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第二章
7、シリウスとアリシア④
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シリウスも苦笑した。王族として生活していてそんな連中と渡り合ってきたのだ、そんな気持ちになっても仕方ないというものだ。
「仕方ないさ、そういう気持ちになるんだ。俺のもとに嫁ぐってことはそれだけで多くの害虫共との戦いだ。今まで苦労してきたんだ、楽しく、自分らしく生きて貰いたい」
「シルはシアのことをなんだかよく知っているようだが」
「……ああ、そうだな。アリシア嬢が覚えていないだけで面識はあったからな。可愛い妹のようなものだ」
ルドワードとスカルディアはシリウスがなんだかアリシアに対してかなり親しげな感じがした。それでもアリシアの方はそうでもなかったので不思議だった。
それを尋ねるとシリウスは遠い目をしつつも、優しさに溢れた瞳をしている。そんなシリウスを見てルークは苦笑しながら進言した。
「シル、何を言ってるのさ。ここにはほかの貴族はいないんだよ、隠す必要はないよ」
「ああ、それもそうか。妹のようではなく、まぎれもなくアリシアは俺のはとこなんだ」
「はとこ?!」
スカルディアは声に出して驚き、ルドワードも目を見開いていた。
気にかけているとは思っても親族であるとは思わなかったからだ。
「ああ、アリシア嬢の家系には王族の血が入っている」
「先々代国王の妹君は当時のウィザルド領主を一目見て恋をしてね。先々代は可愛い妹のためにウィザルド領主に打診したんだ。彼は幾つかの条件を了承して貰えるなら結婚すると言ったんだ」
「おいおい、国王と取引かよ」
スカルディアは呆れた。王族に対して取引をするとは命知らずなっという思いだ。もちろんそんなことをすれば不敬罪にあたってもおかしくない。
それがわかるのでシリウスは苦笑しながら説明を続けた。当時のウィザルド領主の気持ちがわかるからだ。
「ああ、だがそれは領内を大切にしている彼には必要だった。彼は第一に職位の変更を拒んだ。それはそうだろう、王族の親族になるんだ、公爵になるのが普通だ。大出世になるはずだったが彼はそれを拒んだ。その次に領地を離れないことを望んだ。国王の妹が嫁げばその生活圏や領地は自然と王都になる。領内を大切にしている彼には耐えられないモノだったんだ」
「それだとどうなるんだ?」
「要は秘密裏に国王の妹君はウィザルド領に嫁ぎ、その地で生活することになった。多くの支援も彼は拒んだしね。自身の力だけで領内の安定と妹姫を生涯愛し守り抜くことを約束したんだよ」
「すごい話だな」
誰が聞いても同じ感想を貰えるだろう。
愛する土地、愛する領民、愛する人に対して誠実であり、その思いを貫いていこうと領主の覚悟を受け取ったからだ。誰にでもできることではない。
「ああ、だがこの話は王族内だけの話だ。外部には漏らしていない」
「もしかしてシアのあの力の強さは妹姫の力というわけか?」
「違うとは言い切れない、強力な力の血筋が入ったのは確かだ」
「王族ではそういう血を入れているので隔世遺伝という可能性もあるけど、スカーレッド程の力は神のいたずらの様に一定していないんだ」
「事実、王族内で出たことはない。だから、必ずしも妹姫の血でというわけじゃないんだ」
「そうか」
血を重視するユーザリアでもスカーレッドは何時・何処に出るか分からないし、ほとんど魔力を持たない親から産まれる可能性だってあるのだ。
シリウスはここで何の憂いもなく、アリシアと接することができるのだと改めて思った。
だからこそ再度ルドワードの気持ちを確認しておきたいと思ったのだ。
「まぁ、そんなはとこをな。強欲な者たちと一緒にする気はなかったし、感覚的にも妹なアリシア嬢を娶るのは気が引けたんだ」
「そこで信頼しているルドに託すことにしたんだ」
「だから幸せにしてやってくれよ」
「ああ、分かった」
スカルディアにはこの話アリシアにするべきか分からなかった。親族に現国王がいるのだ。
それでもシリウスは苦笑しながら自身の思いを告げた。
「シア姉にはこのことは?」
「俺から言うのは照れ臭いというか、どの面下げてはとこだったって言うんだって話だ。だから、話すのはルドたちに任せる」
「分かったよ」
「それでも一度は面と向かって言えよ。シア姉はあんたたちに感謝しているんだから」
「ああ、そうだな」
「帰る前に一度ぐらいは会いに行くさ」
シリウスはルークと共に帰る前に一度ぐらいは可愛いはとこと話がしたいと思ったのだ。
「仕方ないさ、そういう気持ちになるんだ。俺のもとに嫁ぐってことはそれだけで多くの害虫共との戦いだ。今まで苦労してきたんだ、楽しく、自分らしく生きて貰いたい」
「シルはシアのことをなんだかよく知っているようだが」
「……ああ、そうだな。アリシア嬢が覚えていないだけで面識はあったからな。可愛い妹のようなものだ」
ルドワードとスカルディアはシリウスがなんだかアリシアに対してかなり親しげな感じがした。それでもアリシアの方はそうでもなかったので不思議だった。
それを尋ねるとシリウスは遠い目をしつつも、優しさに溢れた瞳をしている。そんなシリウスを見てルークは苦笑しながら進言した。
「シル、何を言ってるのさ。ここにはほかの貴族はいないんだよ、隠す必要はないよ」
「ああ、それもそうか。妹のようではなく、まぎれもなくアリシアは俺のはとこなんだ」
「はとこ?!」
スカルディアは声に出して驚き、ルドワードも目を見開いていた。
気にかけているとは思っても親族であるとは思わなかったからだ。
「ああ、アリシア嬢の家系には王族の血が入っている」
「先々代国王の妹君は当時のウィザルド領主を一目見て恋をしてね。先々代は可愛い妹のためにウィザルド領主に打診したんだ。彼は幾つかの条件を了承して貰えるなら結婚すると言ったんだ」
「おいおい、国王と取引かよ」
スカルディアは呆れた。王族に対して取引をするとは命知らずなっという思いだ。もちろんそんなことをすれば不敬罪にあたってもおかしくない。
それがわかるのでシリウスは苦笑しながら説明を続けた。当時のウィザルド領主の気持ちがわかるからだ。
「ああ、だがそれは領内を大切にしている彼には必要だった。彼は第一に職位の変更を拒んだ。それはそうだろう、王族の親族になるんだ、公爵になるのが普通だ。大出世になるはずだったが彼はそれを拒んだ。その次に領地を離れないことを望んだ。国王の妹が嫁げばその生活圏や領地は自然と王都になる。領内を大切にしている彼には耐えられないモノだったんだ」
「それだとどうなるんだ?」
「要は秘密裏に国王の妹君はウィザルド領に嫁ぎ、その地で生活することになった。多くの支援も彼は拒んだしね。自身の力だけで領内の安定と妹姫を生涯愛し守り抜くことを約束したんだよ」
「すごい話だな」
誰が聞いても同じ感想を貰えるだろう。
愛する土地、愛する領民、愛する人に対して誠実であり、その思いを貫いていこうと領主の覚悟を受け取ったからだ。誰にでもできることではない。
「ああ、だがこの話は王族内だけの話だ。外部には漏らしていない」
「もしかしてシアのあの力の強さは妹姫の力というわけか?」
「違うとは言い切れない、強力な力の血筋が入ったのは確かだ」
「王族ではそういう血を入れているので隔世遺伝という可能性もあるけど、スカーレッド程の力は神のいたずらの様に一定していないんだ」
「事実、王族内で出たことはない。だから、必ずしも妹姫の血でというわけじゃないんだ」
「そうか」
血を重視するユーザリアでもスカーレッドは何時・何処に出るか分からないし、ほとんど魔力を持たない親から産まれる可能性だってあるのだ。
シリウスはここで何の憂いもなく、アリシアと接することができるのだと改めて思った。
だからこそ再度ルドワードの気持ちを確認しておきたいと思ったのだ。
「まぁ、そんなはとこをな。強欲な者たちと一緒にする気はなかったし、感覚的にも妹なアリシア嬢を娶るのは気が引けたんだ」
「そこで信頼しているルドに託すことにしたんだ」
「だから幸せにしてやってくれよ」
「ああ、分かった」
スカルディアにはこの話アリシアにするべきか分からなかった。親族に現国王がいるのだ。
それでもシリウスは苦笑しながら自身の思いを告げた。
「シア姉にはこのことは?」
「俺から言うのは照れ臭いというか、どの面下げてはとこだったって言うんだって話だ。だから、話すのはルドたちに任せる」
「分かったよ」
「それでも一度は面と向かって言えよ。シア姉はあんたたちに感謝しているんだから」
「ああ、そうだな」
「帰る前に一度ぐらいは会いに行くさ」
シリウスはルークと共に帰る前に一度ぐらいは可愛いはとこと話がしたいと思ったのだ。
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