この世界と引き換えに愛を乞う

seto

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ヘーゼル色の瞳が、三日月形に歪む。
たったそれだけなのに、相手が笑っている事がわかった。
カロクは慌てて扉へとかけ出す。
しかし恐怖で足がもつれて、扉に辿り着く前にベシャリと転んでしまった。

カシャン。

男は最低限の破壊で室内へと侵入してきた。

「‥‥へぇ。これは驚いた。」

男の嗄れ声が響く。
魔族達は、カロクの言いつけを守って人を攻撃することは無い。だが今の彼らは興奮が最高潮に達し、いつ男に襲いかかってもおかしくはなかった。
今思えば、この時に男を始末しておくべきだったのだ。

「魔族を手懐けてんのか‥。まさか、器‥‥か‥?」

男は魔族を警戒して、必要以上には近づいこない。値踏みするような視線でカロクを舐めるように見つめ、ふむと思案するように顎に手を添える。

「これだけ揃ってちゃ、連れていくのは無理だな。なら、殺すか。」

口元を覆う布が、不自然なシワを作る。
男は、楽しげに笑っていた。

「‥‥ッ」

震える足に鞭を打って、カロクは何とか立ち上がる。よろりとよろけながら後ろに下がれば、男は懐から何かを取り出し、カロクへと向かって投げた。

バチンッ

シュッと飛んできた複数の暗器が竜胆の放った雷に弾かれる。四方を魔族が囲い、カロクへ攻撃が届かぬようにしているようだ。

「‥‥チッ。」

男は小さく舌打ちすると、次々と暗器を投擲する。その度に魔族達がそれぞれの属性の魔法を放ってそれを弾いた。魔力の操作に長けた魔族には造作もない事だ。だが、カロクが攻撃される度に魔族達の怒気が上がっていく。カロクが命じれば、すぐにでも男の首を噛み砕くだろう。そのため、カロクは下手に動くことも出来なかった。逃げられないが、攻撃が当たることもない。完全に膠着状態となってしまった。

その時バンッと扉が開き、小さな影が男へと襲いかかった。キンッと高い金属音が響く。するとその影に追従するように別の影が男の背後へと回り込み、その首を狙った。

しかし男の反射速度の方が早く、すんでのところで躱されると、影を払うように男が回し蹴りを繰り出した。

「レン!! リン!!」

カロクが思わず声を上げる。
暗器を弾かれたレンがカロクを庇うように立ち塞がり、背後を狙ったリンが男の回し蹴りを躱してその反対に着地する。

「へぇ‥?」

男が面白そうに笑う。
双子の侍従は、ギラギラと殺意をのせた瞳で再び男へと襲いかかる。
レンが腕を狙い、リンがその足を狙う。
男は素早く腰に下げた2本の短刀を引き抜くと、高い金属音を響かせながら、それぞれの攻撃を受け止めた。

「筋はいい、が。」

そう言って力任せになぎ払えば、体格的に不利な2人は距離を取らざるをえない。
レンが小さく舌打ちをした。

「まだまだだな。」

そう言って、今度は男の方からレンへと切りかかる。レンがそれを正面から受け止めると、リンが背後から男へと斬りかかった。

「甘い。」
「ぐぅ‥!!」

その瞬間、男が後ろ手に足を蹴りあげる。
その蹴りは見事にリンを捉えてしまい、その腹部へとめり込んだ。

「‥‥くッ!!」

ギチギチと男の刃を受け止めるレンの顔が歪む。男はそのまま身を翻すと、今度はレンへと回し蹴りを繰り出した。

「ッ!!!」

レンの体は吹き飛び、バンッと壁へと打ち付けられた。

「リンッ!! レンッ!!」

泣きそうになってカロクが2人の名前を呼ぶ。2人ともふらりと体を揺らしながら立ち上がると、油断なく男を見据えた。

「カロク様!!!」

その時、聞きなれた低音が響いた。
見ればそこには、いつもセットされたシルバーグレイの髪を乱したローレンスが立っていた。その瞬間、男の口角が引き上がったのが分かった。

「じぃ!! 来ちゃダメ‥!!」

カロクがローレンスへと手を伸ばす。
その隙を狙って男がカロクへと手にした短刀を投げた。

「カロク様ッ!! ぐぅ‥ッ!!」

反射的にローレンスは駆け出し、カロクを庇うように抱きしめた。次いで苦しげに呻く声が、カロクを抱きしめる腕に響く。

「チッ、ジジイめ。」

男の悔しげな声が落ちる。

「じぃ‥!! 」
「ッ‥ダメ、です‥カロク、様‥ッ」

腕の中から顔を上げれば、ローレンスの口角から血が滴っているのが視界に入った。慌ててその肩口から背中を確認しようと伸び上がると、胸元に添えた手に濡れた感触を覚えて視線を落とす。

「え‥‥‥」

鮮やかな赤が、指先を濡らしていた。
ポタリと膝の上に生暖かい雫が滴り、カロクはゆっくりと視線をあげた。
赤く濡れた鈍銀が、ローレンスの胸元から突き出ている。そこから鮮血が伝い、ポタリポタリと滴っていた。

「あぁあぁぁっ!!!!」

リンの怒声が響く。
双子は同時に男へと襲いかかり、キンッキンッ高い金属音を響かせた。がむしゃらに振るう暗器を男は適当にいなす。するとその時、外が騒がしくなって来ていることに気がついた。

「チッ、邪魔が入ったな。」

男は双子の攻撃をいなしながらそう落とす。遠くから騎士たちの怒声が聞こえ、こちらに向かってくる足音が聞こえた。

「まぁいい。収穫はあった。」

そう言って男は力任せに双子を薙ぎ払うと、ひらりと窓枠に飛び乗った。

「ではな、器。」

にぃと1度いやらしい笑みをカロクへと向けると、男はそのまま窓枠から闇へと消える。双子は傷だらけになりながらも、その背を追った。

「じぃ‥‥」

カロクは呆然と、ローレンスの胸元を見つめた。黒い執事服では分かりにくいが、おびただしい量の血が胸元を濡らし、床へと拡がっていた。

「じ、ぃ‥‥」

カロクは視線を上げて、ローレンスの顔を覗き込む。その瞳は、既に光をうつしていなかった。
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