たずねびと それぞれの人生

ニ光 美徳

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第18話

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 しばらく探していたら、何となく野内君らしき人が見当たる。皆同じ服を着て帽子を被り、マスクもしてるので同じように見えるけど、雑誌の写真で見た顔らしき人がいる。
 ずっと見ていたら、見覚えのある仕草や雰囲気に思えてきて、本人だと確信する。

 私が頼んだのはパスタランチ。
 アンティパストはサーモンとカブのマリネ。
 スープはあっさりとして、たっぷりの野菜が入った、健康的な食べるスープ。
 パスタはカニの深い旨みがブワッと口の中に広がり、後味もカニの余韻がずっと残って、いつまでも本当に美味い。
 パンは小さいけど、3種類選べるし、焼き立てで嬉しい。
 ドルチェも3種類のデザート盛り合わせ。
 そしてコーヒー。

 ブーランジェリーの方は、持ち帰りなので、人の列が絶え間なく続いて喧騒的だけど、カフェスペースは落ち着いていて、ゆったりとした時間が流れている。

 ここは、とても良い空間だ。

 すごく満足した気分でホテルに戻ったけど、よくよく考えたら、私が探していたのは“微妙な話ができる場所”だったと思い出した。
 つい、野内くんのお店で満足してしまっていた。

 野内君の店では…無理だな。

 次の日もお店探しをしたけど、結局コレといったお店に当たらなかった。
 大高さんの退院時間を確認したら、朝食が終わったらいつでもいいということなので、私が今泊まってるホテルのこのロビーで話するのが一番いいのではないかと思った。

 退院の日、病院のロビーで大高さんを待つ。しばらくしたら大高さんと光莉ちゃんの2人が来る。無事に退院となったことを喜んでから2人をホテルに案内する。
 光莉ちゃんには申し訳ないけど、ホテルのロビーの離れた場所で待ってもらうことにした。光莉ちゃんも話を聞きたいだろうけど、やっぱり2人の方がいいと判断したのだ。

 近くに人がいない場所を見つけ、それぞれ座る。

「ごめんなさいね、大高さんの大変な時に。」
「大丈夫!もうすっかり元気だから。それより、話って何かな?光莉に聞かせられない話っていうことは、光莉のことかな?
 横川さんが来て、この3日間考えてたんだけど、もしかして光莉の父親のこと?」

「そ、そうなの。単刀直入に聞くけど、私の夫の、柳井田が父親なの?
 あの、私が大高さんにお願いした日、そういうことになってたの?」

「やっぱり…。
 ごめん、今頃どうしてそういう話になったのか分からないけど、違うの。光莉の父親は、柳井田さんじゃない。
 ちゃんと話するね。
 隠してたけど私あの頃、柳井田さんが好きだったの。でもフラれたの。」

 大高さんは“あの日”のことを話してくれた。

 あの日ー

 大学4年生の初夏の頃、私のバイトのシフトが入っていた日、母ちゃんから、
「ばあちゃんが危篤やけえ、すぐ帰ってきて。」という電話が入った。

 今日は山口から柳井田(現在の夫)が来る予定にもなっている。しかも間が悪いことに、前回柳井田は合鍵を忘れて山口に帰っていた。
 柳井田はその頃はもうPHSを持っていたけど、何度かけても繋がらない。柳井田は結構PHSを持ち歩く習慣に慣れてなくて忘れることが多いから、もしかしたらまた家に置きっぱなしないのかもしれないと思った。
 メールの機能も今ほどいい物ではなく、ほとんど使っていない。
 自宅に電話をしたけど、とっくに家を出てしまってると言われた。

 待ち合わせを私のバイト先にしていたので、伝言と家の鍵を渡すのを大高さんにお願いした。
 柳井田は3年以上山口と東京を行き来し、私のバイト先にもよく来て、アルバイト仲間とも顔見知りになっていた。
 柳井田は人見知りしないタイプで、よく喋り、上手な話術で場を盛り上げていた。
 大高さんもかなりお喋りをしていた。

 大高さんになら、安心してお願いできると思っていた。

「私が記憶にある中で、2人が私抜きで会ったのはあの日だけなの。」

「うん、そう。あの日、柳井田さんがレストランに来て、横川さんの伝言を伝えたよ。
 それで、柳井田さんが店に来たのが割と遅い時間で、丁度私のバイトの上がる時間だったから、飲みに誘ったの。もちろん2人っきりじゃなくて、他のバイト仲間と4人だったかな。
 遅くなったのは、PHSだったか忘れ物をして、一度家に戻ってからまた出てきたんだって言ってた。家の人に横川さんの事情聞かなかった?って聞いたら、誰も家にいなかったから分からないって言ってた。
 で、4人で飲みに行ったら、私酔っ払ってしまって…柳井田さんに私のアパートまで送ってもらったの。
 他の2人は逆方向だからと帰ってしまって。
 柳井田さんは東京の人じゃないのにね、よく会うから私たちも慣れてると思ってたのよね。柳井田さんは優しくて断らなかったわ。
 でも送ってもらった後、やっぱり帰り道が分からないようで、ちょっと困ってた風だった。私は酔っ払ってて、逆にチャンスだと思った。今思い出しても浅ましくて恥ずかしいんだけど。
 でもね、私…好きだったの、柳井田さんのこと。初恋だったの。
 横川さんの彼氏だし、横川さんしか見てないっていうのは分かってたんだけど、気持ちが抑えられなかったの。
 で、つい、酔った勢いに任せて、押し倒してみた。もう今しかないと思って。
 …でもね、本当にやんわりと、するっと避けられちゃった。
 悲しかったんだけど、その優しさがまた私の胸掴んじゃって…正直、余計に好きになっちゃったんだ。
 なんかさー、拒絶してくれた方が、すごく傷付くだろうけど、諦められたのかも。」

「本当に何も無かったの?」

「残念だけど、誓って何も無かったよ。ごめんね、旦那さんに迫ったりなんかして。
 でも、やっぱり店で顔合わせるのは辛いしお互いに嫌だろうから、その後すぐバイト辞めたんだ。」

「じゃあ、光莉ちゃんのお父さんて誰なの?
 噂では柳井田が相手だって皆言ってたらしいけど?」

「違う人だよ、本当に。素敵だなって思う人なんだけど、“好き”っていうまでに至ってなかった人で…。でも柳井田さんに迫って振られた後、すごく寂しくて…そんな時に告白してくれた人とつい…ね。
 実はその時もちょっと酔っててねー、へへ。ダメね、お酒って。
 やっちゃった後に、その人に『付き合って』って言われたんだけど、断ったの。私、その時まだ柳井田さんへの気持ちがあり過ぎて、無理だと思ったから。
 まさか妊娠してるなんてねー。」

「妊娠が分かってから伝えたりしなかったの?」

「私、その頃超生理不順だったの。つわりもほとんど無くて、ちょっと調子悪いのは風邪だと思ってた。もともと薬嫌いだから飲まなくて良かったけど。
 で、気付いた時にはもう産むしかない時期で…。そして相手はもう何処にいるのか分からなくなってたの。」

「連絡先分からないの?」

「うん、お金無い人で、家の電話もPHSとかも持ってなくて、連絡取る時は下宿先に電話して繋いでもらうんだったんだけど、電話したらそこはもう引き払った後って言われた。
 あの時って、“個人情報”って言われ出した頃じゃない?どこへ行ったとかも全然教えてもらえなかったの。
 その人のこと知ってそうな人にも聞いてみたけど、連絡取れないって言われたの。」

「そうだったんだ…。でも、山口の人が大高さんに会いに来てくれてて、その人が相手って言う噂は?」

「あー、それね…、ごめんなさい!大学、横川さんと違うから、大学の友達には何人かにそう言ってたの。まさかその話がそんなに広がるなんて思ってなかったから。
 思いっきり、私の願望。
 …だったら良かったなーって。
 でもね、光莉の本当の父親の人も、やっぱりちょっとだけ好きな人ではあったんだよ。だからそういうことしちゃったんだ。
 時間が経ったらさ、思い出すことたくさんあるじゃない?そしたらちゃんとその人のことも好きだし、その人の子供としての光莉も大好きだし、後悔も…無かったよ。ただ、連絡ちゃんと取っておけばよかったな、っていうだけで。」
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