私が世界を壊す前に

seto

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「‥フィオニス様!!」
帰城し、部屋へと戻ろうとするフィオニスをエクトールが呼び止める。その表情はどこか焦燥感を帯びていて、フィオニスは片眉をあげた。
「どうした?」
フィオニスが問う。
するとエクトールは1度逡巡してから口を開いた。
「いつも、あのような事を‥?」
要領を得ない質問に、フィオニスは軽く首を傾げる。しかしその耳が真っ赤に染まっている事に気づくと、ニヤリと笑みを広げた。
「あのような、とは?」
そう問い返すと、グッとエクトールが怯む。ジワジワとその頬まで赤く染めると、おずおずと口を開いた。
「ですから、その‥クルースニク様と‥。」
随分と初心だな、と自身を棚に上げてフィオニスは思う。フィオニス自身、そういった経験はなかったと言うのに。
「そうだな。堕落した魂あれを口にすると、ないはずの欲が湧き上がる。」
フィオニスが肯定すると、エクトールの表情が険しくなる。
「今日2つ目の魂を口にして分かった事は、奴らが私に感じた最も強い欲がこうして私に宿ると言うことだ。」
「どういうことでしょう‥?」
「奴らが私に感じたもっと強い欲は、『支配欲』。私を征服し、屈服させたいのだろう。身も、心もな。」
その言葉に、エクトールは眉間のシワを深くした。
「魂となっても私を堕としたくて仕方がないらしい。おかげで今まで知らなかった乾きを知る事が出来た訳だが。」
そう言って、フィオニスは凶悪な笑みを浮かべた。もちろんこれは皮肉だ。
腹が疼くような乾きを、フィオニスは前世を含め感じたことはなかった。猛々しい雄に貫かれる快感も。だが今は、あの時の行為を思い出すだけでズクリと下肢が疼いてしまうほどに、この体は欲を求めてしまっている。

無意識に下唇を舐めた所で、フィオニスはふと我にかえる。エクトールの頬が、真っ赤に染まっている。フィオニスの色気にあてられてしまったようだ。
フィオニスは、ほの暗い熱を宿した赤を1度瞼を落として散らす。エクトールが再び煽られてしまわぬように。
「だが、先程の行為はあくまでも応急処置に過ぎない。治めるには、お前が想像している行為をしなければならない。」
「そ、んな‥」
「だが、肌を合わせてもその熱を完全に治めることはできない。」
別の声が重なり、フィオニスはツイと視線をあげる。
「早いな、ディルムッド。」
「はっ、ただいま戻りました。」
フッとフィオニスが口元に笑みを浮かべると、ディルムッドはフィオニス前に膝を着いた。
「クルースニクから連絡を受けまして。
ご安心を。主要施設を潰し、あとは残党狩りですので。」
ディルムッドが言う。
「あぁ、ご苦労。」
そこは心配していないがな、とフィオニスは続けた。

ディルムッドはジークフリートに比べると几帳面だ。ベリサリウスほどでは無いが、それでも参謀を任せられるほどには頭がきれる。そんなディルムッドが大丈夫だと言うのだ、心配はいらないだろう。
「フィオニス様‥」
エクトールはディルムッドの言葉に、問うような視線をフィオニスへと向ける。フィオニスは体の状態について、特に口止めはしていない。ディルムッドもそれを分かった上であえて、口にしたのだろう。エクトールに聞かせるために。

ディルムッドが考えている事は分かる。勇者が一刻も早く浄化の力を取り戻せば、その分早くその熱を散らす事ができる。それは、勇者にしか出来ないことだ。だからこそディルムッドは、エクトールをけしかけようとしているのだ。
だが、フィオニスはこれ以上の言葉を与えるつもりはなかった。選ぶのはエクトールだ。無理を強いるつもりはない。
「詳しくは神にでも聞けと言っただろう? これ以上知りたければ、自分で探るといい。」
そう言ってフィオニスは僅かに眉尻を下げて笑った。そんなフィオニスの様子に、ディルムッドはグッとどこか悔しげに目尻を歪めた。
「‥‥フィオニス様。」
ディルムッドが言う。
「なんだ?」
「今宵のお相手に、わたくしが立候補させて頂いても‥?」
そう言って、ディルムッドはフィオニスを見つめる。その瞳に下心はなく、ただ純粋にフィオニスの体を案じているようだ。
そんなディルムッドに、フィオニスはどこか困ったように笑う。
「無理をする必要はないんだぞ?」
そう返せば、ディルムッドは緩く首を振った。
「わたくしが、貴方様に触れたいのです。」
そう、言わせてしまっている自覚がフィオニスにはあった。
「‥‥すまん、ずるいな私は。」
そう言ってフィオニスが自嘲すると、ディルムッドは焦ったように言い募る。
「いいえ‥!! いいえ‥!!」
おずおずとフィオニスの手を取り、その手の甲に自らの額を付ける。
「どうか言わせているだなんて思わないで下さいっ!! 私が、触れたいのです!! どうか‥っ」
そう言って、ディルムッドが泣きそうに目尻を眇める。
「どうか、自らを責めないでください‥。」
そんなディルムッドの姿に、フィオニスも思わず眉尻を下げた。そしてチラリとエクトールへと視線を投げれば、フッと困ったように笑った。
「そういうことだ、エクトール。お前はもう休むといい。」
そう言ってディルムッドの手を取り、立つように促す。ディルムッドは、そんなフィオニスの手に引かれるように立ち上がると、自然な動きでその身を寄せた。
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