竜王の花嫁

桜月雪兎

文字の大きさ
88 / 118
第二章

28、跡を継ぐということ

しおりを挟む
 しばらくアルシードとガイは互いを抱きしめあっていたが不意にガイが申し訳なさそうに尋ねてきた。
「でも、本当に良かったの?」
「だから」
「クレア姉から聞いたけど、好きな人がいるんでしょ」
「っ!!」
 アルシードは図星を突かれた。
 そう、アルシードが跡を継ぐということは嫌な言い方だが結婚相手は貴族になってくる。
 アルシードが好意を向けているのはリンだ。
 リンは一般市民の出でいくらアリシアの侍女として働いていてもそれを許すはずがないのだ、アルシード達の両親を始めとした親族が。
 だが、アルシードは一度瞳を伏せ、優しい瞳でガイを見た。
「……お前が心配することはない」
「でも」
「確かに俺の想い人と一緒になるのは許されないだろう」
「っ!だったら!!」
「でもな、付き合っているわけじゃないんだ」
「え?」
「俺が好いているだけで思いも告げていない。だがら、このまま何も言わなければいいだけだ」
「アル兄」
「俺はお前たちが幸せならそれでいい」
「……」
「やりたいことをやれ、ガイ」
「……うん」
「いい子だ」
 ガイはアルシードの決意を受け入れるしかなかった。
 それでも心苦しく思っていた。
 アルシードが他の兄弟たちに幸せになって欲しいと思っているように、ガイを始めとしたほかの兄弟たちもアルシードに幸せになって欲しいと思っている。
 それでも長男だからと覚悟を、決意を決めているアルシードを変えることは出来ないのかもしれない。

 ***

 ガイはアルシードの部屋を出て図書室に向かった。
 そこにいるであろうジルフォードとバロンに会うためだ。
 ガイ一人ではいくら考えてもどうしていいのか分からないので一番知識のあるジルフォードを頼ったのだ。
 ガイが図書室に行くとちょうどバロンと出会い、そのまま一緒に司書長室に向かった。
「ガイ、どうした?」
「ジル兄、バロン兄」
「うん?」
「実は僕やりたいことが決まって」
「おお!」
「よかったなぁ」
「でも、そうなるとアル兄が」
「「ああ~」」
「アル兄、最近好きな人が出来たらしいってクレア姉から聞いて」
「ああ、うん。そうだな」
「いい人そうだったね」
「ああって、バロンあったのか?」
「うん、たまたま」
「そうか」
 そう、アルシードの想い人であるリンに二人とも会ったことがあるのだ。
 だからこそわかる。
 アルシードがどんなにリンを想っても、身分という大きな壁に阻まれてしまうことが。
 それは話を聞いただけのガイでもわかっている。
 だからこそ、ガイは申し訳なく思ってるのだ。
 ガイ自身が跡を継げば問題ないのかもしれないが、ガイはやりたいことを見つけてしまった。
 それは諦めることが出来ないほどにガイの中で大きくなってしまったのだ。
 ガイがここに来た本当の理由はアルシードに引導を貰うためだった。
 大好きな長男に跡を継げと言われることを考えていた。
 大好きな長男を蔑ろにする両親をガイを始めとした兄弟たちは好きではない。
 いつだって兄弟たちのことを守ってくれたのも愛してくれたのも何より優先してくれたのも長男であるアルシードなのだ。
 ジルフォードだってそれは分かっている。
 両親の犠牲に兄弟がなりそうになればアルシードが守ってくれた。
 家の存続しか考えていない両親によってジルフォードは政略結婚をさせられそうになった時もアルシードがその人脈などを使って回避してくれた。
 ジルフォードが望む相手以外との結婚は認めないって言って。
 それはクレアもマリアもそうだ。そのほかの兄弟たちもそうなのだ。
「アル兄はこのままじゃ幸せになれないよ」
「「…………」」
「アル兄にだって幸せになって欲しい。僕はアル兄に跡を継げって言われると思ってここに来たんだ。アル兄に言われるならそうしようって思えるから」
「それは思い違いだな」
「ああ、アル兄はそんなこと言わない」
「うん……そうだよね」
「ああ、アル兄は何時だって俺たちを優先する。俺たちが出来ることは少ないけど、どうにかしてアル兄の想い人との結婚を実現させてあげたい」
「うん。せめてアル兄に好きな人と一緒になって欲しいよ」
「クレアさんたちを呼んでくるよ。みんなで考えよう」
「ああ」
「うん」
 バロンは司書長室を出てクレアたちを呼びに行った。
 このままではアルシードが自身の幸せを犠牲にしてしまう気がしたからだ。
 今まで守ってくれた大好きなアルシードのためにガイやジルフォードたちが出来ることを考えるために。

しおりを挟む
感想 44

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

黒騎士団の娼婦

イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...