日当たりの良い借家には、花の精が憑いていました⁉︎

山碕田鶴

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第2章 小満

13.草取り(二)

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「マコちゃんお疲れ。って、それ僕に差し入れじゃないの?」

 先に縁側で休んでいた誠は、持って来たペットボトルで頭を冷やしていた。

「お疲れ。冷え過ぎの水は体に良くないんだよ。ほら、丁度いいだろ」

 誠から水を渡されて、一気に飲んだ。

「……丁度いいよ」
「だろ?」

 誠の顔色が良くなっていることに安心する。具合が悪く見えたのは気のせいだったのか。

「マコちゃんって、見た目じゃなくて雰囲気が不健康なんだよなあ」
「あ?」
「あ、ごめん。思ったこと言っちゃった」

 なんだよそれ。そう言って笑う誠の銀色の髪がふわふわ揺れていた。

「マコちゃんの綿毛、きれいでかっこいいよね」
「お前はやるなよ。婆ちゃんたちが悲しむ」
「わかっているよ。どうせ似合わない」
「お前はそのまんまでいいんだよ。タンポポは一人でいい」

 ふと、同じ顔の四兄弟の姿が目に浮かんだ。この縁側で、僕も座って五人並んで庭を眺めた。シュールな光景だったよな。
 あえて思い出さないようにしてきたのに、触れずにいたのに、急に寂しさが溢れ出した。

「さっき花壇の土を盛ってポンポンってしたらさ、なんだかフリージアたちの肩を叩いている気分になった」
「そうか」
「花の精は消えたけれど、本体は残っていた。それって、フリージアたちはまだ存在しているってこと?  ただの花に戻ったっていうこと?  全然わからないや」
「お前に見えていた四兄弟が消えた。それが全てだろ。ただ存在して、ただ消える。それだけだ」

 誠はキクと同じことを言った。

「そういうの、達観しているっていうの?  僕には無理だな。人の形のフリージアたちと本体って別の存在なのかなとか、見えないだけでまだちゃんといるのかなとか、ずっと考えちゃうよ」
「いくらでも考えろ。……この姿の俺も、タンポポだからそのうち消える」
「え?」

 誠はまた真顔で言うから、僕は嘘だと思いながらもモヤモヤした気持ちになる。冗談なら軽口でつきあえばいいだけなのに、何かが引っかかってそれができない。

「マコちゃんもさ、自分はただ存在してただ消えると思っているの?  僕、いきなり消えることになったら、あれもこれも心残りがあり過ぎて成仏できなさそうだよ」
「お前はちゃんと人間だからな」
「またそういうことを言う……。とにかく、マコちゃんがあっさり消えたら絶対寂しい。四兄弟がいなくなって、僕は寂しかった。ずっと怖かったのに。でも、消えたら寂しかったんだよ。薄くなっているのを見ただけで不安で、消えていくのも不安で、ただ縁側にいるだけの存在だったのに、寂しくなっちゃったんだよ」

 声に出したら、なんだかすっきりした。ずっとモヤモヤしていた落ち着かない気持ちが、寂しいせいだったのかと納得できた。
 誠は僕がひとりで騒いでいるのを黙って見ていた。何を考えているのかわからない微かな笑顔が、キクによく似ていると思った。
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