44 / 60
44
しおりを挟む
不意に子供の声が聞こえた気がして、エクトールは緩慢な動きで背もたれから上体を起こす。ゆったりとした動作で辺りを見回すも、特に人影を見つける事は出来なかった。
「‥気のせいか?」
エクトールが再び背もたれへ上体を預けようとしたその瞬間、生垣から小さな影が飛び出してきた。
「‥っ!!」
腰の背丈ほどの小さな白金髪の子供が、エクトールの姿を見つけてその菫色の瞳を真ん丸に見開いた。
「待てって、シリウス。フィオニス様はそっちじゃなー‥」
ついでガサリと生垣が揺れて、見事な青髪の子供が姿を現す。パチリとエクトールと視線が合えば、その薄氷色の瞳を見開いた。
「‥もしかして、新しい勇者の人?」
青髪の子供が問う。
仕立てのいい服を着たその子供達は、一見すると何処かの貴族令息のようだ。
「君達はー‥‥っ」
口を開きかけて、エクトールは気がついた。
白金髪の子供の手の甲に、神の印が浮かんでいることに。そのエクトールの反応に、フリードリヒは彼が勇者である事を確信する。するとフリードリヒは佇まいを正して、綺麗な礼を披露した。
「初めまして。僕はフリードリヒと申します。知神ケントニウスの加護を頂いてます。」
「君も‥?」
フリードリヒの言葉に、エクトールは片眉をはね上げた。すると続くように、シリウスが頭を下げる。
「‥僕はシリウス。創神クレアシオンの勇者だ。」
「‥‥と、すまない。私はエクトール・エーレンフェルト。豊神の勇者だ。」
エクトールがそう返すと、フリードリヒが何か気づいたように口を開く。
「エーレンフェルトと言うと、もしや亡国の?」
「あぁ、よく知っているな。」
エクトールはその反応の速さに驚いた。
いくら知神の勇者と言えど、はるか山奥にある小さな国のことなど知る由もないと思っていたのに。
「君達は何故ここに?」
エクトールが問う。
「貴方と同じです。」
フリードリヒが答える。
「僕らも、フィオニス様に拾って頂いたのです。」
そう続けて、フリードリヒははにかんだ様な笑みを浮かべる。
「‥‥魔王を、慕っているのか?」
エクトールは覇気のない表情で問うた。
「はい、もちろんです。むしろ何故嫌う事が出来るでしょうか。」
まるで信者のようだな、とエクトールは思う。
「フィオニス様は、僕らを冷たい闇の底から救いあげて下さった。それだけでも、大恩を感じずにはいられないと言うのに。」
「そこに裏があるとは思わないのか?」
エクトールが問う。
「それは当然あるでしょう。ですがその理由が、人間を守るためというならば、そのお心に添いたいと願うのは当然の事です。」
フリードリヒの言葉に、エクトールは微かに眉をひそめた。
「君は、彼が何を望んでいるのか知っているのか?」
そう問えば、フリードリヒは眉尻を下げる。
「はい、恐らくですが。」
長くなると思ったフリードリヒは、エクトールの向かいの椅子に腰掛けた。静観していたシリウスも、それに続く。
「フィオニス様は、魔王として正しく終わりたいのだと思います。」
「正しく、終わる‥?」
「はい。世界が荒れた時、魔王は何処からともなく召喚されます。過去に召喚されたのは、神代と呼ばれる争いが絶えなかった時代ですかね。」
シリウスもその言葉に耳を傾ける。
「一部の説では、魔王は世界を正す為に神々によって召喚されると言います。
それに伴い、対の存在として召喚される7人の勇者。呪いのような加護を持って生まれる僕達は、世界の命運を背負って諸国より送り出されます。」
「‥本来であればな。」
エクトールの言葉にフリードリヒは苦笑した。加護を呪いと称するあたり、フリードリヒは神を信仰してはいないのだろうとエクトールは他人事のように思った。
「ですが、魔王に打ち勝つには勇者だけの力では足りない事をエクトールさんもご存知でしょう?」
「信仰の力だな。」
「はい。それが無ければ、僕らは少し特殊な力を持った人間にすぎません。なのに何故、魔王は信仰の力が溜まるまで僕らに手を出さないのでしょうか?」
かつての魔王も、勇者達への妨害はすれど直接倒しに来ることはなかったという。それが魔王の傲慢からと言えばそうなのかもしれない。だが、別の理由があるとするのならば。
「かつての魔王も、勇者に倒される為に動いていたと‥?」
「フィオニス様を見ていると、そうなのではないかと僕は思います。」
フリードリヒが長いまつ毛を伏せる。
「でもこの時代、神話は廃れ、勇者の存在も、ただ便利な道具としてしか見られない。
特に僕らはまだ子供です。あっという間に悪意に絡め取られてしまうことでしょう。」
「だから保護している、と‥?」
「はい。」
フリードリヒは真っ直ぐにエクトールの瞳を捉えてそう言い切る。その迷いのない瞳を、エクトールは眩しく感じた。だが果たして、人間にその価値があるのだろうか。その答えは恐らくフィオニスだけが知っているのだろうと、エクトールはそう思いながら、彼の美しい王に思いを馳せた。
「‥気のせいか?」
エクトールが再び背もたれへ上体を預けようとしたその瞬間、生垣から小さな影が飛び出してきた。
「‥っ!!」
腰の背丈ほどの小さな白金髪の子供が、エクトールの姿を見つけてその菫色の瞳を真ん丸に見開いた。
「待てって、シリウス。フィオニス様はそっちじゃなー‥」
ついでガサリと生垣が揺れて、見事な青髪の子供が姿を現す。パチリとエクトールと視線が合えば、その薄氷色の瞳を見開いた。
「‥もしかして、新しい勇者の人?」
青髪の子供が問う。
仕立てのいい服を着たその子供達は、一見すると何処かの貴族令息のようだ。
「君達はー‥‥っ」
口を開きかけて、エクトールは気がついた。
白金髪の子供の手の甲に、神の印が浮かんでいることに。そのエクトールの反応に、フリードリヒは彼が勇者である事を確信する。するとフリードリヒは佇まいを正して、綺麗な礼を披露した。
「初めまして。僕はフリードリヒと申します。知神ケントニウスの加護を頂いてます。」
「君も‥?」
フリードリヒの言葉に、エクトールは片眉をはね上げた。すると続くように、シリウスが頭を下げる。
「‥僕はシリウス。創神クレアシオンの勇者だ。」
「‥‥と、すまない。私はエクトール・エーレンフェルト。豊神の勇者だ。」
エクトールがそう返すと、フリードリヒが何か気づいたように口を開く。
「エーレンフェルトと言うと、もしや亡国の?」
「あぁ、よく知っているな。」
エクトールはその反応の速さに驚いた。
いくら知神の勇者と言えど、はるか山奥にある小さな国のことなど知る由もないと思っていたのに。
「君達は何故ここに?」
エクトールが問う。
「貴方と同じです。」
フリードリヒが答える。
「僕らも、フィオニス様に拾って頂いたのです。」
そう続けて、フリードリヒははにかんだ様な笑みを浮かべる。
「‥‥魔王を、慕っているのか?」
エクトールは覇気のない表情で問うた。
「はい、もちろんです。むしろ何故嫌う事が出来るでしょうか。」
まるで信者のようだな、とエクトールは思う。
「フィオニス様は、僕らを冷たい闇の底から救いあげて下さった。それだけでも、大恩を感じずにはいられないと言うのに。」
「そこに裏があるとは思わないのか?」
エクトールが問う。
「それは当然あるでしょう。ですがその理由が、人間を守るためというならば、そのお心に添いたいと願うのは当然の事です。」
フリードリヒの言葉に、エクトールは微かに眉をひそめた。
「君は、彼が何を望んでいるのか知っているのか?」
そう問えば、フリードリヒは眉尻を下げる。
「はい、恐らくですが。」
長くなると思ったフリードリヒは、エクトールの向かいの椅子に腰掛けた。静観していたシリウスも、それに続く。
「フィオニス様は、魔王として正しく終わりたいのだと思います。」
「正しく、終わる‥?」
「はい。世界が荒れた時、魔王は何処からともなく召喚されます。過去に召喚されたのは、神代と呼ばれる争いが絶えなかった時代ですかね。」
シリウスもその言葉に耳を傾ける。
「一部の説では、魔王は世界を正す為に神々によって召喚されると言います。
それに伴い、対の存在として召喚される7人の勇者。呪いのような加護を持って生まれる僕達は、世界の命運を背負って諸国より送り出されます。」
「‥本来であればな。」
エクトールの言葉にフリードリヒは苦笑した。加護を呪いと称するあたり、フリードリヒは神を信仰してはいないのだろうとエクトールは他人事のように思った。
「ですが、魔王に打ち勝つには勇者だけの力では足りない事をエクトールさんもご存知でしょう?」
「信仰の力だな。」
「はい。それが無ければ、僕らは少し特殊な力を持った人間にすぎません。なのに何故、魔王は信仰の力が溜まるまで僕らに手を出さないのでしょうか?」
かつての魔王も、勇者達への妨害はすれど直接倒しに来ることはなかったという。それが魔王の傲慢からと言えばそうなのかもしれない。だが、別の理由があるとするのならば。
「かつての魔王も、勇者に倒される為に動いていたと‥?」
「フィオニス様を見ていると、そうなのではないかと僕は思います。」
フリードリヒが長いまつ毛を伏せる。
「でもこの時代、神話は廃れ、勇者の存在も、ただ便利な道具としてしか見られない。
特に僕らはまだ子供です。あっという間に悪意に絡め取られてしまうことでしょう。」
「だから保護している、と‥?」
「はい。」
フリードリヒは真っ直ぐにエクトールの瞳を捉えてそう言い切る。その迷いのない瞳を、エクトールは眩しく感じた。だが果たして、人間にその価値があるのだろうか。その答えは恐らくフィオニスだけが知っているのだろうと、エクトールはそう思いながら、彼の美しい王に思いを馳せた。
2
あなたにおすすめの小説
穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜
春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、
癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!?
トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。
彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!?
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて――
運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない!
恋愛感情もまだわからない!
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。
個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!?
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする
愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ!
月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新)
基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。
仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!
原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!
だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。
「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」
死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?
原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に!
見どころ
・転生
・主従
・推しである原作悪役に溺愛される
・前世の経験と知識を活かす
・政治的な駆け引きとバトル要素(少し)
・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程)
・黒猫もふもふ
番外編では。
・もふもふ獣人化
・切ない裏側
・少年時代
などなど
最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる