備が整った。馬車は二台用意された。もちろん一つはアリシアとルドワード用でもう一つはエンデリック護送用だ。
「リン、お前たちはシアの方にのってくれ」
「りゅ、竜王様!?ですが私たちは……」
「シアはお前たち姉弟を守ってほしいと願った。何か理由があるのだろう?大丈夫だ」
「はい」
ルドワードと一緒にリン姉弟は馬車に乗った。アリシアはルドワードに抱えられている。
アリシアたちの馬車の御者の場所にスカルディアが御者と一緒に乗った。エンデリック護送用の御者のところにアルシードが座り、ジャックスはエンデリックと一緒に乗った。
竜王城に戻り次第スカルディアたちはエンデリックの逮捕を皮切りにその日半日で反竜王勢すべてを拘束することに成功した。
「これが芋づる方式ってことか」
「頂点をなくすとあっけないものだな」
そんな話をスカルディアとアルシードが満足げにしていた。
そしてアリシアが目を覚ましたのは夕飯時を過ぎたあたりだった。アリシアが目を覚ますまでルドワードは抱きしめていた。
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