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ローレンスは毎日来られるわけではないようだった。だがそれでも、その訪問はカロクの心を軽くした。
会えば色々な話をし、会えなくてもベッド横のチェストにクッキーなどのおやつを置いていってくれた。
自分を気にしてくれる人がいる。
それがたった1人だけでも、カロクには十分すぎるほどの救いだった。
だが、事件はそんなある日に起こった。
その日乳母は、いつにも増してイライラしていた。
というのもその日の昼、カロクの養育費を貰う体で、本邸へと忍び込んだのだ。
結果は言わずもがな。侯爵に会うことなど出来ず、家令であるローレンスに厳しく叱責され追い出されてしまった。
カロクが不運だったのは、そんな日に限って部屋からでてしまっていた事だ。
ローレンスと出会って、文字を教えてもらうようになったカロクは、この屋敷にもある小さな書庫に行こうとしていたのだ。
もちろん小さな子供が読めるような本など置いていないのだが、それでも文字を眺めていれば辛い時間を忘れられると思ったのだ。
目尻のつり上がった乳母が、そんなカロクを見つけて叫ぶ。
「こんな所で何やってるんだい!?」
その金切り声には慣れているとは言え、それでもカロクの体は固く強ばる。
「‥ごめ‥なさぃ」
視線を合わせないようにして、ひたすら謝れば解放される。いつもならば、そうだった。
だが今日は、カロクのその姿が乳母の神経を逆撫でる。侯爵とは違う金糸雀色の髪。ろくな手入れをしていないはずのそれは、まるで金糸のようにサラサラと流れた。
侯爵の愛した妻のものだろうか。
そう考えると余計に腸が煮えくり返る。
乳母はカロクの髪を引っつかむと、ズルズルと引き摺るように部屋へと向かう。
伸ばしっぱなしの髪が指に絡みつく。その柔らかな手触りに、乳母はギジリと奥歯を噛み締めた。
カロクの危機に、まだ日が高いというのに7つの光が現れて乳母へと襲いかかる。しかしその姿が見えない乳母にはあまり効果は無い。乳母の体に当たっては、パンッと光が弾けるだけ。
だが何かを感じるのか、乳母は空いた手で何かを払う仕草をする。
そのイライラがピークに達した時、運悪く部屋へ着いてしまった。
「いい加減鬱陶しいんだよ!!」
そのままの勢いで乳母はカロクを部屋の中へ放り投げ、怒り任せにその体をドンッと突き飛ばした。
「かはっ‥!!」
その小さな体が壁に打ち付けられる。
息がつまり、目の前に星が飛んだ。
乳母を襲っていた光達が、心配するようにカロクへと集まった。
『ねぇ知ってる?』
薄れいく意識の中、無邪気に笑う少女の顔が浮かんでは消える。
『ねぇ知ってる?
人って背中を強く打つと呼吸が出来なくなるんだよ。』
そうだ、あれは妹の口癖だった。
そう理解した途端、朧気だった少女の顔が鮮明になる。
『お姉ちゃんはさ、抱え込みすぎなんだよ。もっと人に頼ってもいいんじゃない?』
あぁ、そうだ。そうだった。
僕はカロクじゃない。
私はカロクなんて名前じゃない。
僕は一人ぼっちじゃない。
私は一人ぼっちなんかじゃない。
僕には家族がいた。
私には愛する家族がいた。
僕は‥。私は‥。
カロクの意識は、ゆっくりと闇の中へと沈んで行った。
会えば色々な話をし、会えなくてもベッド横のチェストにクッキーなどのおやつを置いていってくれた。
自分を気にしてくれる人がいる。
それがたった1人だけでも、カロクには十分すぎるほどの救いだった。
だが、事件はそんなある日に起こった。
その日乳母は、いつにも増してイライラしていた。
というのもその日の昼、カロクの養育費を貰う体で、本邸へと忍び込んだのだ。
結果は言わずもがな。侯爵に会うことなど出来ず、家令であるローレンスに厳しく叱責され追い出されてしまった。
カロクが不運だったのは、そんな日に限って部屋からでてしまっていた事だ。
ローレンスと出会って、文字を教えてもらうようになったカロクは、この屋敷にもある小さな書庫に行こうとしていたのだ。
もちろん小さな子供が読めるような本など置いていないのだが、それでも文字を眺めていれば辛い時間を忘れられると思ったのだ。
目尻のつり上がった乳母が、そんなカロクを見つけて叫ぶ。
「こんな所で何やってるんだい!?」
その金切り声には慣れているとは言え、それでもカロクの体は固く強ばる。
「‥ごめ‥なさぃ」
視線を合わせないようにして、ひたすら謝れば解放される。いつもならば、そうだった。
だが今日は、カロクのその姿が乳母の神経を逆撫でる。侯爵とは違う金糸雀色の髪。ろくな手入れをしていないはずのそれは、まるで金糸のようにサラサラと流れた。
侯爵の愛した妻のものだろうか。
そう考えると余計に腸が煮えくり返る。
乳母はカロクの髪を引っつかむと、ズルズルと引き摺るように部屋へと向かう。
伸ばしっぱなしの髪が指に絡みつく。その柔らかな手触りに、乳母はギジリと奥歯を噛み締めた。
カロクの危機に、まだ日が高いというのに7つの光が現れて乳母へと襲いかかる。しかしその姿が見えない乳母にはあまり効果は無い。乳母の体に当たっては、パンッと光が弾けるだけ。
だが何かを感じるのか、乳母は空いた手で何かを払う仕草をする。
そのイライラがピークに達した時、運悪く部屋へ着いてしまった。
「いい加減鬱陶しいんだよ!!」
そのままの勢いで乳母はカロクを部屋の中へ放り投げ、怒り任せにその体をドンッと突き飛ばした。
「かはっ‥!!」
その小さな体が壁に打ち付けられる。
息がつまり、目の前に星が飛んだ。
乳母を襲っていた光達が、心配するようにカロクへと集まった。
『ねぇ知ってる?』
薄れいく意識の中、無邪気に笑う少女の顔が浮かんでは消える。
『ねぇ知ってる?
人って背中を強く打つと呼吸が出来なくなるんだよ。』
そうだ、あれは妹の口癖だった。
そう理解した途端、朧気だった少女の顔が鮮明になる。
『お姉ちゃんはさ、抱え込みすぎなんだよ。もっと人に頼ってもいいんじゃない?』
あぁ、そうだ。そうだった。
僕はカロクじゃない。
私はカロクなんて名前じゃない。
僕は一人ぼっちじゃない。
私は一人ぼっちなんかじゃない。
僕には家族がいた。
私には愛する家族がいた。
僕は‥。私は‥。
カロクの意識は、ゆっくりと闇の中へと沈んで行った。
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