日当たりの良い借家には、花の精が憑いていました⁉︎

山碕田鶴

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第5章 霜降

35.顛末(二)

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「ねえマコちゃん、キクちゃんはどうなったんだろう。本体である菊が枯れたということは、キクちゃんも消えてしまったのかな……」
「枯れたのは地上部だけだ。根は生きている。根元に新芽も出ている。ほら、少し緑色の部分があるだろう?  菊は強いんだ。きっと来年は花が咲く。うちの方の菊も同じ状態だった」
「じゃあキクちゃんは?  マコちゃんが入院した後、キクちゃんを見なくなったんだ。僕に見えなくなっただけ?  ひょっとして、ずっとマコちゃんの家の方にいるとか?」
「いや、うちにもいない。……ああ、そうだ。これ、お前のだろ」

 誠は御守り袋を僕の目の前に突き出して見せた。婆ちゃんに頼んで誠の荷物に忍ばせてもらったものだ。
 誠が袋を開けて逆さにすると、枯れてバラバラになった菊の葉が地面に落ちていった。

「なんだよ、これ。どうしてキクを俺のところによこしたんだよ。キクにはここで花を咲かせ続けることしか望んでいなかったのに……」

 静かな口調で淡々と誠は言った。だが、明らかに僕を責めている。ぞっとするほどの怒りの感情が、僕に向かう手前で隠されているのがわかった。

「マコちゃん……」
「いや、何でもない」

 そう言ってため息をついた誠は、御守りの袋を閉じると、僕の手を取ってそっと手のひらに乗せた。

「返すよ。お前の大事な御守りなんだろう?  『無病息災』なんていつも持ち歩いているのか?」
「いつも身につけていたわけじゃないんだけどね。それ、受験の時期に親から渡されたんだよ」
「『学業成就』じゃなくて?」
「そう思うでしょ。普通そっちでしょ?  『学業成就』のつもりで親が間違えたんだよね。ま、元気に合格できたから間違いでもなかったかなって。マコちゃんが入院した時だって役に立って……」

 また誠の顔が曇った。
 僕は、誠が望まないことをしたのだ。

「マコちゃん、ごめん。キクちゃんを会わせてはいけなかったんだね」
「お前はどうせキクに頼まれただけだろう」
「キクちゃんは、マコちゃんに会いたがっていた。どうしてもっていう感じだった。病院でキクちゃんと何があったの?  キクちゃんはどうなっちゃったの?」

 誠はしばらく黙って僕を見つめていた。

「キクは、消えた」

 そう言うと、また黙ってしまった。
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