私が世界を壊す前に

seto

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フィオニスは、左手を地面にかざす。すると、紫紺の光を帯びた魔法陣がサァッと足元に拡がった。次に右の親指の腹を噛みちぎり、そこから溢れた鮮血を魔法陣へと垂らす。血液に含まれたフィオニスの魔力に反応して、魔法陣の光が強くなった。
「さて、名前は何がいいかな?」
フィオニスが問う。すると魔神の近くを漂う魂がゆらりと揺れた。
「‥では、私の世界の聖女“マリア”の名を貴方に授けよう。」
そう言ってフィオニスは自らの髪を1本引き抜き、魔法陣の中へと落とした。そのまま魔力を込めると、先に落とした血が反応し髪と融合して人の形を作る。
彼女はあくまでも侍女として仕えることを望んだ。勇者シリウスの母としてではなく。だからフィオニスもその願いにこたえる様に、生前とはかけ離れた姿を依り代へと与えていく。美しかった白金の髪は、冬の夜空を想像させる紺色へ。長かった髪は短く。そして形の良い頭には2つのねじれた角を。装飾のない爪は、マニュキアを塗ったように黒く染めた。
だが、その菫色の瞳だけは手を加えずにそのまま残した。少しでも、繋がりを思い出せるように。
「覚悟ができたならば、宿るといい。」
さぁ、とフィオニスは魔法陣の中に浮かぶ依り代へと魂を誘う。彼女に、躊躇はなかった。
スッと、何の抵抗もなく依り代へ魂が吸い込まれていく。魂の輝きがすべて依り代へとおさまると、パァンと魔法陣がはじけて飛んだ。生まれた姿のまま、彼女、マリアの白い足が地面へと降りた。長いまつ毛に縁どられた瞼が開くと、そこには勇者と同じ菫色の瞳が、確かな決意を宿して光り輝いていた。
「‥フィオニステール様。我が儘を聞いてくださり、まことに感謝申し上げます。」
そう言ってマリアは、スッと膝をつく。
「貴方様がどのような決断を下そうとも、わたくしは貴方様と共にこの世界の行く末を見届けたいと存じます。」
「‥‥あぁ。よろしく頼む。」
フィオニスはそういって、苦く笑った。
マリアは早速自らの魔法で、メイドのような服へと着替えた。主な仕事はシリウスの身の回りの世話だ。遠い昔の生では、貴族に仕えるメイドであったこともあるそうなので、ある程度の仕事内容は把握していると、自負してくれた。

そうなると次に必要となるのが、教師陣だ。まずは言葉を覚えないことにはやっていけない。話せはするが、読み書きは出来ない。そう、魔神は言っていた。読み書きが出来なければ、言葉巧みに騙され、再び奴隷へと落とされることだろう。今後外へ出すことも考えれば、教養は必須だ。
教師役に名乗りを上げたのは、代々学者や発明家といった研究職に従事してきた魂だ。最後の生では、その頭脳を貴族連中に使い潰され、体を壊したところで汚名を着せられ処刑されたらしい。こちらも生前の名はいらぬと言うので、フィオニスが名付けることになった。淡い水色の髪をした、穏やかそうな若い男性だ。しかしその臀部からは、蛇のような尾が生えている。
「魔王様。お目にかかれて光栄です。」
そう言って学者、ニコラスは恭しく頭を下げた。マリアと同じように魔法で生成した衣服は学者然としていて、その整った顔に似つかわしくない大きな丸形の眼鏡をかけている。
「こちらこそ、よろしくニコラス。」
そう言ってフィオニスは、握手を求める様に手を差し出す。するとニコラスは、困ったように微笑んだ。
「困ります、フィオニス様。私は貴方の配下。それ(握手)は、対等な関係のものがするものです。」
「分かっている。だがこの先、私ではどうすることもできない問題も出てこよう。その時は、ぜひ相談させてほしい。」
「‥なるほど。貴方は、そう言う人なのですね。」
ニコラスは、観念したようにその手を取った。
「かしこまりました。私でお役に立てるのならば、粉骨砕身この身を尽くしましょう。」
そう言って晴れやかにニコラスは笑った。

それからフィオニスは、4人ほど魂を魔神より借り受けた。
みな我こそは、と名乗り出る中選抜するのは苦労した。だが流石は神々が掬った魂達だ。多少のよどみがあるものでも、そのよどみに負けない気高い信念を有していた。
厨房を任せることになる料理人のミシェル。神殿の管理を任せることになる宣教師のベルナール。それから城の防衛なども考慮し、自らの牙と爪で2人の戦士を呼び出した。名をそれぞれジークフリードとディルムッドという。彼らは勇者の指南役でもある。
みな一定以上の強さを誇る魔族だが、特に2名の戦士には特別に多く力を与えた。この先、この城が勇者以外に害されぬように。
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