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第一章
39、披露宴前の嵐④
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ルドワードはアリシアの様子を見ながら尋ねた。
アリシアにしてみれば答えは決まっている。もう関わりたくないのだ。自身の嫌な気持ちなどと向き合いたくない、ルドワードたちと平和に暮らしたいのだ。
「シア、どうする?」
「私はもう関わりたくありません。早々にお帰り下さい」
「アリシア」
「私はあなたたちを恨むことはあっても気にかけることはありません。私にしたことをあなたたちは忘れているのですか?」
「い、いや」
アリシアはルドワードに抱き寄せられながら視線だけをフォレンドたちに向けた。
フォレンドはアリシアの言葉に言い淀んだ。
心が痛み、冷えきるような感じがアリシアにはしているがルドワードに抱き寄せられていることで心の均衡が保たれているのだ。
それでも冷たくなる口調を押さえることはできないでいる。
だが、それは誰にでも分かるほど仕方ないのだ、それだけのことをされてきているのだから。
「幼い私でもわかるほど私を疎ましく思っていたのです。居なくなって清々しているはずではありませんか?」
「……」
「かまいませんよ。それは私もそうなのですから」
「姉様」
アリシアはリーナに姉と言われてカッとなってしまい、大きな声をあげた。
周りはそのことに驚いているがそれを気にするだけの余裕がアリシアにはない。
「私を姉とも思っていないのにそのように呼ばないでください!シリウス陛下にお願いして私のユーザリアの戸籍は抜いてもらうことになっています」
「何?」
アリシアの言葉にフォレンドが眉を顰めた。その姿にアリシアはビクッと体を強張らした。
ルドワードはアリシアの背中を優しく撫ぜて、フォレンドを睨んだ。
フォレンドはそれに視線を逸らした。
そんなやり取りを見ながらルークが説明することにした。ユーザリア国内のことなので宰相であるルークが説明するに適しているからだ。
「私が話しましょう。アリシア嬢はユーザリアを出る前に自らの戸籍を抜くようにお願いされました。ドラグーンの戸籍だけを所有することになります。つまりアリシア嬢が嫁いだことで発生するはずだった恩情はなくなるのです」
「なっ!」
まさか恩情が入らないとフォレンドはつゆにも思っていなかった。
アリシアにしてみれば当然のことだ、辛い思いばかりさせられているのにフォレンドたちが喜ぶことをする必要はない。
段々話が難しくなってきてラティアはただ黙り話が終わるのを待つしかなくなった。
「疎まれて、迫害されていた私がなぜあなたたちに貢献しなくてはいけないのですか?」
「……」
「私は何度も死にたいと思いました。幽閉塔に入れられ、力が使えないように封印され、塔を出ることもできず、それでも私を支えたのは私を助けてくれた方です。あなたたちが私が襲われたのを名目に私を追いやっても、なんとも思いませんでした。それでも人としての生き方ができないことが、自身の先を思うと潔く死にたいと思いました」
「シア姉」
スカルディアにはこれがアリシアの本音なのだと分かった。
嫌なものを押し隠してありのままでいるのもアリシア自身なのだが、聞いているだけでもこの世の全てを憎みたくなるほどのことをすべて許せるはずがないのだ。
スカルディアはアリシアにもそういうものがあることになぜかホッとした。
ただの聖人君子ではなく、血の通った人であると感じられたからだ。
「それが出来ないと分かりながら生きることがどれほど辛いことかあなたたちには分からないのです」
「アリシア様」
アリシアの言葉は面々の心をわし掴んだ。あまりにも辛すぎることが理解できるからだ。
死にたくても死ねない、これが本当に辛いのだ。
もちろん、死ぬことは極力ない方で考えたいがそうも言ってられない。
心の平安を望み、死に逃げるものは多くいる。
それでも前を向いて生きていかなくてはいけない、それがどんなに険しい道でも。
「それでも自身を保ちながら生きれたのは私を助けてくれた方が私の潔白を知っているということ……人として初めて優しくされたことが私の生きる糧になれたのです」
「シア」
アリシアはルドワードの服を強く握った。ここに確かに自分の大切な人、愛する人がいると分かるように。
アリシアはしばらく瞳に溜まった涙をルドワードの影に隠れて流した。
「決してあなたたちじゃありません。私はあなたたちを憎むことしかできません。それでもそれを忘れて新しく生きようとしているのです……なぜ、邪魔をするのですか?私が疎ましかったのに……お母様の血をひく私が」
「ん?どういうことだ?」
「アリシア嬢の母君?」
急にアリシアの母親のことが出てルークたちは首をかしげた。
アリシアにしてみれば答えは決まっている。もう関わりたくないのだ。自身の嫌な気持ちなどと向き合いたくない、ルドワードたちと平和に暮らしたいのだ。
「シア、どうする?」
「私はもう関わりたくありません。早々にお帰り下さい」
「アリシア」
「私はあなたたちを恨むことはあっても気にかけることはありません。私にしたことをあなたたちは忘れているのですか?」
「い、いや」
アリシアはルドワードに抱き寄せられながら視線だけをフォレンドたちに向けた。
フォレンドはアリシアの言葉に言い淀んだ。
心が痛み、冷えきるような感じがアリシアにはしているがルドワードに抱き寄せられていることで心の均衡が保たれているのだ。
それでも冷たくなる口調を押さえることはできないでいる。
だが、それは誰にでも分かるほど仕方ないのだ、それだけのことをされてきているのだから。
「幼い私でもわかるほど私を疎ましく思っていたのです。居なくなって清々しているはずではありませんか?」
「……」
「かまいませんよ。それは私もそうなのですから」
「姉様」
アリシアはリーナに姉と言われてカッとなってしまい、大きな声をあげた。
周りはそのことに驚いているがそれを気にするだけの余裕がアリシアにはない。
「私を姉とも思っていないのにそのように呼ばないでください!シリウス陛下にお願いして私のユーザリアの戸籍は抜いてもらうことになっています」
「何?」
アリシアの言葉にフォレンドが眉を顰めた。その姿にアリシアはビクッと体を強張らした。
ルドワードはアリシアの背中を優しく撫ぜて、フォレンドを睨んだ。
フォレンドはそれに視線を逸らした。
そんなやり取りを見ながらルークが説明することにした。ユーザリア国内のことなので宰相であるルークが説明するに適しているからだ。
「私が話しましょう。アリシア嬢はユーザリアを出る前に自らの戸籍を抜くようにお願いされました。ドラグーンの戸籍だけを所有することになります。つまりアリシア嬢が嫁いだことで発生するはずだった恩情はなくなるのです」
「なっ!」
まさか恩情が入らないとフォレンドはつゆにも思っていなかった。
アリシアにしてみれば当然のことだ、辛い思いばかりさせられているのにフォレンドたちが喜ぶことをする必要はない。
段々話が難しくなってきてラティアはただ黙り話が終わるのを待つしかなくなった。
「疎まれて、迫害されていた私がなぜあなたたちに貢献しなくてはいけないのですか?」
「……」
「私は何度も死にたいと思いました。幽閉塔に入れられ、力が使えないように封印され、塔を出ることもできず、それでも私を支えたのは私を助けてくれた方です。あなたたちが私が襲われたのを名目に私を追いやっても、なんとも思いませんでした。それでも人としての生き方ができないことが、自身の先を思うと潔く死にたいと思いました」
「シア姉」
スカルディアにはこれがアリシアの本音なのだと分かった。
嫌なものを押し隠してありのままでいるのもアリシア自身なのだが、聞いているだけでもこの世の全てを憎みたくなるほどのことをすべて許せるはずがないのだ。
スカルディアはアリシアにもそういうものがあることになぜかホッとした。
ただの聖人君子ではなく、血の通った人であると感じられたからだ。
「それが出来ないと分かりながら生きることがどれほど辛いことかあなたたちには分からないのです」
「アリシア様」
アリシアの言葉は面々の心をわし掴んだ。あまりにも辛すぎることが理解できるからだ。
死にたくても死ねない、これが本当に辛いのだ。
もちろん、死ぬことは極力ない方で考えたいがそうも言ってられない。
心の平安を望み、死に逃げるものは多くいる。
それでも前を向いて生きていかなくてはいけない、それがどんなに険しい道でも。
「それでも自身を保ちながら生きれたのは私を助けてくれた方が私の潔白を知っているということ……人として初めて優しくされたことが私の生きる糧になれたのです」
「シア」
アリシアはルドワードの服を強く握った。ここに確かに自分の大切な人、愛する人がいると分かるように。
アリシアはしばらく瞳に溜まった涙をルドワードの影に隠れて流した。
「決してあなたたちじゃありません。私はあなたたちを憎むことしかできません。それでもそれを忘れて新しく生きようとしているのです……なぜ、邪魔をするのですか?私が疎ましかったのに……お母様の血をひく私が」
「ん?どういうことだ?」
「アリシア嬢の母君?」
急にアリシアの母親のことが出てルークたちは首をかしげた。
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