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「“随分と辛くあたっているようだったけど、なぜエクトールには優しくしてあげないんだい?”」
部屋に戻ったフィオニスに、魔神が言う。
「別にシリウスやフリードリヒにも優しくした覚えはー‥」
フィオニスはそこまで言って口篭る。
するとニヤニヤしているような気配を纏った魔神が、ふわりとフィオニスの顔を覗き込むかのように回り込んだ。
「‥‥だって、彼はもう大人だろう? 」
そう返せば、魔神がふむ、と落とす。「“あぁ、26だね。”」
「前世の私より大人じゃないか。」
魔神の返答に、フィオニスはやや拗ねた口調で答えた。
シリウスは8歳。フリードリヒは14歳。
2人ともまだまだ子供だ。保護をしてあげなくてはならない。
だがエクトールは既に成人している。
確かに酷い人生を歩んできたのだろう。何度も絶望してきたのだろう。だがそれでも、勇者を名乗るのであれば全てを投げ出すような事をしてはいけない。
フィオニスはそう考えていた。
その思いをそのまま魔神に打ち明ければ、魔神は何故か満足そうに笑った。
「“なら唇を奪ったのは?”」
魔神が問う。
すると、グッとフィオニスの喉が鳴った。
逃げるように視線を流せば、楽しげな魔神がスイッと回り込む。ジッとのぞき込まれれば、観念したようにフィオニスはため息をついた。
「‥魔が差したんだ。」
「“と、いうと?”」
魔神が続ける。
「さっきも言った通り、腹が立っていた。だがエクトールが壮絶な人生を歩んできたのだろう事も何となく分かる。だがそれでも、勇者が諦めてはダメだろう?」
「“ふむ。”」
「それで、その‥意趣返しがしたくてな。
もちろん腹の中の魂が、疼いたのもあるんだが‥。」
あの時フィオニスは間近で交わる視線に、喉の渇きのようなものを覚えた。勇者の血肉は汚れた魂を浄化する。それを本能的に感じ取ったのだろう。そんな中、怒りで理性が緩んだ。その結果、フィオニスは衝動のままにエクトールの唇を奪ったのだった。
「“ふふ、まぁいいとも。唾液にも、ほんのわずかだが同じ効果がある。好きなだけ食らうといい。”」
「いや、もうしないよ。」
魔神の言葉に、フィオニスはげんなりして答えた。
「そう言えば、魔神よ。聞きたいことがあるんだが。」
話題を変えるようにフィオニスが言う。
「“なんだい?”」
「エクトールの言っていたことなんだが‥」
「“自分がいなければ、ってやつか。”」
魔神の言葉にフィオニスは1度頷く。
「“恐らく、自らの加護の事を言っているんだろう。”」
「加護?」
フィオニスが問う。
「“あぁ、そうだとも。君にも、僕の加護があるだろう? それと同じで、勇者もそれぞれ神の加護を持っているんだ。”」
魔神の言葉に、ふむ、とフィオニスは考える。
「そういえばそうだったな。」
確かにフィオニスは転生する直前にそんな話を聞いていた。今までその加護とやらを目にした事がなかった為に忘れかけていたが。
「死なないってだけじゃないんだな?」
フィオニスが問う。
「“もちろんだとも。
シリウスは創造。ふたつの素材を組み合わせて、新しい物を生み出すことができる。フリードリヒは智見。対象物の本質を見抜く力だ。”」
固有スキルのようなものか、とフィオニスは考える。
「“そしてエクトールは促進。問題を取り除き、物事を円滑に進める力だ。”」
魔神の言葉にフィオニスは小首を傾げた。
「“つまりだ。彼の力のおかげで、キメラ化に対する問題が取り除かれ、動かせるようになるまでにその技術が発展してしまったのだ。”」
「‥なるほど。」
「“彼は自身の加護の事を正しく理解している。だからこそ、目立たぬよう暮らしていたんだが。”」
「見つかって、利用されたと。」
フィオニスが続けると、魔神は鷹揚に頷いた。
「“さらに彼の悲劇は、自分でその加護を制御出来ない所にある。たまたま加護が暴走している時に、キメラ化が成ってしまったのだろう。”」
「訓練すれば、制御できるようになるのか?」
フィオニスが問う。
「“もちろんだとも。人が制御出来ないほどの力を神は与えたりなどしない。”」
ならば、彼の自分のせいだと言う言葉も間違いではないのだろう。ただ、運が悪かったと言うだけで。
「先は長いな、魔神よ。」
そう言ってフィオニスがため息をつけば、魔神は苦く笑った。
部屋に戻ったフィオニスに、魔神が言う。
「別にシリウスやフリードリヒにも優しくした覚えはー‥」
フィオニスはそこまで言って口篭る。
するとニヤニヤしているような気配を纏った魔神が、ふわりとフィオニスの顔を覗き込むかのように回り込んだ。
「‥‥だって、彼はもう大人だろう? 」
そう返せば、魔神がふむ、と落とす。「“あぁ、26だね。”」
「前世の私より大人じゃないか。」
魔神の返答に、フィオニスはやや拗ねた口調で答えた。
シリウスは8歳。フリードリヒは14歳。
2人ともまだまだ子供だ。保護をしてあげなくてはならない。
だがエクトールは既に成人している。
確かに酷い人生を歩んできたのだろう。何度も絶望してきたのだろう。だがそれでも、勇者を名乗るのであれば全てを投げ出すような事をしてはいけない。
フィオニスはそう考えていた。
その思いをそのまま魔神に打ち明ければ、魔神は何故か満足そうに笑った。
「“なら唇を奪ったのは?”」
魔神が問う。
すると、グッとフィオニスの喉が鳴った。
逃げるように視線を流せば、楽しげな魔神がスイッと回り込む。ジッとのぞき込まれれば、観念したようにフィオニスはため息をついた。
「‥魔が差したんだ。」
「“と、いうと?”」
魔神が続ける。
「さっきも言った通り、腹が立っていた。だがエクトールが壮絶な人生を歩んできたのだろう事も何となく分かる。だがそれでも、勇者が諦めてはダメだろう?」
「“ふむ。”」
「それで、その‥意趣返しがしたくてな。
もちろん腹の中の魂が、疼いたのもあるんだが‥。」
あの時フィオニスは間近で交わる視線に、喉の渇きのようなものを覚えた。勇者の血肉は汚れた魂を浄化する。それを本能的に感じ取ったのだろう。そんな中、怒りで理性が緩んだ。その結果、フィオニスは衝動のままにエクトールの唇を奪ったのだった。
「“ふふ、まぁいいとも。唾液にも、ほんのわずかだが同じ効果がある。好きなだけ食らうといい。”」
「いや、もうしないよ。」
魔神の言葉に、フィオニスはげんなりして答えた。
「そう言えば、魔神よ。聞きたいことがあるんだが。」
話題を変えるようにフィオニスが言う。
「“なんだい?”」
「エクトールの言っていたことなんだが‥」
「“自分がいなければ、ってやつか。”」
魔神の言葉にフィオニスは1度頷く。
「“恐らく、自らの加護の事を言っているんだろう。”」
「加護?」
フィオニスが問う。
「“あぁ、そうだとも。君にも、僕の加護があるだろう? それと同じで、勇者もそれぞれ神の加護を持っているんだ。”」
魔神の言葉に、ふむ、とフィオニスは考える。
「そういえばそうだったな。」
確かにフィオニスは転生する直前にそんな話を聞いていた。今までその加護とやらを目にした事がなかった為に忘れかけていたが。
「死なないってだけじゃないんだな?」
フィオニスが問う。
「“もちろんだとも。
シリウスは創造。ふたつの素材を組み合わせて、新しい物を生み出すことができる。フリードリヒは智見。対象物の本質を見抜く力だ。”」
固有スキルのようなものか、とフィオニスは考える。
「“そしてエクトールは促進。問題を取り除き、物事を円滑に進める力だ。”」
魔神の言葉にフィオニスは小首を傾げた。
「“つまりだ。彼の力のおかげで、キメラ化に対する問題が取り除かれ、動かせるようになるまでにその技術が発展してしまったのだ。”」
「‥なるほど。」
「“彼は自身の加護の事を正しく理解している。だからこそ、目立たぬよう暮らしていたんだが。”」
「見つかって、利用されたと。」
フィオニスが続けると、魔神は鷹揚に頷いた。
「“さらに彼の悲劇は、自分でその加護を制御出来ない所にある。たまたま加護が暴走している時に、キメラ化が成ってしまったのだろう。”」
「訓練すれば、制御できるようになるのか?」
フィオニスが問う。
「“もちろんだとも。人が制御出来ないほどの力を神は与えたりなどしない。”」
ならば、彼の自分のせいだと言う言葉も間違いではないのだろう。ただ、運が悪かったと言うだけで。
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そう言ってフィオニスがため息をつけば、魔神は苦く笑った。
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