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第一章
11.5、閑話
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リンはため息をついた。
それは数日前の話だ、リンはある人物の間者としてこの城の侍女としてやってきた。いまだに目的は達成できる見通しも立っていなかったのだが思わぬ大役が入ってきた。それはこの国に嫁いでくるという花嫁付きの侍女だ。
向こうからも数人の侍女が来るようだがこちらでも不備がない様に選ばれた。侍女として入ってまだ数年だが実績を得られたようだ。
自らの主人に話をすると受けるように言われた。言われてすぐに話を受けた。
そこまではよかった。そう、そこで一緒になったのは侍女としてきたばかりの完全新人のマリア・グレイだった。リンは彼女のお目付け役兼フォロー係になった。
なんでそんな人選だったのか分からなかったが明るく人懐っこいマリアは花嫁の受けが良い可能性があるためだろう。あと、普通に猫の亜人は可愛い。それがいいのかもしれない。
リン自身が侍女として名が挙がったのも狼の亜人だからの可能性が強い。
人に近い亜人系は人間の受けがいいのだろう。ようは話しやすいのだ。
新しい主との対面を明日に控えたリンは一人廊下を歩いていた。今までマリアの最終確認とフォローを行っていたのだ。
やっと自室につく手前の曲がり角に一人の人物がいるのに気付いた。
リンは内心緊張した。そこにいたのはこの国随一の力を有している第一近衛隊の中でもトップ2の副隊長であるアルシード・グレイだ。
「お前が花嫁様付きの狼の亜人か」
「そうですが、何か?」
「いや、お前に聞いておきたいことがあったからな」
「聞きたいことですか?」
リンは内心焦った。まさか自分が間者であることに気付いたのではないかと思ったからだ。
猫は気紛れだが観察眼と洞察力は高い。落ち度はないはずだが何か感づいたのではないかと。
「ああ、俺のことは知っているか?」
「もちろんでございます。第一近衛隊副隊長、アルシード・グレイ様」
「そうか」
「有名でございますから」
リンは近づいてくるアルシードの行動をじっと見ていた。すぐにでも逃げれるように。だが次のアルシードの言葉につい呆けてしまった。
「それじゃあ、聞くが。マリアはどうだ?」
「は?マリア?ですか?」
リンはいきなり出たマリアの名前に首をかしげた。
アルシードは尻尾を落ち着きない様に左右に振りながら少しあたりを気にするように見渡して声を潜めて聞いてきた。
「ああ、マリアだ。マリア・グレイ……今期侍女になったうちの末妹なんだ」
「はぁ」
「護衛の任から帰ってきたらマリアが花嫁様付きになっているじゃないか、ちゃんとやれそうか?」
リンに尋ねてくるその顔は副隊長の顔ではなく、妹を心配する兄の顔だった。
リンはそれがおかしくてつい笑ってしまった。
「ふふふふふ」
「っ、笑うなよ。これでも心配なんだよ、何の作法も分かってないあいつが花嫁様付きなんて大役を受けてるし」
「いえ、すみません。その気持ちわかります。私にも弟がいますので」
「ああ、心配するなって方が無理な話だよな」
「そうですね、マリアなら大丈夫です。何かあれば私がフォローしますので」
「そうか、頼む。妹が迷惑をかける」
「いえ、案外マリアのような子の方が安心するのかもしれませんよ?」
「ならいいのだが」
どこか納得のいっていない顔をするアルシードは本当に兄の顔をしている。リンはそれを微笑ましく見ていた。それと同時に自分の弟たちを思い出した。無理難題を割り振られていなければいいのだが。そう考えて暗い顔をしてしまったリンにアルシードは気付いた。
「どうかしたのか?」
「え?」
「暗い顔だな、心配事か?」
「あ、すみません。私の弟たちも奉公に出たばかりで」
「ああ、心配か」
「はい」
「俺もそうだが信じないとな、それに男は頼られてこそだ!姉を守れるくらいにならないとな、俺もそのつもりで強くなった」
「そうなのですか?」
「ああ、上も下も守れる男にならないとな」
「そうですね、強い子たちになってほしいです。でも、姉離れは寂しいです」
「複雑だな」
「はい」
「まぁ、そのなんだ。話ぐらいは聞いてやるよ……俺もマリアのこと聞きたいし」
「はい」
アルシードはリンが微笑んだのを見て安心した。そしてその頭を撫でてからその場を離れた。
「遅くに邪魔したな、ゆっくり休めよ」
「あ、ありがとう、ございます」
リンは初めて頭を撫でられたことに驚きながらアルシードの後姿を見送った。そして今までの疲れなんかが吹っ飛んでいるのに驚いた。
だが嬉しそうに自室に戻った。
「ふふ、優しい方」
そう呟きながらリンは眠りについた。
それは数日前の話だ、リンはある人物の間者としてこの城の侍女としてやってきた。いまだに目的は達成できる見通しも立っていなかったのだが思わぬ大役が入ってきた。それはこの国に嫁いでくるという花嫁付きの侍女だ。
向こうからも数人の侍女が来るようだがこちらでも不備がない様に選ばれた。侍女として入ってまだ数年だが実績を得られたようだ。
自らの主人に話をすると受けるように言われた。言われてすぐに話を受けた。
そこまではよかった。そう、そこで一緒になったのは侍女としてきたばかりの完全新人のマリア・グレイだった。リンは彼女のお目付け役兼フォロー係になった。
なんでそんな人選だったのか分からなかったが明るく人懐っこいマリアは花嫁の受けが良い可能性があるためだろう。あと、普通に猫の亜人は可愛い。それがいいのかもしれない。
リン自身が侍女として名が挙がったのも狼の亜人だからの可能性が強い。
人に近い亜人系は人間の受けがいいのだろう。ようは話しやすいのだ。
新しい主との対面を明日に控えたリンは一人廊下を歩いていた。今までマリアの最終確認とフォローを行っていたのだ。
やっと自室につく手前の曲がり角に一人の人物がいるのに気付いた。
リンは内心緊張した。そこにいたのはこの国随一の力を有している第一近衛隊の中でもトップ2の副隊長であるアルシード・グレイだ。
「お前が花嫁様付きの狼の亜人か」
「そうですが、何か?」
「いや、お前に聞いておきたいことがあったからな」
「聞きたいことですか?」
リンは内心焦った。まさか自分が間者であることに気付いたのではないかと思ったからだ。
猫は気紛れだが観察眼と洞察力は高い。落ち度はないはずだが何か感づいたのではないかと。
「ああ、俺のことは知っているか?」
「もちろんでございます。第一近衛隊副隊長、アルシード・グレイ様」
「そうか」
「有名でございますから」
リンは近づいてくるアルシードの行動をじっと見ていた。すぐにでも逃げれるように。だが次のアルシードの言葉につい呆けてしまった。
「それじゃあ、聞くが。マリアはどうだ?」
「は?マリア?ですか?」
リンはいきなり出たマリアの名前に首をかしげた。
アルシードは尻尾を落ち着きない様に左右に振りながら少しあたりを気にするように見渡して声を潜めて聞いてきた。
「ああ、マリアだ。マリア・グレイ……今期侍女になったうちの末妹なんだ」
「はぁ」
「護衛の任から帰ってきたらマリアが花嫁様付きになっているじゃないか、ちゃんとやれそうか?」
リンに尋ねてくるその顔は副隊長の顔ではなく、妹を心配する兄の顔だった。
リンはそれがおかしくてつい笑ってしまった。
「ふふふふふ」
「っ、笑うなよ。これでも心配なんだよ、何の作法も分かってないあいつが花嫁様付きなんて大役を受けてるし」
「いえ、すみません。その気持ちわかります。私にも弟がいますので」
「ああ、心配するなって方が無理な話だよな」
「そうですね、マリアなら大丈夫です。何かあれば私がフォローしますので」
「そうか、頼む。妹が迷惑をかける」
「いえ、案外マリアのような子の方が安心するのかもしれませんよ?」
「ならいいのだが」
どこか納得のいっていない顔をするアルシードは本当に兄の顔をしている。リンはそれを微笑ましく見ていた。それと同時に自分の弟たちを思い出した。無理難題を割り振られていなければいいのだが。そう考えて暗い顔をしてしまったリンにアルシードは気付いた。
「どうかしたのか?」
「え?」
「暗い顔だな、心配事か?」
「あ、すみません。私の弟たちも奉公に出たばかりで」
「ああ、心配か」
「はい」
「俺もそうだが信じないとな、それに男は頼られてこそだ!姉を守れるくらいにならないとな、俺もそのつもりで強くなった」
「そうなのですか?」
「ああ、上も下も守れる男にならないとな」
「そうですね、強い子たちになってほしいです。でも、姉離れは寂しいです」
「複雑だな」
「はい」
「まぁ、そのなんだ。話ぐらいは聞いてやるよ……俺もマリアのこと聞きたいし」
「はい」
アルシードはリンが微笑んだのを見て安心した。そしてその頭を撫でてからその場を離れた。
「遅くに邪魔したな、ゆっくり休めよ」
「あ、ありがとう、ございます」
リンは初めて頭を撫でられたことに驚きながらアルシードの後姿を見送った。そして今までの疲れなんかが吹っ飛んでいるのに驚いた。
だが嬉しそうに自室に戻った。
「ふふ、優しい方」
そう呟きながらリンは眠りについた。
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