竜王の花嫁

第二章

１０、あれから①

　マティスやシリウスたちがユーザリア大国に帰って３ヶ月以上たった。
　帰国からの流れは早かった。
　まず、全貴族が帰国して一ヶ月もしないうちにルルージュの遺言が決行された。マティスが正式にウィザルド領主に任命された。
　マティスの任命式は玉座の間にて多くの貴族たちの前で行われた。
「マティス・ウィザルドよ。前任ウィザルド領主ルルージュ・ウィザルド及び此度盟約のもとドラグーン大国の嫁いだアリシア・ウィザルド・ドラグーン両名の遺言・意志により、そなたを新たなウィザルド領の領主とする」
「はっ、誠心誠意努めさせていただきます」
「うむ。それに伴い、現在の国軍隊員は除名とし、新たにウィザルド辺境伯爵の爵位を授ける」
「ありがたきこと、我が英知は陛下と国と民のために」
　この任命式に出席した多くの貴族を驚かされた。
　それもそのはずでマティスの家は王都にあるがアリシアの実家の分家扱いなのだ。
　その分家の次男が本家を継ぐことになったのだ。もちろん、そういう事がないわけでもない。だが、多くの貴族を驚かせたのは社交界に出ていたリーナが後妻の子供でウィザルド家の血を継いでないという事実だ。
　リーナの出生が知れ渡ったのはアリシアのことを調べる者が現れたからだ。
　そこで見ようによっては似ているラティアだが、彼女の家はウィザルド家の遠縁の親族なのでアリシアに似ていたのだ。
　マティスは任命式が終わるとすぐにウィザルド領に向かった。
　そこで正式に改革を行なっていくことを宣言した。
　先にマティスは領主館の人員改革から始めた。
　これには理由があり、それは今までのアリシアの待遇にも関係している。
　現在、この領主館に務めているのはほとんどがフォレンドの実家や後妻の実家から来た使用人たちなのだ。
　アリシアの実母であるルルージュが産後の肥立ちが悪く、床に伏せており、治療のために王都の別宅で暮らしていた。
　その時にほとんどの使用人をルルージュと共に向かわせ、それ以降別宅管理と言う名のもとに領内に戻らせなかった。そのためアリシアが物心がついた頃にはアリシアを愛しむ使用人たちがそばに居なくなっていたのだ。
　昔よりウィザルド辺境伯爵家に仕えてきた使用人たちはアリシアのもとに戻りたかった。
　すでに嫁いでしまったので使えることは出来なくなったがそれでも故郷であるウィザルド領に戻ることを望んでいた。
　その使用人たちの望みを叶えるためにマティスは使用人の入れ替えを行ったのだ。
　フォレンドを領内に残すつもりはマティスにはなかったので、そのすべての使用人とフォレンドを別宅の方に移住することをシリウスの力も借りて行った。
　シリウスもルークもいつまでもフォレンドがいては改革の邪魔をされかねないと思い協力した。
「マティス様、ありがとうございます」
「これでやっと、故郷に戻れます」
「いや、これからは俺の方が頼まないといけないしな。これから一緒に頑張っていこう」
「はい」
　マティスは本当にアリシアが里帰りしたいと思えるような場所にしていこうと心に強く思いながら領内の改革を行っていく。