乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった私は、全力で死亡フラグを回避したいのに、なぜか空回りしてしまうんです(涙)

藤原 柚月

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第十四章 悪役令嬢

呪いは解けた……けど……

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「アレン様は!?」

 割れている魔法石を寂しげに見つめた後、ふと思い出したかのようにうろたえた。

「殿下はまだ眠っています。時期に目が覚めると思います」

 ノア先生は苦笑するとアレン様の方へと視線を向けて口を開いた。
 長椅子の上に白いシーツを引いてあり、その上に寝ているアレン様の姿を見て、少しだけ安心した。

「……呪いはどうなったのでしょうか」

 私は魔法石を胸の前で祈るように握ると、落ち込んだ時のような声調になっていた。
 もう使えない魔法石はひんやりとしていて温かさはどこにもなかった。

 その温かさを感じると落ち着く心地良さがあったのに今はそれが無く、とても寂しい。

「呪いは解除されたようです」

 魔法石からずっと感じていた温かさが急に感じられなくなり、顔を曇らせているとノア先生が私の頭をポンポンと優しく撫でる。

「よく頑張りましたね」
「あ……は、はい。ですが、魔法石が」
「新しいのを用意しますね。無属性にも対応出来るような魔法石を」

 私はゆっくりと頷く。

「その呪いは過去のしがらみじゃ。この世には異世界が存在し、同じ時間帯なのに選択肢によって違う未来が待っておる。過去のお主が呪いを発動し、何らかの形で過去に戻り違う選択をした。その繰り返しを悪夢として見ていたのじゃろう」

 子ドラゴンの姿のシーアさんは私の肩からノア先生の肩に移動して、座ると話し出した。

 私からしたらこの世界は異世界そのものなんだけどね。なんて、言えないけど。

「そうですか。……呪いが解けて良かった。これで悪夢を見る心配は無くなりましたよね」
「はい。ソフィア様。宜しければ魔法石預かりますよ」
「いいえ、私が持っています」

 ノア先生は私が両の手で握りしめている魔法石を見ながら聞いてきたので首を左右に振った。

「そうですか。私はこれで失礼しますね」
「え? もう行っちゃうんですか?」
「はい。元々この学園は部外者は立ち入り禁止ですし、長居をしてしまえば見つかってしまいますので」
「そうですか。……お気をつけて」

 ノア先生とシーアさんは魔法陣に包まれる形で消えていく。

 慌ただしかったけど、忙しい中、時間を作って来てくれたのかもしれない。申し訳ない。

「…………ん」

 アレン様が起きるまで花壇に植えられた彩りの花を眺めていようと思っていたら呻き声を上げ、アレン様は目を覚ました。

「あっ、お目覚めですか」
「……あれ、ノア殿は?」
「忙しいみたいでもう行ってしまいました」
「そう、か」

 アレン様はどこか寂しげな表情のまま上半身を起こし、頭を抑える。

「終わったみたいです。呪いが解けて良かったですね」
「うん、そうだね」

 会話が続かずにお互い無言になってしまった。何故か微妙に重たい空気になっている。

 王族であるアレン様よりも先に空中庭園から出るのは失礼に値するので、この重たい空気をどうするべきか必死に考えていた。

「不思議だね。呪いが解けたというのにこんなに虚しくて仕方ない」

 顔を曇らせたまま口を開くアレン様。

「……弱音を吐くなんて珍しい」

 私はつい思ってることを言ってしまった。

 ハッとして慌てて自分の口を手で塞いだ。

「俺をなんだと思ってるんだい? 人の子だよ。弱音だって吐きたくなる」
「そ、そういう意味では無いんです! ただ……常に気丈に振舞っているので……その」
「……驚いた?」
「はい、すみません」

 アレン様は長椅子に座り直すとポンポンと隣の一人分ほど空いている所を軽く叩く。

「こっちに来てくれないか?」
「??? は、はい」

 ゆっくりとアレン様の隣に座ろうとしたら腕を掴まれ、強引に引っ張られた。

「え!? わっ!!!?」

 いきなりのことでバランスを崩した私の体はすっぽりとアレン様の腕の中に収まってしまった。

 状況が読み込めなくて慌てふためいていると頭と腰に腕を回され、身動きが取れない状態となってしまった。

「……しばらく、このままでいさせてくれないか?」

 いきなりすぎて、心臓が破裂するんじゃないかと思うぐらい高鳴っていると、アレン様の震える声が聞こえてきた。

 今、抱き締められている状況だけど、決して甘くはない。

 必死に搾り上げた言葉は余裕がなかった。アレン様の顔は見えないけど、泣きそうな顔をしているのかもしれない。

 こんな時にとても不謹慎ながらも頬を赤く染め、未だに鳴り止まない胸の鼓動をアレン様に気付かれないことを願う。

 きっと、アレン様も私と同じことを思ったんだろう。

 ーー心に穴が空いたような虚しさがある。

 そんな時だからこそ、人の温もりを求めてしまう。

 この抱擁には恋愛感情は無い。それは分かってるつもりだ。

 ……それなのに、少しでも私に恋愛感情が向いていてほしいなんて、有り得ない想いを抱いてしまうなんて。

 アレン様の肩に顔を埋めながら、私は恋愛脳になりかけている考えを必死に否定していた。




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