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第二章 『魔力』が無いと勝手に思い込んでいました

彼女は、自意識高い子かと思ったらそうではないように思う【アレン視点】

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「またダメか……」

 ミットライト王宮の執務室で俺はテーブルの上に置いた通信用の魔導具をじっと見ていた。

 十歳の俺が執務室に居るというのが不思議に思うだろう。それは、父上の手伝いで時々書類に目を通している。
 一段落して一息ついてると、タイミング良くアシェル帝国のオスカー皇帝からの返事が届いたばかりだった。


 ソフィア嬢を連れて行きたい場所があると伝えたら断られるのはわかっていた。でも、ここで引き下がるわけにはいかない。
 いろんな理由をつけて許可を貰おうとした。が、皇帝は首を振るばかり。

 貴族たちは俺がミットライト王国を継ぐものだと誰も疑わない。
 継ぐことには抵抗はないが、結婚はしたくない。

 かといって、女に興味が無いわけでもない。俺も年頃。恋愛をしてみたいという気持ちがあるが、誰でもいいわけじゃない。
 だけど、いざ出会ってみた女はつまらない人たちばかりだった。
 言葉や動作が決まってるかのような、お決まりの立ち振る舞いをする。

 貴族令嬢と会うのに嫌気がさしていた頃。
 父上からデメトリアス家が魔術士の娘を養女として迎えたから、その挨拶と結界を張る為に見に行かないかと誘われた。

 実際には養女として迎えられたのは最近ではないらしいが、その子が高熱を出して気持ちが不安定だったりと、バタバタしていて挨拶が今年になってしまったらしい。

 今回は大魔術士の娘らしい。その娘の魔力は膨大で、暴走を防ぐために封印されている。
 その封印魔導具があるのがデメトリアス家の庭で、デメトリアス家を離れたら封印が解かれる可能性が高いという理由で向かうことになった。

 本来なら王族が向かうのはおかしいこと。
 貴族側が王宮まで行くのが当たり前なこと。
 だけど、封印が解かれてたら国一つ滅ぼしかねないぐらいの魔力を持っている子を外に出せない。

 封印されてるとはいえ、魔力が高いなら赤子の時に死んでるはずだけど。

 なんて思ったが、それは両親が関係してるそうで自分の娘の将来のために魔力を和らげる薬を開発していた。

 ーーそして、

 ある属性が生まれ、元からある属性は奥深くに封印することに成功した。

 ただ、成功には犠牲者も居た。

 その数年後に悲劇が起こったんだ。

 彼女の両親が亡くなったあの事件。

 と、俺が知ってるのはここまでなんだが、それに深く関わっていたのがデメトリアス家の養女として迎えられた彼女。ソフィア・デメトリアス嬢だ。

 ただ、見てみようと思った。どんな子なのかを。
 この目でしっかりと見てみたいと。

 貴族の血は流れていなくても大魔術士の娘。
 しかも、珍しい属性を持ってるんだ。
 それだけで価値がある。

 実際に会ってみた彼女はとにかく変な令嬢だった。
 最初の一言が『婚約破棄をしたい』から始まるなんて聞いたことがない。

 あきらかに失言だろう。

 あの屋敷の信頼は落ちるところだろうが……。

 なにせ彼女は令嬢になって数年だということもあり、広い心も持つべきだろうと思った父上は、彼女にチャンスを与えたんだ。
 一度失った信用はなかなか元には戻せない。けど、ここからどうやって弁解していくのかが楽しみだ。

 まぁ、彼女もやってしまったとでも思ったのか、顔面蒼白。
 そしてその次の日に会ってみたら今度はずっと狼狽えていて、俺に恐怖を抱いてるようだった。
 失礼なことされたのは事実だけど、怒ってなんかいない。むしろ新鮮でとても面白い。

 失言した場所もサロンで数名に聞かれていたはず。
 あの屋敷の使用人たちは皆、理解がある人たちだったようであの時の出来事は何も知らない。何も聞いてない。見ていないと、口を揃えて言っていた。
 正直、それには驚いた。よっぽど彼女を大切にしているのだろう。
 今までの令嬢とはどこか違っていたし、それに養女だからなのかは断定出来ないけど、とても面白い子だ。

 そんな彼女に俺は、我慢できずに声を上げて笑ってしまったのは、ソフィア嬢ぐらいだ。

 彼女は自意識高い子かと思ったらそうではないように思う。

 ソフィア嬢が慕っている相手なんかいないことは、彼女の反応を見て気づいた。だけど、そんなに俺との婚約が嫌な理由を知りたいとも思った。

 彼女の言い分はかなり矛盾していたんだ。気付かない方がおかしい。
 彼女は屋敷から出ていないし、養女として迎えられる前も他の人との交流があまりない。彼女が住んでた村には同い年の子が居なかったと聞く。
 村の外れでひっそり暮らしていたはず。

 そんな彼女が恋をしているだって?

 相手を聞いたらあのヒューゴ・マキアーノだと言うではないか。どこで貴族と知り合ったというんだ?
 普通に考えてありえない。
 王族に嘘を吐くならちゃんと下調べは必要だと思うのに、自信満々に言う彼女の嘘に付き合って見るのも悪くない。

 彼は人・ではないから驚くだろうけど、彼女の反応が楽しみだ。

 楽しみなんだが、皇帝から許可がなかなか下りない。
 当然の反応なんだけど。

 彼女の魔力は封印するほど、危険なものなのか?

 俺は思う。魔力をコントロールすれば良いのでは。

 封印するほどの魔力。それなら王国の役に立つだろう。
 上手くいけばの話だが。

 まぁ、本音を言うと彼女が生きてようが死んでようが俺にはどうでもいいことなのだ。
 それに彼女と婚約すれば令嬢からのアプローチを回避する都合のいい道具になる。

 変な令嬢に恋するほど恋愛脳では無いからな。恋するなどありえないと思ったから彼女に決めた。

 形だけの婚約なら誰でも良かったけど、彼女なら恋をすることはないからな。

 それにコントロール出来ることを証明しなければ、皇帝からの許可なんて下りないだろう。

 でもどうすれば。

 考え込んでいると、音響魔導具からの音が鳴り響いた。

「なんだ!?」

 俺は驚いて立ち上がり、すぐに父上が居る応接室に向かう。
 あの音は何かがあったことを知らせる音だ。
 最強の魔導士を決める大会が近いという合図の音とも似ているが、比べてみると少し違う。

 その途中、床に眩いばかりの光と共に大きな魔法陣が現れた。
 そこに一瞬にして現れたのはノア・マーティンという男。俺は二、三回しか会ってないが、とても優男で誰からも好かれるというイメージがある。俺は好きじゃないけど。
 その瞳の奥底は氷のように冷たい。きっと過去に色々あった人だとは思う。が、俺は苦手なタイプだ。

 気付かれては面倒だと思った俺は隠れようとしたが、すぐに見つかってしまった。

「これは、アレン王太子殿下」

 ああ、さいあくだ。

「ノア殿じゃないか。そんなに急いでどうかしたのか?」
「いえ、陛下に面会をお願いしたいのですが」
「面会を? そんな予定はないはず」

 ノア殿は急いでいるようだ。だけど、面会をするには前もって言ってくれないと。
 そんなことはノア殿が一番わかってるだろうに。

「ことは一刻を争うかもしれません」

 ノア殿は嘘を言っていない。
 でも、決まりは決まりだ。守って貰わなくては困る。

「一刻を争う?」
「はい。隣国のイアン・クリスタ様が居なくなったんです。何者かに誘拐された可能性も」

 イアン・クリスタといえば、アシェル帝国の騎士団長の息子。それも天性の才に溢れていて、剣術で敵う者はいないと有名だったはず。
 誘拐されたのなら相手は相当の腕ききだろう。

「それに、クリスタ家にはデメトリアス家のノエル様もいらっしゃいます」
「ノエル殿も!?」

 ノエル・デメトリアス。一回しか会ったことはないが、とても純粋な少年だった。

 それにソフィア嬢の義弟だ。イアン殿が誘拐されたのなら、ソフィア嬢とも関係がある可能性だってある。

 ノエル殿を狙って誘拐に及んだが、間違えてイアン殿を誘拐したとも考えられる。
 イアン殿は魔術士の子供ではないし、身代金目当てならイアン殿ではなく、双子の妹、イリア嬢を誘拐するだろう。

 これは、帝国や王国としても責任が問われる問題だ。誘拐が起こった時点で大問題なのだが。


 でもおかしい。ノエル殿がクリスタ家にしばらくの間滞在していることは関係者以外知らないはず。外部の人間じゃないのなら、もしかしたら内部の人間。それもイアン殿が信頼している誰か。
 それなら納得が行く。

「わかった」

 俺は頷いた。

 どうやら、皇帝に許可を取るのは先になりそうだ。
 それに、ノア殿はソフィア嬢に魔法を教えてると聞いたことがある。

 魔力のことを聞き出せるかもしれない。

 俺はノア殿を父上が居る応接室まで案内しながら、そんなことを考えていた。

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