竜王の花嫁

桜月雪兎

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第二章

27、ガイ

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 御子の誕生もあと一月から一月半ほどだと判明した辺りでアルシードの周りは少々煩くなった。
 それは三男のガイが近衛隊に来たのだ。
 アルシードはガイをすぐに迎え入れた。
「ガイ、どうかしたのか?」
「アル兄~」
「ん?」
「僕、もういやだよ」
「どうした?学校か?それとも家か?」
「……両方」
「両方かぁ~」
 アルシードは悩んだ。
 家のことであればアルシードの力でどうにかなることも多いだろうが、学校では無闇に手を出すわけにもいかない。
 問題の解決方法を模索するのも合わせての学業だと言われている。
「とりあえず何があったか教えてくれ」
「うん」
 ガイはアルシードの促されるままに話した。
 家では両親からの重圧に耐えきれなくなってきたと言うことだ。
 学校で多くのことを学ぶうちにガイにはやりたいことが浮かんできた。
 それを感づいたのか両親はアルシードやジルフォードのことを出したりして、ガイに跡取りとしての道しかないような言い方をしてくるようになってきたらしい。
 学校ではこのタイミングでの進路調査をしてきたらしい。
 どうすればいいのか分からなくなってきたガイを急かすように担任からもしつこく聞かれ、ついこの間あった両親との三者面談でも何も言えなかった。
 要は両方共と言いつつ、内容は共通で進路のことだった。
 ガイはいっぱいいっぱいになってアルシードに救いを求めてきたのだ。
 アルシードはガイを抱きしめてその頭をなぜた。
 アルシードにとってガイはマリアやクレア、ジルフォード同様に守るべき可愛い弟妹なのだ。
 懐かしいアルシードの温もりにガイは自然と涙が出た。
「ガイ、やりたいことが出来たのならそれをすればいい」
「でも」
「家のことは心配ない」
「本当?」
「ああ、俺が近衛隊を続けながら跡を継ぐ」
「アル兄」
「後継ぎがお前に決まった時から言っているだろ。お前に何か本当にやりたいことが出来たのなら俺が継ぐって」
「……うん、でも」
 アルシードは苦笑した。
 ガイは基本的に優しいのだ。
 だからこそ、自身が我慢すればいいと持っている節がある。
 アルシードはそんな弟を心配していた。いつかそれでガイ自身の心を壊してしまうのではないかと。
 でも、そんなことはなかった。
 ガイは自身のやりたいことを見つけた。
 それは我慢して抑えられないほどのことだ。
「ガイ、何になりたいんだ?」
「僕、僕…」
「ん?」
「僕、職人になりたい!」
「職人?」
「うん!小物とか、髪飾りとか作る細工職人。あんな繊細でかわいい物を僕も作りたい」
「そうか」
 アルシードは瞳を輝かせながら話すガイを優しい瞳で見ている。
 ガイは昔からモノ作りが好きだった。
 それと同時に可愛い物も好きなのだ。
 本人、見た目が中性的なせいもあってそういうものが周りにあっても違和感がないが、それでもアルシードは1つ心配なことがあった。
 それはガイに覚悟・・があるかと言うことだ。
 どの職に就くにしてもそうだがその道を極める覚悟をちゃんと持っているかと言うことだ。
「ガイ、覚悟はあるのか?」
「覚悟?」
「ああ、どの道を進むにしても必ず大きな壁に当たることもあるだろう。その時にその道をあきらめずに極めること全うする覚悟はあるか?」
「……あるよ。好きだってだけでなりたいわけじゃないもん!!」
「……」
「確かに僕は昔からそういうことが好きだよ。それでも細工職人になりたいと思ったのは社会見学で行ってからもっと知りたくなったんだ」
「そうか」
「アル兄」
 不安そうなガイを優しくアルシードは抱きしめ直した。
「試すような言い方をして悪い」
「アル兄」
「口下手なガイがそこまで考えて言えるようなら大丈夫だろう」
「アル兄!」
「俺はお前の夢を応援するよ。だから、学校には夢を進むように希望を出しておきな」
「でも、後継ぎ」
「いいさ、もともと俺が継ぐはずだった家だ。文句は言わせない」
「ありがとう」
「何、元に戻っただけの話さ」
 アルシードはもともと跡を継ぐ覚悟を持っていた。
 それでもアルシードを気遣って変わってくれたガイの気持ちが嬉しくて何も言わなかっただけなのだ。
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