29 / 41
中森の記事で
第29話
しおりを挟む
麻智のアパートへ郵便が届いた。差出人はフリーライターの中森だ。
中身は『エレットリク』という雑誌で、スクープ記事が載っている。
『大手会社の闇 芸能事務所とグルか⁈
詐欺部の活動』
というものだ。
内容はー
**
『最近急成長した会社がある。元々は小さな会社からスタートして堅実に業績を伸ばし大きく成長していたが、創設者の社長が体調不良のため代替わりとなる。
新しい社長が色々な分野へ手を伸ばし、そこからさらに会社は大きくなっていった。その色々な分野の中に、芸能事務所との提携もある。
だが、手を広げ過ぎたことと、時代の波に乗り切れず、会社の業績が悪化する。そして近年、倒産間近と噂されていたのだが、その頃からある部署で詐欺活動が行われるようになってきたのだ。
後に詐欺を行う部署は“創生部”と呼ばれた。
会社の名前は我啼株式会社。
創生部はまず、提携してる芸能事務所のアイドルグループの売り出し活動を始める。
CDの大量購入特典で、“推しとデートできる券”獲得挑戦券というものを作った。
見事当選して、“推しとデートできる券”を使うと、指定されたデートコースで推しメンバーとデートができる。指定されたコースは全部、我啼会社の関連で、食事をしたり好みの服装のコーディネートをしたり、ファンの方に思う存分お金を使ってもらう仕掛けになっている。そしてその様子は1週間ネットで配信され、優越感を味わえる。
断っておくが、これは詐欺ではない。CDを購入する人は納得して買っているし、ちゃんとデートも実行されている。
CDは売れるし、ファンも“やってあげたい”欲求を満たせるし、我啼会社関連の売り上げも上がる。ネットに上げると宣伝にもなる。
ネット配信のため、動画を撮影する第三者が必ず同行するので、アイドルが危険な目に合うことも防げる。というものだ。
しかし、それは全くと言っていいほど上手くいかなかった。
人気と売り上げが1番の人に次のセンターを任せるというルールが、グループの雰囲気を悪くし、ファン同士も敵対する者が出てきたり、ストーカーになる者も作った。何より、グループの人気がイマイチだった。
始まりは健全な方の戦略だったが、そのうちにデートクラブのようになり、裏では体を使ってファンを獲得する者まで現れてくる始末だ。
グループ内はさらに雰囲気が悪くなり、トラブルが発生して、狙われた1人が脱退することになる。
それがMだ。
創生部の仕事はアイドルグループの活動だけではなかったが、どれも上手くいっていなかった。
責任を追求され、酷く叱責された社員Kが次に思いついたのが詐欺だった。
Kは部署の一部精鋭メンバーと、アイドルグループを脱退したMに目を付けた。Mには“上手くいけば新しいグループで再デビューさせる”という甘い話で仲間に誘い入れた。
Kは投資セミナーを山口・九州で開催する。Kは表には顔を出さず、セミナーに関する事は全て部下に任せていた。しかし影では、セミナーに参加した投資初心者の中でターゲットを見つけると、Mに“貴方だけ特別です”と声をかけさせ、個別面談という形で未公開株への投資を誘う。
Kは投資家に偽名を使い、セミナー講師の会社の住所を載せた名刺を渡している。
ターゲットには未公開株に多額の投資をさせ、その後その会社を倒産させるという手口を使った。
未公開株として紹介するのは架空の会社であり、もちろん詐欺である。
そして騙し取ったお金は、K個人の投資で利益を出し、利益分を我啼会社の売上として計上した。
そのうち詐欺という噂が流れ始めると、セミナー開催にあたり講師を依頼したファイナンシャルアドバイザーに全ての責任を被せ、Kは我関せずとした。
Kは元々は証券会社に勤めていた過去はある。さらにセミナーで得た知識も加わってなのか、騙した金を元に投資を行い、それが莫大な利益を産んで我啼会社は急成長を遂げた。
会社が莫大な利益を得た後に、セミナー主催者であった会社からの補償金として、騙した方への元金は返済している。
我啼株式会社が、詐欺行為を行っているという噂が流れないように、被害者救済という形の口止めをしたのだ。
しかし何故、Kは株の投資で莫大な利益を上げることができたのだろうかー?
また、詐欺に加担した元アイドルMは、階段から落ちるという事故(?)に会い、現在入院中である。
(取材担当:中森)』
**
この記事を読み終えたところで電話がかかってきた。
中森からだー
「柳井田さん、お久しぶりです。私が書いた記事が載ってる雑誌をお送りしたんですが、届いていますか?」
「はい、今ちょうど読ませていただいたところです。でも、なぜこの雑誌を私に?」
「うん、取材協力をしていただいた方に送ったんだ。もちろん貴女のお父さんにもね。」
「中森さんは、この事件について調べてたんですね。すごい…単なる元アイドルの突き落としだけかと思っていたら、こんな詐欺だなんて。しかも、私でも聞いたことのある、あの会社だなんて。」
「そうだね。ところで彼は戻ってきたのかな?」
「いいえ、それがまだ…連絡も取れてないです。」
「そっかー残念。でも、それは心配だね。」
「はい、すみません…。」
「いや、柳井田さんが謝ることではないので。」
そう言って中森との会話は終了した。
*
しばらくしてピンポーンと家のチャイムが鳴る。玄関のドアを開けるとそこに三牙がバツの悪そうな顔をして立っていた。
「お、おかえり…。」
「た、ただいま…。」
何となくギクシャクとした感じで、麻智は三牙を部屋の中へ招き入れた。
部屋に入って三牙は『エレットリク』の雑誌が目に止まりハッとする。
「何でこの雑誌?読んだ…よね?」
「うん、三牙ももう読んだの?」
「うん。」
「ていうか、今までどこで何してたの?」
「警察行って、事情聞かれて…上京して来た母親と会ってた。」
「そうなんだ…。私、聞いてもいい?」
「もちろん。その為に来た。」
三牙は私が淹れたコーヒーを飲みながら、お父さんの事を話してくれた。
三牙の話はほぼ雑誌に書いてある通りだった。でも、三牙の話はそれで終わった。
私が知りたいのはまた別の話、中森が聞きたがっている“女詐欺師”のことだ。
中身は『エレットリク』という雑誌で、スクープ記事が載っている。
『大手会社の闇 芸能事務所とグルか⁈
詐欺部の活動』
というものだ。
内容はー
**
『最近急成長した会社がある。元々は小さな会社からスタートして堅実に業績を伸ばし大きく成長していたが、創設者の社長が体調不良のため代替わりとなる。
新しい社長が色々な分野へ手を伸ばし、そこからさらに会社は大きくなっていった。その色々な分野の中に、芸能事務所との提携もある。
だが、手を広げ過ぎたことと、時代の波に乗り切れず、会社の業績が悪化する。そして近年、倒産間近と噂されていたのだが、その頃からある部署で詐欺活動が行われるようになってきたのだ。
後に詐欺を行う部署は“創生部”と呼ばれた。
会社の名前は我啼株式会社。
創生部はまず、提携してる芸能事務所のアイドルグループの売り出し活動を始める。
CDの大量購入特典で、“推しとデートできる券”獲得挑戦券というものを作った。
見事当選して、“推しとデートできる券”を使うと、指定されたデートコースで推しメンバーとデートができる。指定されたコースは全部、我啼会社の関連で、食事をしたり好みの服装のコーディネートをしたり、ファンの方に思う存分お金を使ってもらう仕掛けになっている。そしてその様子は1週間ネットで配信され、優越感を味わえる。
断っておくが、これは詐欺ではない。CDを購入する人は納得して買っているし、ちゃんとデートも実行されている。
CDは売れるし、ファンも“やってあげたい”欲求を満たせるし、我啼会社関連の売り上げも上がる。ネットに上げると宣伝にもなる。
ネット配信のため、動画を撮影する第三者が必ず同行するので、アイドルが危険な目に合うことも防げる。というものだ。
しかし、それは全くと言っていいほど上手くいかなかった。
人気と売り上げが1番の人に次のセンターを任せるというルールが、グループの雰囲気を悪くし、ファン同士も敵対する者が出てきたり、ストーカーになる者も作った。何より、グループの人気がイマイチだった。
始まりは健全な方の戦略だったが、そのうちにデートクラブのようになり、裏では体を使ってファンを獲得する者まで現れてくる始末だ。
グループ内はさらに雰囲気が悪くなり、トラブルが発生して、狙われた1人が脱退することになる。
それがMだ。
創生部の仕事はアイドルグループの活動だけではなかったが、どれも上手くいっていなかった。
責任を追求され、酷く叱責された社員Kが次に思いついたのが詐欺だった。
Kは部署の一部精鋭メンバーと、アイドルグループを脱退したMに目を付けた。Mには“上手くいけば新しいグループで再デビューさせる”という甘い話で仲間に誘い入れた。
Kは投資セミナーを山口・九州で開催する。Kは表には顔を出さず、セミナーに関する事は全て部下に任せていた。しかし影では、セミナーに参加した投資初心者の中でターゲットを見つけると、Mに“貴方だけ特別です”と声をかけさせ、個別面談という形で未公開株への投資を誘う。
Kは投資家に偽名を使い、セミナー講師の会社の住所を載せた名刺を渡している。
ターゲットには未公開株に多額の投資をさせ、その後その会社を倒産させるという手口を使った。
未公開株として紹介するのは架空の会社であり、もちろん詐欺である。
そして騙し取ったお金は、K個人の投資で利益を出し、利益分を我啼会社の売上として計上した。
そのうち詐欺という噂が流れ始めると、セミナー開催にあたり講師を依頼したファイナンシャルアドバイザーに全ての責任を被せ、Kは我関せずとした。
Kは元々は証券会社に勤めていた過去はある。さらにセミナーで得た知識も加わってなのか、騙した金を元に投資を行い、それが莫大な利益を産んで我啼会社は急成長を遂げた。
会社が莫大な利益を得た後に、セミナー主催者であった会社からの補償金として、騙した方への元金は返済している。
我啼株式会社が、詐欺行為を行っているという噂が流れないように、被害者救済という形の口止めをしたのだ。
しかし何故、Kは株の投資で莫大な利益を上げることができたのだろうかー?
また、詐欺に加担した元アイドルMは、階段から落ちるという事故(?)に会い、現在入院中である。
(取材担当:中森)』
**
この記事を読み終えたところで電話がかかってきた。
中森からだー
「柳井田さん、お久しぶりです。私が書いた記事が載ってる雑誌をお送りしたんですが、届いていますか?」
「はい、今ちょうど読ませていただいたところです。でも、なぜこの雑誌を私に?」
「うん、取材協力をしていただいた方に送ったんだ。もちろん貴女のお父さんにもね。」
「中森さんは、この事件について調べてたんですね。すごい…単なる元アイドルの突き落としだけかと思っていたら、こんな詐欺だなんて。しかも、私でも聞いたことのある、あの会社だなんて。」
「そうだね。ところで彼は戻ってきたのかな?」
「いいえ、それがまだ…連絡も取れてないです。」
「そっかー残念。でも、それは心配だね。」
「はい、すみません…。」
「いや、柳井田さんが謝ることではないので。」
そう言って中森との会話は終了した。
*
しばらくしてピンポーンと家のチャイムが鳴る。玄関のドアを開けるとそこに三牙がバツの悪そうな顔をして立っていた。
「お、おかえり…。」
「た、ただいま…。」
何となくギクシャクとした感じで、麻智は三牙を部屋の中へ招き入れた。
部屋に入って三牙は『エレットリク』の雑誌が目に止まりハッとする。
「何でこの雑誌?読んだ…よね?」
「うん、三牙ももう読んだの?」
「うん。」
「ていうか、今までどこで何してたの?」
「警察行って、事情聞かれて…上京して来た母親と会ってた。」
「そうなんだ…。私、聞いてもいい?」
「もちろん。その為に来た。」
三牙は私が淹れたコーヒーを飲みながら、お父さんの事を話してくれた。
三牙の話はほぼ雑誌に書いてある通りだった。でも、三牙の話はそれで終わった。
私が知りたいのはまた別の話、中森が聞きたがっている“女詐欺師”のことだ。
0
あなたにおすすめの小説
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
✿ 私は彼のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい
設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀
結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。
結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。
それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて
しなかった。
呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。
それなのに、私と別れたくないなんて信じられない
世迷言を言ってくる夫。
だめだめ、信用できないからね~。
さようなら。
*******.✿..✿.*******
◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才 会社員
◇ 日比野ひまり 32才
◇ 石田唯 29才 滉星の同僚
◇新堂冬也 25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社)
2025.4.11 完結 25649字
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる