私が世界を壊す前に

seto

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眼下に広がる炎海。逃げ惑う人々。
悲鳴と怒声が、瓦解する建物の咆哮に飲まれて消える。
「‥愚かですね。」
その光景を作り出した張本人が、蔑むように睥睨する。その薄い硝子の向こうの赤黒に、嫌悪以外の色はない。
その言葉にフッと呆れを含む短い息を吐き出すと、ジークフリートはベリサリウスを仰ぎみた。
「フィオニス様は?」
するとベリサリウスは1度ジークフリートと視線を合わせると、そのまま都市の中心に位置する屋敷へと視線を流した。
「あちらの地方長官の屋敷です。」
「フィオニス様直々に出向かれたのか。」
そう言ってジークフリートはその手を無造作に振った。するとその軌跡をなぞるように鋭い氷の刃が生成され、街に降り注いだ。

侵攻を決めた直後、フィオニスはそれぞれの国に、都市に、宣告をした。『国を、都市を空け渡せ。3日後に侵攻を開始する。』と。だが彼らはその警告を無視して、笑った。何が魔王だ、と。
魔王の伝承を正しく知るものは、もはやこの世界にはほとんどいない。皆がただの作り話だと嘲笑う。今回も、調子に乗った野盗が無謀にも各国に喧嘩を売ったと言う程度の認識だった。
フィオニスは自身が定めた3日という期限をすぎたその瞬間、侵攻を開始した。
解き放たれた魔物が、行く先々の小さな村々を襲う。フィオニスの作り出した魔物は、フィオニス同様魂の色を見る事ができる。故に効率的に堕落した魂を狩る事が出来た。
フィオニスに同行したのはジークフリートとベリサリウスの2名。もう1つの大きな都市には、ディルムッド以下2名の魔族が。他3つの都市にも、それぞれ魔族が2名ずつ向かっているので、侵攻はつつがなく終わるだろう。

「フィオニス様は、この光景を見てどのように思うのでしょうね。」
ベリサリウスが言う。
ベリサリウスが憂うのは、もちろんフィオニスのその心。
配下である魔族にも心を砕くその様に、ベリサリウスは深い感動を覚えた。出会って間もない自分達を、当たり前ように心配してくれるのかと。
だが、感激と共に一抹の不安を覚えた。いつかその心が壊れてしまうのではないかと。それはいつかジークフリートも感じた事だ。彼の王は、優しすぎる。
それがかの御方の住まう世界での“当たり前”だとしても。
「だがフィオニス様には、神々がついてくださっている。今もそのお耳には神々の声が届いていることだろう。」
我々には既に届かぬお声だろうが、とジークフリートが続けた。
フィオニスは時折、1人虚空を見つめている時がある。しかし、その唇が動くのは分かるがその言葉を理解する事ができない。恐らくは認識阻害がかけられているのだろう。
頻繁に行われるそれは、フィオニスと神々が会話をしている瞬間なのだと魔族達は悟った。神々との会話の流れから、魔族達にも話を振られる事がよくあるからだ。
だが、そのお声は魔族達には届かない。
フィオニスが紡ぐ言葉も、それが神々へと向けられたものであるのなら、魔族達は理解する事ができないのだ。

そんな彼らも、魂である時は神々と会話をする事も出来た。だが、魔族に転じたその瞬間、その声は失われてしまったのだ。だから、フィオニスが神々と何を話しているのかまでは分からない。
だが常に神の存在を感じられるのであれば、それほど心強いことは無いだろう。神々は、フィオニスだけは救ってくれるだろうから。
「それに、そうならぬよう我々を遣わせて下さったのだろう。ならば、真摯に仕え、お守りするだけだ。」
「そう、ですね‥。」
ジークフリートの言葉に、微かに眦を緩めてベリサリウスは笑った。
「だがな、ベリサリウス。」
ジークフリートは言う。
「私は少し‥‥、嬉しいのだ。不謹慎ではあるがな。」
「と、申しますと‥?」
ベリサリウスが問う。
するとジークフリートは過去を回顧しながら微かに笑う。
「お前とは少なくない生で同じ時を過ごし、戦ってきた。忌々しい宿敵として、時に頼もしい同志として。」
彼らは何度も転生する中で、幾度なくその時間を共にしてきた。味方として、時に敵として。しかし何の因果か、彼らは敵同士で戦うことの方が遥かに多かった。
「そんなお前と、最後の選定であるこの時間を共にする事が出来るのだ。何人もの英霊がいる中で、顔見知りであるそのお前と。」
「ふふ、思えば貴方には何度も辛酸を舐めさせられました。」
「お互い様だ。お前の戦略はいつの生も鮮やかで、こちらこそ苦戦を強いられた。
同志であったのは‥、数える程か。
そんなお前と、最後のこの時を共に過ごすことが出来る。しかも同志としてだ。これが最後の生だとしても、滾らずにはいられまい。」
ジークフリートの唇は弧を描き、その金の瞳には微かに喜色が滲んでいる。そんなジークフリートの珍しい表情に、ベリサリウスは微かにその瞳を開き、そして緩く笑った。
「そうですね。名将と名高き貴方と共に戦場を駆ける。いつの生でも、1度は思いを馳せたものです。味方ならばどんなに良かったかと。
フィオニス様に、そんな気はないのかもしれません。ですがそれでも、最後にその機会を与えてくださり、私も感謝の念に堪えません。
もちろん、世界の堕落を止められなかった我々に、そんな資格などないのですが‥。」
「あぁ。だからこそ、誠心誠意お仕えしよう。あの方が、この世界をどう断じようとも。」
そうジークフリートが言葉を終わらせると、2名の魔族はれぞれ別の方角へと踵を返す。この街を終わらせるために。
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