28 / 41
田原の語り
第28話
しおりを挟む
そんな所へ千夏がやってくる。
歌蘭が生徒になってから、千夏が家出をしてウチに来るまで、殆ど近況報告はしていなかったので、歌蘭の事を話そうかと思ったけど、なんとなくできなかった。
千夏が結構いっぱいいっぱいな感じだったので、余計な話はしない方がいいと判断したのだ。
千夏が大高さんの娘さんと会ったと言って、その話をしてくれた。
その時も話そうかと思ったけど、ただの悪口になっちゃいそうなので、やっぱり出来なかった。
千夏が[まいうい]と会えることになったと言った日、私も別の人から、「歌蘭と連絡が取れて、会えることになった。でも、この日以外は無理みたいだ。」と言われ、私も歌蘭と会う約束をしていた。
実は、歌蘭は芸能事務所を退所したけど、その出資先の会社に転職していたので、居場所は何となく知っていたけど、千夏に頼まれて問い合わせした時、「ちょっと前から連絡が取れなくなってる」と言われていたのだ。
知り合いにチラッと聞いた話では、歌蘭が転職先の会社から逃げて雲隠れをしているらしかった。
歌蘭が所属していた芸能事務所は、少し名が知れた会社と提携していたので、信用して受け入れていたのだけど、通ってくる女の子達に関わっているうちに、雰囲気が悪いというか何となく違和感を抱くようになった。
アイドルグループは結構バチバチしてる世界だって言うし、そういうものかなとは思ったけど。
女の子達も、私には聞こえないように「大丈夫なのかなー?なんか怪しくない?」みたいな話をしていたこともあった。
何か嫌な感じがした時、その時点でウチの請負った仕事も断れば良かったのだ…。
何度後悔したことか…。
でも、歌蘭に会いに行くのは、その為ではない。
私の娘の睦菜が北陸に行ってしばらくした頃から、北陸の名所らしき所でダンスをしてる動画をサイトにアップするようになる。
始めは私に送ってくるだけだったけど、元旦那がすごく良い動画が撮れたからと、サイトにアップしたのがきっかけだった。
歌蘭のアイドルグループを見て嫌になったけど、本当は睦菜はアイドルになりたかったのだ。一時期はもう諦めていたけど、北陸の自然、暑さや寒さ、都会とは違う穏やかで厳しい感覚や、色んな物を肌で感じたら、勝手に体が動き出したそうだ。
動画は割と好評みたいで、サイトを立ち上げると注目動画として目にすることもあるくらいになる。
私も睦菜の元気な姿を見られて嬉しいし、好意的なコメントが付くと鼻が高くなる。ただ1人、少し前から敵意のあるコメントを載せてくる人がいた。それが歌蘭だった。名前はもちろん違わせているけど、私には分かった。
歌蘭は睦菜とは面識があり、睦菜にとって歌蘭は憧れの対象だったくらいだし、何度も話させてもらっていたので知らない筈はない。
睦菜だと分かった上で攻撃してきてるのだ。最近段々エスカレートしてきているし。
旦那の事はもういい…。でも、睦菜に何かするのは許せない!
本人に会って、直接訳を聞こうと思った。そして、ダメなものはダメでいいけど、関係ない悪意のコメントは控えてほしいと頼むつもりだった。
待ち合わせの場所へ行って、歌蘭を待つけど現れない。
ああ、すっぽかされたのだと思った。
千夏と同じ公園の、少し離れた場所での待ち合わせだったので、千夏の方へは来てるのか、気になって探した。
でも、千夏もいない。
しばらくして、私に連絡をくれた人から電話がかかる。
「歌蘭ラちゃんらしき人が、階段から落ちたのか、階段の下で倒れてて、救急車で運ばれた。」
と言ってきた。
他の知らない人が介助してて付き添いもしてくれたらしく、私に連絡くれた人も帰るというので、私もそのまま帰ることにした。
私が家に帰ってから1時間くらい経ってから千夏も帰って来た。
随分具合が悪そうなので心配で、薬を飲ませてしばらく様子を見ていたけど、そのうち薬が効いたのか眠ってくれた。かなり辛そうではあったけど、どうやら酷い風邪だったみたいだ。
千夏の風邪が治った頃に、警察が訪ねてきた。でも事実確認程度のもので、大した話ではなかった。
私の方は全く眼中に無かったのでホッとした。
その後は、歌蘭の容態が回復しない限り、私には何もできる事が無いので、ただの日常に戻る。
歌蘭の方も、意識が回復して落ち着かない限り、他人の動画なんてコメントする余裕も無いだろう。
睦菜が配信する動画を確認すると、やっぱりあの悪意のコメントは書かれていない。私はホッとする。
こうなると、私は何もしなくて良かったと思った。
なのに、千夏が家を出て、大高さんに会いに行ってからしばらくして、私の所へ刑事さんがやって来た。
歌蘭が目を覚まして、「田原さんと会う約束をしていた。待ち合わせの場所へ向かう途中誰かに突き落とされた。私は田原さんに恨まれてるから…分からないけど…。」と、匂わせ発言をしたそうだ。
そのせいで、詳しく話をするために私は任意同行を求められる。
正直、すごく面倒なことに巻き込まれたと思い、歌蘭にコンタクトを取ったことを後悔した。
歌蘭が生徒になってから、千夏が家出をしてウチに来るまで、殆ど近況報告はしていなかったので、歌蘭の事を話そうかと思ったけど、なんとなくできなかった。
千夏が結構いっぱいいっぱいな感じだったので、余計な話はしない方がいいと判断したのだ。
千夏が大高さんの娘さんと会ったと言って、その話をしてくれた。
その時も話そうかと思ったけど、ただの悪口になっちゃいそうなので、やっぱり出来なかった。
千夏が[まいうい]と会えることになったと言った日、私も別の人から、「歌蘭と連絡が取れて、会えることになった。でも、この日以外は無理みたいだ。」と言われ、私も歌蘭と会う約束をしていた。
実は、歌蘭は芸能事務所を退所したけど、その出資先の会社に転職していたので、居場所は何となく知っていたけど、千夏に頼まれて問い合わせした時、「ちょっと前から連絡が取れなくなってる」と言われていたのだ。
知り合いにチラッと聞いた話では、歌蘭が転職先の会社から逃げて雲隠れをしているらしかった。
歌蘭が所属していた芸能事務所は、少し名が知れた会社と提携していたので、信用して受け入れていたのだけど、通ってくる女の子達に関わっているうちに、雰囲気が悪いというか何となく違和感を抱くようになった。
アイドルグループは結構バチバチしてる世界だって言うし、そういうものかなとは思ったけど。
女の子達も、私には聞こえないように「大丈夫なのかなー?なんか怪しくない?」みたいな話をしていたこともあった。
何か嫌な感じがした時、その時点でウチの請負った仕事も断れば良かったのだ…。
何度後悔したことか…。
でも、歌蘭に会いに行くのは、その為ではない。
私の娘の睦菜が北陸に行ってしばらくした頃から、北陸の名所らしき所でダンスをしてる動画をサイトにアップするようになる。
始めは私に送ってくるだけだったけど、元旦那がすごく良い動画が撮れたからと、サイトにアップしたのがきっかけだった。
歌蘭のアイドルグループを見て嫌になったけど、本当は睦菜はアイドルになりたかったのだ。一時期はもう諦めていたけど、北陸の自然、暑さや寒さ、都会とは違う穏やかで厳しい感覚や、色んな物を肌で感じたら、勝手に体が動き出したそうだ。
動画は割と好評みたいで、サイトを立ち上げると注目動画として目にすることもあるくらいになる。
私も睦菜の元気な姿を見られて嬉しいし、好意的なコメントが付くと鼻が高くなる。ただ1人、少し前から敵意のあるコメントを載せてくる人がいた。それが歌蘭だった。名前はもちろん違わせているけど、私には分かった。
歌蘭は睦菜とは面識があり、睦菜にとって歌蘭は憧れの対象だったくらいだし、何度も話させてもらっていたので知らない筈はない。
睦菜だと分かった上で攻撃してきてるのだ。最近段々エスカレートしてきているし。
旦那の事はもういい…。でも、睦菜に何かするのは許せない!
本人に会って、直接訳を聞こうと思った。そして、ダメなものはダメでいいけど、関係ない悪意のコメントは控えてほしいと頼むつもりだった。
待ち合わせの場所へ行って、歌蘭を待つけど現れない。
ああ、すっぽかされたのだと思った。
千夏と同じ公園の、少し離れた場所での待ち合わせだったので、千夏の方へは来てるのか、気になって探した。
でも、千夏もいない。
しばらくして、私に連絡をくれた人から電話がかかる。
「歌蘭ラちゃんらしき人が、階段から落ちたのか、階段の下で倒れてて、救急車で運ばれた。」
と言ってきた。
他の知らない人が介助してて付き添いもしてくれたらしく、私に連絡くれた人も帰るというので、私もそのまま帰ることにした。
私が家に帰ってから1時間くらい経ってから千夏も帰って来た。
随分具合が悪そうなので心配で、薬を飲ませてしばらく様子を見ていたけど、そのうち薬が効いたのか眠ってくれた。かなり辛そうではあったけど、どうやら酷い風邪だったみたいだ。
千夏の風邪が治った頃に、警察が訪ねてきた。でも事実確認程度のもので、大した話ではなかった。
私の方は全く眼中に無かったのでホッとした。
その後は、歌蘭の容態が回復しない限り、私には何もできる事が無いので、ただの日常に戻る。
歌蘭の方も、意識が回復して落ち着かない限り、他人の動画なんてコメントする余裕も無いだろう。
睦菜が配信する動画を確認すると、やっぱりあの悪意のコメントは書かれていない。私はホッとする。
こうなると、私は何もしなくて良かったと思った。
なのに、千夏が家を出て、大高さんに会いに行ってからしばらくして、私の所へ刑事さんがやって来た。
歌蘭が目を覚まして、「田原さんと会う約束をしていた。待ち合わせの場所へ向かう途中誰かに突き落とされた。私は田原さんに恨まれてるから…分からないけど…。」と、匂わせ発言をしたそうだ。
そのせいで、詳しく話をするために私は任意同行を求められる。
正直、すごく面倒なことに巻き込まれたと思い、歌蘭にコンタクトを取ったことを後悔した。
0
あなたにおすすめの小説
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
✿ 私は彼のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい
設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀
結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。
結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。
それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて
しなかった。
呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。
それなのに、私と別れたくないなんて信じられない
世迷言を言ってくる夫。
だめだめ、信用できないからね~。
さようなら。
*******.✿..✿.*******
◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才 会社員
◇ 日比野ひまり 32才
◇ 石田唯 29才 滉星の同僚
◇新堂冬也 25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社)
2025.4.11 完結 25649字
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる