87 / 118
第二章
27、ガイ
しおりを挟む
御子の誕生もあと一月から一月半ほどだと判明した辺りでアルシードの周りは少々煩くなった。
それは三男のガイが近衛隊に来たのだ。
アルシードはガイをすぐに迎え入れた。
「ガイ、どうかしたのか?」
「アル兄~」
「ん?」
「僕、もういやだよ」
「どうした?学校か?それとも家か?」
「……両方」
「両方かぁ~」
アルシードは悩んだ。
家のことであればアルシードの力でどうにかなることも多いだろうが、学校では無闇に手を出すわけにもいかない。
問題の解決方法を模索するのも合わせての学業だと言われている。
「とりあえず何があったか教えてくれ」
「うん」
ガイはアルシードの促されるままに話した。
家では両親からの重圧に耐えきれなくなってきたと言うことだ。
学校で多くのことを学ぶうちにガイにはやりたいことが浮かんできた。
それを感づいたのか両親はアルシードやジルフォードのことを出したりして、ガイに跡取りとしての道しかないような言い方をしてくるようになってきたらしい。
学校ではこのタイミングでの進路調査をしてきたらしい。
どうすればいいのか分からなくなってきたガイを急かすように担任からもしつこく聞かれ、ついこの間あった両親との三者面談でも何も言えなかった。
要は両方共と言いつつ、内容は共通で進路のことだった。
ガイはいっぱいいっぱいになってアルシードに救いを求めてきたのだ。
アルシードはガイを抱きしめてその頭をなぜた。
アルシードにとってガイはマリアやクレア、ジルフォード同様に守るべき可愛い弟妹なのだ。
懐かしいアルシードの温もりにガイは自然と涙が出た。
「ガイ、やりたいことが出来たのならそれをすればいい」
「でも」
「家のことは心配ない」
「本当?」
「ああ、俺が近衛隊を続けながら跡を継ぐ」
「アル兄」
「後継ぎがお前に決まった時から言っているだろ。お前に何か本当にやりたいことが出来たのなら俺が継ぐって」
「……うん、でも」
アルシードは苦笑した。
ガイは基本的に優しいのだ。
だからこそ、自身が我慢すればいいと持っている節がある。
アルシードはそんな弟を心配していた。いつかそれでガイ自身の心を壊してしまうのではないかと。
でも、そんなことはなかった。
ガイは自身のやりたいことを見つけた。
それは我慢して抑えられないほどのことだ。
「ガイ、何になりたいんだ?」
「僕、僕…」
「ん?」
「僕、職人になりたい!」
「職人?」
「うん!小物とか、髪飾りとか作る細工職人。あんな繊細でかわいい物を僕も作りたい」
「そうか」
アルシードは瞳を輝かせながら話すガイを優しい瞳で見ている。
ガイは昔からモノ作りが好きだった。
それと同時に可愛い物も好きなのだ。
本人、見た目が中性的なせいもあってそういうものが周りにあっても違和感がないが、それでもアルシードは1つ心配なことがあった。
それはガイに覚悟があるかと言うことだ。
どの職に就くにしてもそうだがその道を極める覚悟をちゃんと持っているかと言うことだ。
「ガイ、覚悟はあるのか?」
「覚悟?」
「ああ、どの道を進むにしても必ず大きな壁に当たることもあるだろう。その時にその道をあきらめずに極めること全うする覚悟はあるか?」
「……あるよ。好きだってだけでなりたいわけじゃないもん!!」
「……」
「確かに僕は昔からそういうことが好きだよ。それでも細工職人になりたいと思ったのは社会見学で行ってからもっと知りたくなったんだ」
「そうか」
「アル兄」
不安そうなガイを優しくアルシードは抱きしめ直した。
「試すような言い方をして悪い」
「アル兄」
「口下手なガイがそこまで考えて言えるようなら大丈夫だろう」
「アル兄!」
「俺はお前の夢を応援するよ。だから、学校には夢を進むように希望を出しておきな」
「でも、後継ぎ」
「いいさ、もともと俺が継ぐはずだった家だ。文句は言わせない」
「ありがとう」
「何、元に戻っただけの話さ」
アルシードはもともと跡を継ぐ覚悟を持っていた。
それでもアルシードを気遣って変わってくれたガイの気持ちが嬉しくて何も言わなかっただけなのだ。
それは三男のガイが近衛隊に来たのだ。
アルシードはガイをすぐに迎え入れた。
「ガイ、どうかしたのか?」
「アル兄~」
「ん?」
「僕、もういやだよ」
「どうした?学校か?それとも家か?」
「……両方」
「両方かぁ~」
アルシードは悩んだ。
家のことであればアルシードの力でどうにかなることも多いだろうが、学校では無闇に手を出すわけにもいかない。
問題の解決方法を模索するのも合わせての学業だと言われている。
「とりあえず何があったか教えてくれ」
「うん」
ガイはアルシードの促されるままに話した。
家では両親からの重圧に耐えきれなくなってきたと言うことだ。
学校で多くのことを学ぶうちにガイにはやりたいことが浮かんできた。
それを感づいたのか両親はアルシードやジルフォードのことを出したりして、ガイに跡取りとしての道しかないような言い方をしてくるようになってきたらしい。
学校ではこのタイミングでの進路調査をしてきたらしい。
どうすればいいのか分からなくなってきたガイを急かすように担任からもしつこく聞かれ、ついこの間あった両親との三者面談でも何も言えなかった。
要は両方共と言いつつ、内容は共通で進路のことだった。
ガイはいっぱいいっぱいになってアルシードに救いを求めてきたのだ。
アルシードはガイを抱きしめてその頭をなぜた。
アルシードにとってガイはマリアやクレア、ジルフォード同様に守るべき可愛い弟妹なのだ。
懐かしいアルシードの温もりにガイは自然と涙が出た。
「ガイ、やりたいことが出来たのならそれをすればいい」
「でも」
「家のことは心配ない」
「本当?」
「ああ、俺が近衛隊を続けながら跡を継ぐ」
「アル兄」
「後継ぎがお前に決まった時から言っているだろ。お前に何か本当にやりたいことが出来たのなら俺が継ぐって」
「……うん、でも」
アルシードは苦笑した。
ガイは基本的に優しいのだ。
だからこそ、自身が我慢すればいいと持っている節がある。
アルシードはそんな弟を心配していた。いつかそれでガイ自身の心を壊してしまうのではないかと。
でも、そんなことはなかった。
ガイは自身のやりたいことを見つけた。
それは我慢して抑えられないほどのことだ。
「ガイ、何になりたいんだ?」
「僕、僕…」
「ん?」
「僕、職人になりたい!」
「職人?」
「うん!小物とか、髪飾りとか作る細工職人。あんな繊細でかわいい物を僕も作りたい」
「そうか」
アルシードは瞳を輝かせながら話すガイを優しい瞳で見ている。
ガイは昔からモノ作りが好きだった。
それと同時に可愛い物も好きなのだ。
本人、見た目が中性的なせいもあってそういうものが周りにあっても違和感がないが、それでもアルシードは1つ心配なことがあった。
それはガイに覚悟があるかと言うことだ。
どの職に就くにしてもそうだがその道を極める覚悟をちゃんと持っているかと言うことだ。
「ガイ、覚悟はあるのか?」
「覚悟?」
「ああ、どの道を進むにしても必ず大きな壁に当たることもあるだろう。その時にその道をあきらめずに極めること全うする覚悟はあるか?」
「……あるよ。好きだってだけでなりたいわけじゃないもん!!」
「……」
「確かに僕は昔からそういうことが好きだよ。それでも細工職人になりたいと思ったのは社会見学で行ってからもっと知りたくなったんだ」
「そうか」
「アル兄」
不安そうなガイを優しくアルシードは抱きしめ直した。
「試すような言い方をして悪い」
「アル兄」
「口下手なガイがそこまで考えて言えるようなら大丈夫だろう」
「アル兄!」
「俺はお前の夢を応援するよ。だから、学校には夢を進むように希望を出しておきな」
「でも、後継ぎ」
「いいさ、もともと俺が継ぐはずだった家だ。文句は言わせない」
「ありがとう」
「何、元に戻っただけの話さ」
アルシードはもともと跡を継ぐ覚悟を持っていた。
それでもアルシードを気遣って変わってくれたガイの気持ちが嬉しくて何も言わなかっただけなのだ。
12
あなたにおすすめの小説
【12月末日公開終了】これは裏切りですか?
たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。
だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。
そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
黒騎士団の娼婦
イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる