私が世界を壊す前に

seto

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ガタガタンッ
部屋に入るや否や、フィオニスはディルムッドの体を壁へと押し付けて、性急にその唇を奪った。薄く、形の良いその唇に舌を這わせれば、それを汲んだディルムッドの舌がヌルりとフィオニスの舌に絡む。
「‥‥ん‥ッ‥」
ねっとりと絡む粘液に、どろりと思考が溶けた。耐え難い熱が脳髄を焼く。腹の底で交わる凶悪な魂が、早く堕ちろと体を疼かせる。

もっと、と強請るようにフィオニス自ら舌を絡ませれば、ディルムッドの口腔内へと引き込まれる。そのままグチりと舌の腹で唾液を捏ねられ、フィオニスはうっとりとその瞳を細めた。そんな熱に浮かされたフィオニスの瞳に、ディルムッドの姿は写っていなかった。
「‥‥っ!!」
その時、ディルムッドがフィオニスの舌に牙を突き立てた。そのままキツめにその牙を食い込ませれば、強い刺激にバチンとフィオニスの瞳に正気が戻る。
「フィオニス様。」
そのタイミングを見計らい、ディルムッドがフィオニスへと声をかける。
その滑らかな頬を両手で包んで、覗き込むように視線を合わせれば、キョトンとした赤がディルムッドを捉えた。
「ディルムッド‥?」
フィオニスが問うようにその名を呼べば、ホッとしたようにディルムッドが微笑んだ。
「フィオニス様。」
ディルムッドが静かに口を開く。
「フィオニス様。
貴方様にとって、私はその他大勢の魔族のうちの1人でしかありません。しかし‥。どうかこの瞬間だけは、その美しい瞳に私の姿を写しては頂けませんか?」
そう請われて、フィオニスはハッとした。
今自分は、ディルムッドをただの欲のはけ口としか見ていなかった。腹を焼く熱を鎮める道具としか見ていなかった。

その事に気付かされ、フィオニスは思わず眉尻を下げた。
「すまない、ディルムッド。私はー‥んぅ‥ッ」
謝罪の言葉は、唇ごとディルムッドに奪われた。
「そんな言葉が聞きたいのではありません。」
ディルムッドが言う。
「魔神は、可能性と仰ったのでしょう? であるならば、この先の行為は互いを想うためのものでなくてはいけません。でなければー‥」
そう言ってディルムッドは、フィオニスの下腹にひたりとその手を添える。そのままゆっくりと服の上から手のひら全体で下腹を撫であげれば、ゾワゾワと快楽が肌をかけて、ヒクリとフィオニスの喉がビクついた。
「これらの、思惑通りになってしまう。」
ディルムッドはフィオニスの耳にそう吹き込むように落とすと、そのまま外耳を軽く食む。

腹の奥の魂達は、フィオニスが欲に溺れることを望んでいる。誰彼構わず雄を咥え込み、堕落するその姿を望んでいる。
もちろんそんな事でフィオニスの身が堕ちる事はないだろうが、それでも行為が終わった後フィオニスは自身を責めるだろう。ディルムッドにはそれが耐えられなかった。
「それに、あわよくば私の欲も叶えて頂きたく‥。」
ディルムッドが、僅かに言葉を濁しながらそう続ける。
「欲‥?」
フィオニスが問う。
「‥‥は、ぃ。」
躊躇うように、グッとディルムッドの喉が鳴った。そんなディルムッドの様子に、フィオニスは柔らかく眦をすがめると、微かに震えるその唇に軽くキスを落とす。
「構わない。私が叶えられる事であるのなら。」
フィオニスが言う。
するとディルムッドはフィオニスの腰を抱き寄せ、その肩口に額を伏せた。
「‥‥この瞬間だけは、どうか‥貴方様の特別に、して頂きたく‥。」
予想外の言葉に、フィオニスはその双眸を見開く。しかし肩口に埋まるディルムッドの顔が、耳まで赤くなっているのが目に入り、思わず苦笑した。
「‥‥そんな事で良ければ。」
そう言ってフィオニスは、まるで恋人のようにディルムッドにその身を寄せた。
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