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第二章
12、あれから③
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思い至ったことに対して震えているリーナを守るようにメナンドは抱きしめた。メナンドはシリウスがリーナを守ろうとした意味が分かった。
リーナ自身が悪くないわけではないが、自身にとって当たり前であったことを疑問視できる者は少ない。ましてや、まだ十六歳の少女だ。
「君ばかりが悪いわけではないよ。その教育をしてこなかった両親に問題があるね。君に知られたくなかったのかな?」
「わ、わた、し」
「これからは知っていこう。今からでも遅くないよ」
「で、でも」
リーナはメナンドを見上げた。
確かに、知識を入れていくことはまだ間に合うが、大きな溝が出来たアリシアとの関係を改善することは絶望的だ。すでにアリシア自身に憎んでいると言われているのだ。
リーナの表情からアリシアの事であるとメナンドはわかった。
「アリシア嬢の事だね。彼女の心を開くのは難しいだろうね。でもね、彼女は心優しい子だよ。いつか許してくれるよ」
「お姉様を知っているのですか?」
リーナは自身ですらほとんど知らないアリシアの事を懐かしむように話すメナンドに首をかしげた。
メナンドは苦笑しながら昔の事を思い出した。
それは偶然だった。雪解けの時期にシリウスとルークに会いに来ていた時に王宮で出会ったのだ。マティスに連れられてきていたアリシアと。その日は五人で遊んだのだ。
それを思い出しながら話した。
「彼女がまだ物心つく頃かな。会ったことがあるよ、いい子だよ。シルが大切にしている子だ、大丈夫だよ」
「私、お姉様に謝りたいです」
「そうだね。いつか、彼女の心が許してくれる日が来た時には、謝ろうね」
「はい」
「大丈夫、その時は一緒に謝ってあげるよ」
リーナは自身の無知を恨みながら、アリシアに謝りたくなった。
メナンドがその気持ちを否定せず、肯定してくれることがリーナは嬉しかった。そして不思議だった。どうしてこんなに優しくしてくれるのかと。
「なぜ、そんなに優しくしてくれるのですか?」
「君は僕の妻になったんだよ。妻や領民を守るのが僕の役目だよ、一緒に頑張っていこう」
「はい」
リーナはメナンドの優しさに触れて、涙を流した。
知らないからこそ知っていく楽しみがあるのだとリーナは思えた。自身の罪を一緒に背負ってくれると言ったメナンドを信じて行こうと、一緒により良い領内にしていこうと思ったのだ。
メナンドも自身の腕の中で小さく咲き誇る花のようなリーナに頬を染めた。
この二人の間に小さく実った蕾は大輪を誇れる日を夢見て、ゆっくり、ゆっくりとこの雪の領内で育っていくことになる。
リーナ自身が悪くないわけではないが、自身にとって当たり前であったことを疑問視できる者は少ない。ましてや、まだ十六歳の少女だ。
「君ばかりが悪いわけではないよ。その教育をしてこなかった両親に問題があるね。君に知られたくなかったのかな?」
「わ、わた、し」
「これからは知っていこう。今からでも遅くないよ」
「で、でも」
リーナはメナンドを見上げた。
確かに、知識を入れていくことはまだ間に合うが、大きな溝が出来たアリシアとの関係を改善することは絶望的だ。すでにアリシア自身に憎んでいると言われているのだ。
リーナの表情からアリシアの事であるとメナンドはわかった。
「アリシア嬢の事だね。彼女の心を開くのは難しいだろうね。でもね、彼女は心優しい子だよ。いつか許してくれるよ」
「お姉様を知っているのですか?」
リーナは自身ですらほとんど知らないアリシアの事を懐かしむように話すメナンドに首をかしげた。
メナンドは苦笑しながら昔の事を思い出した。
それは偶然だった。雪解けの時期にシリウスとルークに会いに来ていた時に王宮で出会ったのだ。マティスに連れられてきていたアリシアと。その日は五人で遊んだのだ。
それを思い出しながら話した。
「彼女がまだ物心つく頃かな。会ったことがあるよ、いい子だよ。シルが大切にしている子だ、大丈夫だよ」
「私、お姉様に謝りたいです」
「そうだね。いつか、彼女の心が許してくれる日が来た時には、謝ろうね」
「はい」
「大丈夫、その時は一緒に謝ってあげるよ」
リーナは自身の無知を恨みながら、アリシアに謝りたくなった。
メナンドがその気持ちを否定せず、肯定してくれることがリーナは嬉しかった。そして不思議だった。どうしてこんなに優しくしてくれるのかと。
「なぜ、そんなに優しくしてくれるのですか?」
「君は僕の妻になったんだよ。妻や領民を守るのが僕の役目だよ、一緒に頑張っていこう」
「はい」
リーナはメナンドの優しさに触れて、涙を流した。
知らないからこそ知っていく楽しみがあるのだとリーナは思えた。自身の罪を一緒に背負ってくれると言ったメナンドを信じて行こうと、一緒により良い領内にしていこうと思ったのだ。
メナンドも自身の腕の中で小さく咲き誇る花のようなリーナに頬を染めた。
この二人の間に小さく実った蕾は大輪を誇れる日を夢見て、ゆっくり、ゆっくりとこの雪の領内で育っていくことになる。
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