日当たりの良い借家には、花の精が憑いていました⁉︎

山碕田鶴

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第4章 大暑

25.草刈り(一)

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 本格的に夏が来た。一雨毎に雑草が増え、ここ数日は見ている間にも草が伸びる勢いだ。僕はどうしたものかと、家賃支払いの際に大家さんに相談した。  

「他の借主さんからもね、この時期そういうお話をいただくんですよ。良かったら、うちの草刈機をお貸ししますよ。河西さん使ったことある?」

 家賃手渡しの月一訪問は、大家さんの借家管理術に違いない。情報把握だけでなく、実は人物査定もしているのではないか。
 大家さんは、エンジン草刈機を持ってうちにやって来た。誠も一緒について来た。

「ゴーグル着けましたかね?  動かす時は体の右側に持つ感じで。じゃあ、まずはこの紐を引っ張るんですが……」
「おおっ!」

 勢いよくスターターの紐を引くと、エンジン音が響いた。
 これは楽しい。
 僕は大家さんに草刈機の使い方を教わりながら、雑草を次々と刈っていった。玄関や勝手口前のひび割れたコンクリートからはみ出す草が一気に散ると、気分がすっきりした。
 花や草の精が見えなくて良かったとつくづく思う。
 誠は、縁側に座って僕と大家さんのやりとりを眺めていた。

「ありがとうございました。助かりました。なんか楽しかったです」
「こちらこそ、きれいにしておいてもらえると助かりますよ。いつでもお貸ししますから」

 草刈機を大家さん宅の前まで運んでお辞儀をすると、頭を上げる前にポンポンと肩を叩かれた。

「河西さん、マコと仲良くしてくれてありがとう。これからもどうか頼みます」

 はい、と返事をした。けれども僕はすぐに頭を上げられなかった。
 誠の婆ちゃんにも同じようなことを言われた。その時はわからなかったけれど、今なら大家さんたちの言葉がただの挨拶ではないことがわかる。
 僕は、言葉に込められた思いを勝手に想像して辛くなって、大家さんの顔が見られなかった。
 家に戻ると、縁側に座る誠とその横に立つキクが楽しそうに何か話していた。そこだけキラキラしていて、ボロ借家に似つかわしくない、映画のような光景だ。
 僕は疲れてクタクタなのに……。そんな感想しか出ない僕は、非現実的な日常にすっかり慣れてしまっているのだろう。
 よく見ると楽しそうなのはキクだけで、誠の方は無表情だ。それどころかキクを見向きもせず淡々と話している。   
 それがなぜか腹立たしかった。
 そういえば、誠はキクにいつも素っ気ない。むしろ冷たい。ひどいではないか。

「一郎、お疲れ。冷たい飲み物あるぞ」
「ありがとう。僕が頑張っている時に、なにイチャイチャしているんだよ」
「あ?  なに怒っているんだよ。お前もキクとイチャイチャすれば?」

 誠は僕が疲れて不機嫌になっていると思ったのか、全く相手にしない。

「……違うよ。嫌味で言ったの!」
「仲間外れで寂しかったのか?  お前の話しかしていないぞ。そのうち爺ちゃんから自治会の除草活動に誘われるだろうなって」
「僕は、マコちゃんがイチャイチャしないから怒っているの。もっとキクちゃんに優しくしてあげればいいのに。マコちゃんがキクちゃんに笑いかけているの、見たことがない」
「は?  お前が笑えば?」
「……」

 キクは僕たちの会話を聞いているのかいないのか、草刈りの終わった庭にふわりと出て行ってしまった。キクが誠の塩対応を気にしていないのなら、僕が口出しするのも変だろう。
 はあっと気の抜けたため息が出た。
 誠から冷えたペットボトルを奪い取って、隣に座る。誠は笑いをこらえながら僕を見ていた。





 
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