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フィオニスはエクトールを空き部屋のベッドに放り投げて、一息つく。エクトールが眠るそのベッド横に腰掛けて、ニコラスに言われた事を反芻していた。
『フィオニス様。今はなんの問題もなく国を回せてはおりますが、いずれ立ち行かなくなるでしょう。せめて城を管理するものを雇うか、召喚をする事をオススメいたします。』
ふっ、とフィオニスは浅くため息をついた。
街の運営をさせるために召喚した魔族は計3体。ニコラスは当初の予定通り、勇者の教育係に。ベルナールは宣教師として教会で祈りを捧げつつ、最近では街で説法を説いているようだ。そして新たに召喚した2体とミシェルは勇者と魔族達の食事を賄っている。
軍部を担う魔族達は初期に召喚したジークフリート達含め12体。侵攻がない日は魔物や獣を狩るなどして食料調達をお願いしている。そしてマリアはシリウス達の世話係だ。
城の清掃や管理は、実はフィオニスの魔法に依存している。自室の片付けはそれぞれに任せてはいるが、清掃魔法だけはフィオニスがかけていた。
今の所、魔族を増やすつもりはない。
新たに保護したエクトールにも、自分の事は出来る限り自分でやってもらうつもりだ。だが侵攻の度に人間を保護していれば、いずれはそういった問題にも向き合わければならないだろう。
「文官、か‥。国を起こすつもりなどなかったんだがなぁ‥。」
はぁ、とフィオニスは深くため息をついた。
「‥‥ん‥」
その時、エクトールが目を覚ました。
薄く開いた瞳は鮮やかな翡翠をしていた。
「起きたか。」
フィオニスが問う。
しかしエクトールは未だ夢心地で、ゆっくりと長いまつ毛をはためかせていた。
「ここ‥は‥‥?」
「魔の森にある魔王の城だ。」
「し、ろ‥‥」
フィオニスがその問いに答えると、エクトールがフィオニスの言葉を反芻した。
「あなたは‥‥?」
ぼんやりと虚空を見つめる瞳がゆっくりとフィオニスを捉える。パチリとフィオニスと視線を交わすと、その翡翠が僅かに開かれた。
「神、様‥‥?」
その言葉に、近くに浮遊していた魔神が吹き出した。もちろんエクトールには聞こえていないのだが。
「お前は神像を見た事がないのか?私のような神などおらんだろう。」
フィオニスは、近くで笑う魔神に表情を苦くしながら答えた。
「‥‥っ!!」
ガバリとエクトールが跳ね起きる。
ジッとフィオニスを見つめたあと、キョロリと部屋を見渡した。
「ぇ‥‥夢‥?」
エクトールは震える指で自身の眦に触れた。カサついた指先が、ザラリと目尻を撫でた。
「なん、で‥‥?」
「視力は戻させて貰った。お前は、現実を見る必要があるからな。」
フンッとフィオニスが不遜にそう落とした。
「な、ぜ‥‥?」
エクトールが問う。
その瞳には、明確に恐怖が滲んでいた。
「死ぬことは許さない。」
「‥‥っ!!」
フィオニスがそう言い放つと、エクトールはフィオニスの胸ぐらを掴んだ。
「なんで!! どうして!!」
エクトールが叫ぶ。
「魔王は、勇者を殺すのだろう!! 殺せよ!! 私を!!」
その姿をフィオニスは表情1つ変えずに見つめた。
「あの子達を殺したのは私だ!! 命を弄んだのは、この私なんだ!! 私さえ、いなければ‥!!」
見開いた翡翠に雫が滲む。
詳しく聞く必要があるな、とフィオニスは思いながら、いとも簡単にエクトールの両手をつかみあげて、覆い被さるようにベッドへと縫い止めた。
「悲劇を気取るなよ、エクトール。お前より悲惨なものはこの世界にはいくらでもいる。」
唇が触れそうな距離でフィオニスが囁く。
「だから魔王が召喚された。この世界を終わらせるために。」
「なら‥‥ッ!!」
フィオニスの言葉に、エクトールが返す。
するとスっとフィオニスは眦を眇めた。
「なるほど、魂すら残さず消える事がお望みか。」
「何‥‥?」
続く言葉に、エクトールは困惑する。
「私はこの世界の選定者だ。今はまだ、生かす方向で動いている。だがな。」
グッと距離を詰めてフィオニスが口を開く。
「私が消すと定めれば、この世界は消える。空も、大地も、大海原も。」
「な‥‥」
「全て消える、魂すらも残さずに。
選定すると言う事とは、そういう事だ。 私がもたらす終末に、救いなどない。」
エクトールの瞳が惑うように揺れた。
その様子に、ニヤリとフィオニスは妖しく微笑んだ。
「足掻けよ、勇者。生きる意味を残したいのなら。」
そう言ってフィオニスは、エクトールの唇を奪った。
『フィオニス様。今はなんの問題もなく国を回せてはおりますが、いずれ立ち行かなくなるでしょう。せめて城を管理するものを雇うか、召喚をする事をオススメいたします。』
ふっ、とフィオニスは浅くため息をついた。
街の運営をさせるために召喚した魔族は計3体。ニコラスは当初の予定通り、勇者の教育係に。ベルナールは宣教師として教会で祈りを捧げつつ、最近では街で説法を説いているようだ。そして新たに召喚した2体とミシェルは勇者と魔族達の食事を賄っている。
軍部を担う魔族達は初期に召喚したジークフリート達含め12体。侵攻がない日は魔物や獣を狩るなどして食料調達をお願いしている。そしてマリアはシリウス達の世話係だ。
城の清掃や管理は、実はフィオニスの魔法に依存している。自室の片付けはそれぞれに任せてはいるが、清掃魔法だけはフィオニスがかけていた。
今の所、魔族を増やすつもりはない。
新たに保護したエクトールにも、自分の事は出来る限り自分でやってもらうつもりだ。だが侵攻の度に人間を保護していれば、いずれはそういった問題にも向き合わければならないだろう。
「文官、か‥。国を起こすつもりなどなかったんだがなぁ‥。」
はぁ、とフィオニスは深くため息をついた。
「‥‥ん‥」
その時、エクトールが目を覚ました。
薄く開いた瞳は鮮やかな翡翠をしていた。
「起きたか。」
フィオニスが問う。
しかしエクトールは未だ夢心地で、ゆっくりと長いまつ毛をはためかせていた。
「ここ‥は‥‥?」
「魔の森にある魔王の城だ。」
「し、ろ‥‥」
フィオニスがその問いに答えると、エクトールがフィオニスの言葉を反芻した。
「あなたは‥‥?」
ぼんやりと虚空を見つめる瞳がゆっくりとフィオニスを捉える。パチリとフィオニスと視線を交わすと、その翡翠が僅かに開かれた。
「神、様‥‥?」
その言葉に、近くに浮遊していた魔神が吹き出した。もちろんエクトールには聞こえていないのだが。
「お前は神像を見た事がないのか?私のような神などおらんだろう。」
フィオニスは、近くで笑う魔神に表情を苦くしながら答えた。
「‥‥っ!!」
ガバリとエクトールが跳ね起きる。
ジッとフィオニスを見つめたあと、キョロリと部屋を見渡した。
「ぇ‥‥夢‥?」
エクトールは震える指で自身の眦に触れた。カサついた指先が、ザラリと目尻を撫でた。
「なん、で‥‥?」
「視力は戻させて貰った。お前は、現実を見る必要があるからな。」
フンッとフィオニスが不遜にそう落とした。
「な、ぜ‥‥?」
エクトールが問う。
その瞳には、明確に恐怖が滲んでいた。
「死ぬことは許さない。」
「‥‥っ!!」
フィオニスがそう言い放つと、エクトールはフィオニスの胸ぐらを掴んだ。
「なんで!! どうして!!」
エクトールが叫ぶ。
「魔王は、勇者を殺すのだろう!! 殺せよ!! 私を!!」
その姿をフィオニスは表情1つ変えずに見つめた。
「あの子達を殺したのは私だ!! 命を弄んだのは、この私なんだ!! 私さえ、いなければ‥!!」
見開いた翡翠に雫が滲む。
詳しく聞く必要があるな、とフィオニスは思いながら、いとも簡単にエクトールの両手をつかみあげて、覆い被さるようにベッドへと縫い止めた。
「悲劇を気取るなよ、エクトール。お前より悲惨なものはこの世界にはいくらでもいる。」
唇が触れそうな距離でフィオニスが囁く。
「だから魔王が召喚された。この世界を終わらせるために。」
「なら‥‥ッ!!」
フィオニスの言葉に、エクトールが返す。
するとスっとフィオニスは眦を眇めた。
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「何‥‥?」
続く言葉に、エクトールは困惑する。
「私はこの世界の選定者だ。今はまだ、生かす方向で動いている。だがな。」
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「私が消すと定めれば、この世界は消える。空も、大地も、大海原も。」
「な‥‥」
「全て消える、魂すらも残さずに。
選定すると言う事とは、そういう事だ。 私がもたらす終末に、救いなどない。」
エクトールの瞳が惑うように揺れた。
その様子に、ニヤリとフィオニスは妖しく微笑んだ。
「足掻けよ、勇者。生きる意味を残したいのなら。」
そう言ってフィオニスは、エクトールの唇を奪った。
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