この世界と引き換えに愛を乞う

seto

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シリルは驚いていた。
たまには気分転換をと、少し離れた丘にやってきていたシリルは、そこで思わぬ人物に遭遇した。まるで母をそのまま小さくしたような、儚げな面差しの少年。
ローレンスから、末の弟が本邸へと居を移した事は聞いていた。そこへ至る経緯も。
だが、生まれてから1度も会ったことのない弟など、シリルどうでも良かった。
1つ下の弟ですら気にかけたことなどないのに、ましてや会った事もない弟の事など、もはや記憶の片隅にもなかったのだ。
まさかこんな所で会おうとは。
直ぐに末の弟だと気がついたのは、母と瓜二つのその容姿のおかげだ。

しかし末の弟は、シリルに気づくと怯えた様に瞳を揺らし、慌てて頭を下げて去っていこうとする。その姿に、シリルは思わず立ち上がってその肩を掴んで引き止めた。
今まで気にかけた事もなかったのに今更何を、と冷静な自分が言う。だが同時に、今にも消えてしまいそうなこの少年を保護しなければと心が叫んだ。
至近距離で見つめたその瞳には、確かに怯えが滲んでいた。

人が、私が怖いのだろう。
そう考えると、シリルはキュッと心が苦しくなった。初めて感じる、胸の不快感。
その原因を作ったのは、父が適当にあてがった乳母のせいだ。既に処刑されただろうが、今更になって怒りを感じた。
よくも私の弟を。
一瞬怒りが湧いたが、呼び止められたカロクが顔色を悪くした事で、シリルは冷静さを取り戻した。そして極力、優しい声色でカロクへと語りかける。

「ローレンスから話は聞いている。怖かっただろう?」

するとカロクは、驚いたように瞳を瞬かせた。可愛いな、とシリルは思う。
しかし同時に後悔した。何故もっと気にかけてやらなかったのだろう?
疎まれていると、そう思っているのだろう。しかしそう思うのも無理はない。今の今まで、シリルは無関心だったのだから。
だから何度も謝罪の言葉を口にし、目の前から消えると言う。そんな事を言わせてしまったのは、他でもないシリルだ。

ローレンスはカロクは被害者だと言っていた。確かにそうだとシリルは思う。
別邸での生活を詳しく聞いたことはなかったが、今のカロクを見れば大体察しがつく。年齢の割に小さな体。細い手足。掴んだ肩は、今にも折れてしまいそうだ。
本邸に来てから生活は改善されただろうが、今のカロクを見る限り、心の傷は癒えてはいない。
そう思い至ると、自然と眉尻が下がった。
優しく、してあげたい。今からでも遅くはないだろうか?
シリルは慣れない手つきてカロクの頭を撫でた。

「私はお前の兄、シリル。安心しろ、虐めるつもりは毛頭ない。お前は私の大事な弟なのだから。」

そう言ってシリルは、ぎこちなく笑みを浮かべる。表情を作るのは苦手だ。だがカロクの為ならば、どうと言うことはない。
少しでも、打ち解けられればそれでいい。
シリルはこの哀れな末の弟を愛そうと心に決めた。
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