この世界と引き換えに愛を乞う

seto

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程なくして戦争が始まった。
かねてより懸念されていた北の公国が、予定より早くけしかけて来たのだ。
サイラスは騎士を率いて戦場へ赴き、オーヴァンは家と王宮とを往復する生活を余儀なくされた。朝早くに出て夜遅くに帰宅するため、食事を共にとる所か、顔すら見られない生活が続いた。


カロクはその日も兄弟で夕食を取り、早くにベッドの中へと潜り込んでいた。1部の例外はあるものの、自室では人の目を気にせず魔族を出すことができる。

「戦争か‥」

ポツリと呟く。
ゲームの中では既に戦争は終結しており、公国は帝国の属国に。それを不服に思う公国の残党が、チラチラと物語に登場する程度だ。

「確かサイラス様が終結に導いたんだっけ‥」

今はまだ副団長のサイラスだが、この戦争で功績を上げ、第1騎士団の団長へと抜擢される。本人としては遺憾であったようだが。今の団長は一線を退き、総督の位置となり軍を統括する。
この戦いでサイラスが死ぬことはないだろうが、それでも一抹の不安がカロクの胸に過ぎる。その不安の正体は、カロクが良く分かっていた。

「だいぶ話を変えてしまったからな‥」

一瞬だけ魔族に手を貸してもらおうかと考えて、カロクは首を振る。そんな事に彼らを使ってしまえば、この先も何かあれば駆り出される事になってしまう。
また大きすぎる力は時に人を恐れさせる。世論がカロク断罪へと動いてしまえば、恐れていた未来が現実のものになってしまう。それだけは絶対に避けなくては。

「ふふ、みんなこんなに可愛いのにね。」

そう言って、近くを漂っていた露草の鼻先をツンとつついた。
現時点で1番小さいのは露草だ。
露草はひらりと身を翻すと、カロクの額に口付けを返した。


そろそろ寝ようかとベッドに横になった時、魔族達が一斉に窓の外を睨みつけ、警戒を顕にした。

「みんな‥‥?」

いつになく緊張した彼らの様子に、身を固くしてカロクも窓の外へと視線を流した。

耳をすませれば、キンッキンッと金属がぶつかる音が響いていることに気づく。次いで響く怒声。何か良くないことが起きているのは明白だった。

「何‥‥」

カロクはできる限りベッドの端へと寄り、近くにいた月白をギュッと抱きしめた。
皆、それぞれの唸り声をあげ警戒を解くことがない。嫌な予感が過ぎる。

戦闘の音は、ずっと遠くに聞こえる。
ここまではきっとー‥。

カタン。

魔族達が激しく反応する。
風で揺れた、わけではきっとないだろう。
カロクは息を殺してベッドから降りる。自室の扉までそれなりに距離がある。一気にかけ出せば、何とかなるだろうか。

「‥‥ッ」

逡巡していると、窓の外で陰が動いた。
背の高い、恐らく男。中を伺っている素振りが見られる。闇に同化するような色の服は動きやすく簡素で、口元や頭まで覆っているのか輪郭がはっきりしない。
ただ闇の中で、目玉の白い部分だけが際立って見える。瞳はヘーゼル色だ。細く切れ長の瞳が、室内を舐めるように見つめる。

ダメだ、目を逸らさなければ。

その時、バチりと怪しげな光を宿す瞳とカロクの視線がかち合った。
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