私が世界を壊す前に

seto

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日を跨いでも、魔神は帰ってこなかった。
魂の選別に時間がかかっているらしい。
「‥ま、神に言われたとはいえ魔王に仕えたがる者などいるわけもないか。」
フィオニスはそう独りごちると、城の外へと出た。
もちろん勇者も一緒だ。好きにしていいと言い聞かせているのだが、まるで小鴨のように後をついて離れない。刷り込みと言うやつだろうか?
「今朝も俺の寝所の外で震えていたしな‥」
全く、とフィオニスは頭を抱える。
昨夜もフィオニスは勇者を寝所のひとつに放り込んでいた。ここがお前の部屋だからな、と何度も言い含めて。
だが夜が明けて見れば、勇者はフィオニスの元へと戻って来てしまうのだ。さすがに寝室の中までは入ってこないのだが。
「いっそのこと、人里に捨ててくるか‥?」
「“そうすると、奴隷に逆戻りだけどいいのかな?”」
その時、すぐ側で聞きなれた声が響いた。
「女神よ‥」
フィオニスは恨みがましく声の主を振り返る。
見れば、いつの間にか魔神を有した球体がフィオニスのそばに浮かんでいた。
「“やぁ、お待たせ。選別に手間取ってしまってね。”」
その言葉に、フィオニスはやはりと納得する。
「それはそうだろう。神に選ばれたとはいえ、誰が好き好んで魔王などに仕えたいと思う?」
「“ん‥?”」
そうフィオニスが返せば、キョトンとした魔神の雰囲気が伝わってきた。
「“いやぁ、違う違う。逆に多すぎて困ったんだ。”」
「多すぎる‥?」
「“彼らには事の経緯を説明させて貰った。そしたら皆、我が世界の事なのに申し訳ないと嘆いてね。”」
そう言って魔神は苦笑する。
「“少しでも君の助けになるならばと、名乗り出てくれたんだよ。”」
「だが、人類の敵だぞ?」
フィオニスが言う。
「“あぁ。この先、多くの命を奪うだろうことも説明した。魔王の配下として、自分自身が人を殺す事になるかもしれないという事も。だが、それでも皆の思いは変わらなかった。自分たちの世界のことなのに、傍観者でいることなど出来ないと言ってね。”」
そう続けられて、フィオニスの胸がじわりと暖かくなる。
「そういう事ならば遠慮なく。」
フッと不敵に笑ってみせる。だが、それが照れ隠しであると魔神には分かっていた。

配下の生成にはフィオニスの血肉、そして魔力が必要となるらしい。そのままであれば、ただフィオニスの命令を聞くだけの傀儡に。そこに魂を込めることで、個として確立するのだと、魔神は言った。
「“あぁそれと、君には魂を見る神眼も授けておこう。”」
言うが早いが、フィオニスの瞳の前に魔法陣が広がる。
「ぐっ!?」
カッと瞳が熱くなり、フィオニスは思わず目を抑える。グツグツと煮えたぎるような熱さが眼裏を焼き、きつく瞼を閉じた。
「“なに、すぐ終わる。”」
魔神はこともなげに言って見せる。
「簡単に、言ってくれる‥っ」
フィオニスがくっと無理やり笑って瞳を開けると、赤く充血した瞳からぽろりと涙がこぼれた。
「‥っ」
その時、小さく息を飲む音が落ちた。
次いで、引かれる袖。
視線を落とせば、その先には見たこともない表情で見上げる勇者の姿があった。見開かれた瞳。微かに寄せられる眉。
「‥‥。」
何かを告げようと開かれた唇は、結局音にならずに閉じられる。
「“珍しい反応だね。”」
魔神が言う。
確かに、今までにない反応だ。心配、したのだろうか?とフィオニスは思う。じっと見下ろしていると、勇者は視線を惑わせ、そのままうつむいてしまった。
ふっとフィオニスは息を吐くと、勇者の頭を撫でる。
「‥安心しろ、大事ない。神のいたずらだ。」
「“いたずらとは失礼な。何の代償もなく神眼が得られるわけがないだろう?”」
魔神はそういって拗ねた雰囲気を醸し出すが、その声は勇者には届いていないだろう。それどころか、その会話自体に認識阻害がかかっていると魔神が言っていた。どこまで聞こえていたのかは分からないが、最後の勇者に向けた言葉だけは聞こえていたのだろう。
ほっと息を吐くと、勇者はその袖から手を離した。
「配下の生成には血と肉だったな。」
「“少しいいかな?”」
早速配下の生成にかかろうとするフィオニスに、魔神が待ったをかける。
「“一番最初はさ、この子の傍付きにしてあげてくれないかな?”」
そう言って魔神は1つの清らかな魂を差し出した。すると得たばかりの神眼が、魂の歴史をフィオニスへと伝えた。
「‥‥‥母親か。」
フィオニスが言う。
その魂は、ここにいる勇者の母に当たる人だった。
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