たずねびと それぞれの人生

ニ光 美徳

文字の大きさ
24 / 41

第24話

しおりを挟む
 夜になった頃、大高さんが起きてきた。家に着いた頃よりは幾分顔色が良くなって見える。
 大高さんは、食卓に並べておいた私が作った料理を見て、パッと嬉しそうな顔をする。
「うわー美味しそう!お腹空いた!」
 大高さんの随分明るくなった様子にホッとした。
「大高さん、体調はどう?食欲出た?」
「うん、心配かけてごめんなさい。ちょっと寝たらスッキリした。これ横川さんが作ってくれたんだよね?ありがとう!」
「大した物ではないから、お恥ずかしいくらいなんだけど、体に優しい料理を心がけてみました。
 じゃあ、食べようか?」

 冷めた料理を温め直し、2人で食べ始める。

「美味しい!なんか、昔お母さんが作ってくれたような…懐かしい感じ…。ああ、私達、お母さんになってるね。そういう年齢なんだよね。」
「そうだね、もう結構歳をとってしまってるよね。普段は全然若いまんまのつもりなんだけどさ、ふとした時に気付くよね。」

「横川さん、いろいろご迷惑をお掛けしてしまって、本当に申し訳ありませんでした。でも、会いに来てくれてすごく嬉しかった。それから、横川さんにも帰らなきゃいけない家庭があるのに、引き留めて変な事に巻き込んでしまってごめんなさい。」

「ううん、私もね、こんな展開になるなんて思ってもなくて…。今回、いろんな懐かしい人にも会えて、なんか…すごく刺激的だった。
 後は、野内君がね…。」

「私ね、野内君にカミングアウトした後すぐは、かなり後悔の気持ちが強かったんだけど、家に着いて寝たらスッキリして、なんか“野内君に会えて良かった”、“言えて良かった”っていう気持ちだけで、後悔なんて少しも無くなったの。
 この先、野内君がどう言うか、…もしかしたら連絡も無いかもしれないけど、どんな結果になったとしても私は大丈夫!
 だから、横川さんは安心して山口のお家か、お子さんの所に帰ってください!本当にありがとう!」

「うん、大高さんの今の感じなら、安心して帰れる。また進展あったら教えてね!」

 私達は今後の幸せを願い、お茶で乾杯した。

***

 次の日、大高さんが作ってくれた朝食を食べて、一息ついたら大高さんのアパートを後にした。
 大高さんはすっかり元気になり、職場へ挨拶に行ってすぐにでも復帰すると言っていた。
 
 私は娘の所には寄らず、すぐに山口へ帰ることにする。問題がスッキリ解決した後は、すぐにでも夫に会いたい。電車を乗り継いで新幹線に乗り込むが、新幹線ですらまるで路線バスか街中を走る車のようなとてもスロースピードに感じる。心だけが急いで山口の自宅へ飛んで行く。

 駅に着いたらまずは駐車場のお金を払いにいく。友達の駐車場は月極めなので精算機は無い。看板に書いてある番号に駅の公衆電話から電話して、友達の家に直接寄ってお金を払う。
 友達はいろいろ聞いてきたけど、それよりも早く夫に会いたいと思ったので、また今度と話すと言い、丁寧にお礼を言って友達の家を後にする。

 なんやかんやと、やっとのことで家に着いたけど、やっぱり夫はいなかった。

 仕事か。

 今日は平日なのでしょうがない。

 リビングに入ってびっくりする。ビールの空き缶やお酒の瓶がそこら中に転がり、コンビニの弁当やお惣菜の容器も食べた後のまま散乱してる。お酒の匂いやら食べ物の匂いやら、色んな匂いが混ざっていて臭い。
 洋服は脱ぎっぱなしで洗濯物も溜まっている。

 ーこの人は、私がいないとこんな生活になるのか…。

 正直、ちょっと嬉しかった。

「もう、しょうがないな!」

 私はそう呟いて、片付け始めるが、顔は自然と笑顔になる。買い物をして精一杯手の込んだ料理を作る。
 楽しい!
 今日は何にしよう?といつも悩んでるメニュー選びも、今日は逆だ。あれもこれもと欲張って、たくさん作り過ぎてしまった。

 でも、夜が更けても全然帰ってこない。待ってる時間がとても長い。
 22時を過ぎたくらいで車の音がして、帰ってきたかな?と思ってたら、車のドアを思いっきり閉めたような音と玄関の鍵をガチャガチャと急いで開ける風な音が聞こえてくる。ドタドタとすごくうるさい足音が聞こえてきてリビングのドアをバタンと開ける。

 久しぶりの夫の顔。
 無精髭が生えて、ゲッソリやつれたように見える。
 そしてびっくりした表情で私を見てフリーズしてる。てっきり抱きついてくるのかと思ったら、かなり戸惑っている様子。
 私が「おかえり。」と言うと、「あ、ああ、ただいま。」と答えてスッとソファに腰を下ろした。

 夫のあっさりした感じに、私はもっとドラマチックな再会を想像していたので、かなり拍子抜けでガッカリする。
 私が思わずフゥと小さく溜息をつくと、夫は
「帰ってきよったんだよね?」と聞いてきた。
「長い間、留守にしていてごめんなさい。帰ってきたよ…帰ってきても良かったんだよね?
 今日は随分遅かったんだね。仕事、大変なの?料理作ってずっと待ってたよ。」と言うと、
「帰って来ていいに決まっちょる!当たり前やろ!今までどこ行っちょったんか⁉︎ぶち心配したけぇ!なんやそんな標準語なんか使うてから!また東京かぶれか?やっぱり東京におったんか⁉︎」

「何よその言い方!せっかく帰ってきたのに、また喧嘩売っちょるん⁉︎」

「喧嘩売りよったんはそっちじゃ!電話しても繋がらん。子ども達の連絡も無視してから!で、しれっと帰って来よって!」

「ならもう帰ってこんけぇね!」
 売り言葉に買い言葉。

 『帰って来てくれてありがとう!会いたかったよ!』ってぎゅっと抱きしめてくれるような、感動の再会を想像してたのに、まさかこんな風に怒られるなんて!帰って来るんじゃなかったと、怒り心頭に発する。

 私は怒りに任せて、また出て行こうとバックを掴んでドアへ向かう。
 その瞬間、強く腕を掴まれ、グッと引っ張られ、ぎゅっと強く抱きしめられた。
 は⁉︎今さら何よ!と思って、その手を振り解いて逃げようとしたけど、全く動けないくらいにホールドされてしまっている。
 しばらくその状態でいると、怒りが少しずつ収まっていく。そして気付くと、夫が小さく震えていた。

 …もしかして、泣いてる?まさか⁉︎

 その瞬間、私の怒りはスッと消え、代わりに幸福感が身体中を駆け巡る。うわーっていうくらいの幸せな気持ちに、つい笑ってしまいそうになるけど、『今はダメ、今はダメ!』とグッと堪える。夫が泣いてるのを笑ってると誤解されたくなかったからだ。

 ふと夫の腕の力が抜け、目にいっぱい涙を溜めた顔を私の顔に近付ける。私は笑いを堪えた微妙な表情を見られてしまい、ヤバい…と思ったけど、夫が逆に吹き出して大笑いされた。

「もう、勘弁してや。」
ついに夫が折れた。

 そしてその後は久しぶりに濃密な夫婦の時間を過ごし、ちゃんと仲直りした。

 ちなみに、どこかに落としたと思ってた携帯は、ボストンバックの底の方から出てきた。
 …ああ、ホテルを出る時、荷物を確認して他の小物類と一緒にこっちに入れてしまってたんだ。充電も切れてるから鳴らしても分からなかったんだ。

 私にはあるあるだけど、流石に自分にムカついた。でも大高さんがちゃんとカミングアウトできるように、お節介できる時間ができたから、良かったことにしようと思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

✿ 私は夫のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい 

設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀ 結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。 結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。 それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて しなかった。 呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。 それなのに、私と別れたくないなんて信じられない 世迷言を言ってくる夫。 だめだめ、信用できないからね~。 さようなら。 *******.✿..✿.******* ◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才   会社員 ◇ 日比野ひまり 32才 ◇ 石田唯    29才          滉星の同僚 ◇新堂冬也    25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社) 2025.4.11 完結 25649字 

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

処理中です...