私が世界を壊す前に

seto

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エクトールは城の庭にあるガゼボで、手入れされた花々をぼんやりと眺めていた。
あれからフィオニスの接触はなく、朝昼晩と消化のいい病人食が提供される。食事を持ってきてくれる魔族には、まずは体を回復させるようにと言われてエクトールは信じられない気持ちで日々過ごしていた。

久しぶりに見た景色はどれも美しく、ここが現実なのかどうかすら疑ってしまう。まだ城から出られる程体力がないため定かではないが、城下町もあるようだ。
今のエクトールには階段を昇り降りするだけでも一苦労だが、その息苦しさだけが夢では無い事を教えてくれる。
フィオニスは現実を見ろと言った。だが。
「‥この場所こそが、まるで夢のようじゃないか。」
エクトールは思わず独り言ちる。
城の中で魔族以外の人間を見たことは無い。だが城下町の方からは、子供がはしゃぐ声が聞こえた。そんな無邪気な声を聞いたのは何十年ぶりで、エクトールはその耳を疑ったくらいだ。
聞けば、居場所を失った人間をフィオニスは拾い集めているという。街を作り、人を住まわせ、養う。まるで良き王では無いか。
エクトールは思わず苦笑がこぼれた。
「‥‥魔王の方が、より良い国を築けるなんてな。」
エクトールは亡国の王子だった。
王である父はどうしようもない人間だったが、王位を継げば国を変えていける。そんな目標を生きる糧としていた。

だがある日、王国は落ちる。
あろう事か、その国の王によって。
元々小さな国だった。国力も、そこまである方では無い。だがそれでも、山岳地帯に囲まれた自然の要塞である王国は他国からの侵攻を免れてきた。
それがある日、王族のみが知る裏の街道から帝国軍が攻め入ってきた。裏街道は古の魔具によって隠されており、王族の血筋でなければ開く事はできない。であれば、帝国に国を売ったのは1人しかいない。父だ。

問いただすために父を探したが、既に城内にその姿はなく。怒りで目の前が真っ白になったが、多くの貴族も追随していたようで、エクトールが出来ることは何も無かった。ただ国が滅んでいくのを、ただ見ている事しか出来なかったのだ。
それからだ。エクトールが加護を制御出来なくなったのは。そのせいで、奴隷として買われた先で多くの哀れな被検体を作り出してしまった。エクトールがあの場にいなければ、キメラ化など叶うはずもなかったのに。

グッとエクトールは瞼を閉じる。
フィオニスは好きに過ごしていいと言った。だが久しぶりの自由に、エクトールはその体を持て余していた。そのせいで、過去の後悔が何度もエクトールを襲う。
「何故、魔王はー‥‥」
続く言葉は音にならずに消えた。
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