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フィオニスが目覚めたのは夜中過ぎ。
身体は既に清められており、傍らには窓の外へ向かって祈りを捧げるベルナールの姿があった。
月明かりに照らし出された白銀の髪はキラキラと幻想的に輝き、伏せたまつ毛はその頬に長い影を落とす。上半身は裸で、腰に簡単にシーツを巻き付けただけだと言うのに、その姿は何処か神々しく写った。
「‥お目覚めですか?」
そう言ってベルナールがその顔を上げる。
ニコリと微笑むその顔は、先程フィオニスを責め立てていた人物とはまるで別人のようだ。
「‥‥ッ‥」
先の情事を思い出してフィオニスは言葉をつまらせる。
醜態を晒したという自覚がある。魔王としての態度も言葉使いも、もはやベルナールの前では意味をなさない。それほどまでに、身も蓋もなく喘いでしまった。
「身体はいかがですか?」
ベルナールが問う。
うぅ‥、と小さく呻いてから、フィオニスはおずおずと顔を上げた。
「‥‥だいぶ、楽になった。」
ありがとう、と消え入りそうな声でフィオニスが落とせば、ベルナールは困ったように笑った。
「構いませんよ。むしろ、役得と言うやつです。」
クスクスとベルナールが笑う。
「ですがフィオニス様。これはあくまでも応急処置です。一時的に、その熱を紛らわせているだけ。またいつ熱がぶり返すか分かりません。」
「あぁ、分かっている。」
そう言ってフィオニスは未だに腹の奥底に燻る熱に意識を向ける。ベルナールの精を受けて、今はある程度治まってはいる。が、それでも意識を向ければズクリと下腹が疼く気がした。
「だが、少し情けもなくもあるな。1人で処理もできないとは。それにー‥。」
そう言って、フィオニスがまつ毛を伏せる。微かに赤く染まった目元に、ベルナールは思わずドキリとした。
「あんなに‥‥感じてしまう、とは‥。」
フィオニスはベルナールの視線から逃げるようにその瞳を流す。羞恥から握ったシーツを無意識に胸元まで引き上げ、月明かりに照らし出された白い肌は、艶めかしく光を弾いた。
そんなフィオニスの様子に、ベルナールは思わず深くため息をついた。まさに魔性だな、とは心の中でのみ呟いた。
「‥‥何も1人で解決する事はありませんよ。貴方様を手助けするために我々がいるのですから。」
それに、と続けてベルナールがそっとフィオニスの耳元へ唇を寄せる。
「快楽に鳴く貴方様は、大変蠱惑的でございました。」
「‥‥ッ」
耳元に息を吹き込まれて、カァッとフィオニスはその頬を紅潮させた。ちょっとした意趣返しだ。その様子に、ベルナールは意地悪くニヤリと笑った。
「“フィオニス。君が悪く思う必要は、なにも無いとも。”」
「‥‥っ!?」
その時、魔神の声が響いてビクリとフィオニスの肩が跳ねた。
「魔神よ‥‥」
フィオニスが軽く頭を抱える。すると魔神はクスクスと笑った。
「“ベルナールは宣教師と言えど、割とイイ性格をしている。それは他の魔族も同じ事だけどね。”」
「イイ性格‥‥。」
フィオニスを責め立てている時のベルナールの楽しげな様子を思い出して、フィオニスは思わずため息をつく。
「‥‥神はなんと?」
ベルナールが問う。
その様子に、おやとフィオニスは片眉をはね上げた。
「ベルナールは神の声が聞こえるんじゃなかったか?」
「はい。ですが、それは祈りを捧げている時にだけ。それも神々が私に伝えたい事がある時にだけ、そのお言葉を賜る事が出来るのです。」
「“こうした会話は、フィオニス。君としか出来ない。”」
補足するように魔神がそういうと、なるほどとフィオニスは納得した。
「魔神は、ベルナールはイイ性格をしているから気にする必要は無いと。」
「ははっ!!」
フィオニスがそのまま言葉を伝えると、ベルナールが声を上げて笑った。
「えぇ、えぇ。その通りですよ、フィオニス様。」
ひとしきり笑うとベルナールが言う。
「この世界では、いつまでも高潔ではいられません。多少の狡さも持ち合わせていなければ、早々に魂が疲れ果ててしまう。」
「疲れる?」
フィオニスが問うと、ベルナールはその表情を引き締める。
「はい。疲れ果てた魂は、徐々にその身を削りいずれは消滅します。」
「消滅‥‥。」
フィオニスは思わず表情を険しくした。
そうして消えていった魂は、いくつあるのだろうか。
「“そうならないように、保護をはじめたんだけどね。”」
そういう魔神の言葉も、何処か苦さを含んでいた。
「消えていった魂達を憂う必要はありません。貴方様は、滅びゆくこの世界に最後の光を与えてくれた。我々は、そんな貴方様に仕えられる事を誇りに思っております。」
そう言ってベルナールが笑う。
その微笑みをフィオニスは眩しく感じた。
「俺は‥、貴方達のその高潔さは、失われてなどいないと思うよ。」
フィオニスの言葉に、ベルナールの瞳が微かに開く。
「ベルナール。貴方は気高い。悪く見せようとしているようだけど。
そんな貴方達の方こそ、俺には眩しく見えるよ。」
そう言ってクスリとフィオニスは笑う。ベルナールは、そんなフィオニスの笑みにトクンと鼓動を1つ早くした。
身体は既に清められており、傍らには窓の外へ向かって祈りを捧げるベルナールの姿があった。
月明かりに照らし出された白銀の髪はキラキラと幻想的に輝き、伏せたまつ毛はその頬に長い影を落とす。上半身は裸で、腰に簡単にシーツを巻き付けただけだと言うのに、その姿は何処か神々しく写った。
「‥お目覚めですか?」
そう言ってベルナールがその顔を上げる。
ニコリと微笑むその顔は、先程フィオニスを責め立てていた人物とはまるで別人のようだ。
「‥‥ッ‥」
先の情事を思い出してフィオニスは言葉をつまらせる。
醜態を晒したという自覚がある。魔王としての態度も言葉使いも、もはやベルナールの前では意味をなさない。それほどまでに、身も蓋もなく喘いでしまった。
「身体はいかがですか?」
ベルナールが問う。
うぅ‥、と小さく呻いてから、フィオニスはおずおずと顔を上げた。
「‥‥だいぶ、楽になった。」
ありがとう、と消え入りそうな声でフィオニスが落とせば、ベルナールは困ったように笑った。
「構いませんよ。むしろ、役得と言うやつです。」
クスクスとベルナールが笑う。
「ですがフィオニス様。これはあくまでも応急処置です。一時的に、その熱を紛らわせているだけ。またいつ熱がぶり返すか分かりません。」
「あぁ、分かっている。」
そう言ってフィオニスは未だに腹の奥底に燻る熱に意識を向ける。ベルナールの精を受けて、今はある程度治まってはいる。が、それでも意識を向ければズクリと下腹が疼く気がした。
「だが、少し情けもなくもあるな。1人で処理もできないとは。それにー‥。」
そう言って、フィオニスがまつ毛を伏せる。微かに赤く染まった目元に、ベルナールは思わずドキリとした。
「あんなに‥‥感じてしまう、とは‥。」
フィオニスはベルナールの視線から逃げるようにその瞳を流す。羞恥から握ったシーツを無意識に胸元まで引き上げ、月明かりに照らし出された白い肌は、艶めかしく光を弾いた。
そんなフィオニスの様子に、ベルナールは思わず深くため息をついた。まさに魔性だな、とは心の中でのみ呟いた。
「‥‥何も1人で解決する事はありませんよ。貴方様を手助けするために我々がいるのですから。」
それに、と続けてベルナールがそっとフィオニスの耳元へ唇を寄せる。
「快楽に鳴く貴方様は、大変蠱惑的でございました。」
「‥‥ッ」
耳元に息を吹き込まれて、カァッとフィオニスはその頬を紅潮させた。ちょっとした意趣返しだ。その様子に、ベルナールは意地悪くニヤリと笑った。
「“フィオニス。君が悪く思う必要は、なにも無いとも。”」
「‥‥っ!?」
その時、魔神の声が響いてビクリとフィオニスの肩が跳ねた。
「魔神よ‥‥」
フィオニスが軽く頭を抱える。すると魔神はクスクスと笑った。
「“ベルナールは宣教師と言えど、割とイイ性格をしている。それは他の魔族も同じ事だけどね。”」
「イイ性格‥‥。」
フィオニスを責め立てている時のベルナールの楽しげな様子を思い出して、フィオニスは思わずため息をつく。
「‥‥神はなんと?」
ベルナールが問う。
その様子に、おやとフィオニスは片眉をはね上げた。
「ベルナールは神の声が聞こえるんじゃなかったか?」
「はい。ですが、それは祈りを捧げている時にだけ。それも神々が私に伝えたい事がある時にだけ、そのお言葉を賜る事が出来るのです。」
「“こうした会話は、フィオニス。君としか出来ない。”」
補足するように魔神がそういうと、なるほどとフィオニスは納得した。
「魔神は、ベルナールはイイ性格をしているから気にする必要は無いと。」
「ははっ!!」
フィオニスがそのまま言葉を伝えると、ベルナールが声を上げて笑った。
「えぇ、えぇ。その通りですよ、フィオニス様。」
ひとしきり笑うとベルナールが言う。
「この世界では、いつまでも高潔ではいられません。多少の狡さも持ち合わせていなければ、早々に魂が疲れ果ててしまう。」
「疲れる?」
フィオニスが問うと、ベルナールはその表情を引き締める。
「はい。疲れ果てた魂は、徐々にその身を削りいずれは消滅します。」
「消滅‥‥。」
フィオニスは思わず表情を険しくした。
そうして消えていった魂は、いくつあるのだろうか。
「“そうならないように、保護をはじめたんだけどね。”」
そういう魔神の言葉も、何処か苦さを含んでいた。
「消えていった魂達を憂う必要はありません。貴方様は、滅びゆくこの世界に最後の光を与えてくれた。我々は、そんな貴方様に仕えられる事を誇りに思っております。」
そう言ってベルナールが笑う。
その微笑みをフィオニスは眩しく感じた。
「俺は‥、貴方達のその高潔さは、失われてなどいないと思うよ。」
フィオニスの言葉に、ベルナールの瞳が微かに開く。
「ベルナール。貴方は気高い。悪く見せようとしているようだけど。
そんな貴方達の方こそ、俺には眩しく見えるよ。」
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