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1878ー1913 吉澤識
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宮田とはその後、同い年のよしみという程で一度だけ食事に誘った。
第二部の指令がある以上、私は宮田の完全な協力者だ。彼が望む情報は全て提供する用意があった。
吉澤組が単独で武官を宴席に誘う。本来ならば政商の巣窟たる商業会が看過するはずもないが、私と宮田の組み合わせは例外だった。
吉澤識は宴席で商談をしない。
それが私の定評だ。ややこしい決め事があれば必ず弟の経が出てくるから、皆私とは気楽につきあった。そうして散々楽しく遊ばせてもらっておいて、後から道楽息子はけしからんと渋い顔で酷評する。
おかげで私は、自由気ままに人と会えた。
宮田はいかにも堅物の役人風だ。どうせ吉澤がただ遊びたいだけな上に、間違っても宮田は吉澤に籠絡されることはなかろうという商業会の老人たちの見立てがあったに違いない。これで宮田が多少でも遊びを覚えたら、今度は自分たちで囲い込むつもりなのだろう。
公使館の役人は接待と癒着に慣れきっていた。なおも自分たちは遊び足りないらしく、宮田について問題が起きない限り見過してやると恩着せがましく通告してきた。だから自分たちにも宴席を用意しろという催促だ。
そんなものはいくらでも用意してやる。お前たちが私を庇護してやると偉そうに言うのも許してやる。この大陸で私を好き勝手させてくれるなら安いものだ。
宮田との接触は一度きりと考えていたが、いつからか二人は個人的にも親しい友人とみなされるようになっていた。
大陸各地にたびたび出かける宮田は、出立前にその都度律儀に向かう先の情報を私に聞きに来た。
二人で会えば、相変わらず私がそそのかしたことになる。誘うのは宮田でも、店に連れて行くのは私なので否定のしようがない。
宮田が職務に乗じて遊びに目覚め、酒色に溺れるようなことは決してなかった。本当に呆れるほど真面目に、私の話を聞くために会いたいと言うのだ。
「こうして吉澤さんに現地の治安などを聞いておくと、気持ちに余裕が生まれます。自分は気が小さいので、いつも助けられます」
気の小さい人間が、よくも山奥の集落などへ一人で行けるものだ。現地人でさえ、別の部族の村へ行くのを嫌がるというのに。
私が怪訝そうに宮田を見ても、ただ笑い返してくるばかりである。
「吉澤さんに会って話ができると、何やら安心できます。貴方にお会いできて良かった」
私も、ただ笑い返すしかなかった。
本当にただの友人であれば、何の違和感もなく談笑できただろうか。
常にどこかで宮田を探る自分が嫌になるほど、宮田はまっすぐ私を見ていた。
第二部の指令がある以上、私は宮田の完全な協力者だ。彼が望む情報は全て提供する用意があった。
吉澤組が単独で武官を宴席に誘う。本来ならば政商の巣窟たる商業会が看過するはずもないが、私と宮田の組み合わせは例外だった。
吉澤識は宴席で商談をしない。
それが私の定評だ。ややこしい決め事があれば必ず弟の経が出てくるから、皆私とは気楽につきあった。そうして散々楽しく遊ばせてもらっておいて、後から道楽息子はけしからんと渋い顔で酷評する。
おかげで私は、自由気ままに人と会えた。
宮田はいかにも堅物の役人風だ。どうせ吉澤がただ遊びたいだけな上に、間違っても宮田は吉澤に籠絡されることはなかろうという商業会の老人たちの見立てがあったに違いない。これで宮田が多少でも遊びを覚えたら、今度は自分たちで囲い込むつもりなのだろう。
公使館の役人は接待と癒着に慣れきっていた。なおも自分たちは遊び足りないらしく、宮田について問題が起きない限り見過してやると恩着せがましく通告してきた。だから自分たちにも宴席を用意しろという催促だ。
そんなものはいくらでも用意してやる。お前たちが私を庇護してやると偉そうに言うのも許してやる。この大陸で私を好き勝手させてくれるなら安いものだ。
宮田との接触は一度きりと考えていたが、いつからか二人は個人的にも親しい友人とみなされるようになっていた。
大陸各地にたびたび出かける宮田は、出立前にその都度律儀に向かう先の情報を私に聞きに来た。
二人で会えば、相変わらず私がそそのかしたことになる。誘うのは宮田でも、店に連れて行くのは私なので否定のしようがない。
宮田が職務に乗じて遊びに目覚め、酒色に溺れるようなことは決してなかった。本当に呆れるほど真面目に、私の話を聞くために会いたいと言うのだ。
「こうして吉澤さんに現地の治安などを聞いておくと、気持ちに余裕が生まれます。自分は気が小さいので、いつも助けられます」
気の小さい人間が、よくも山奥の集落などへ一人で行けるものだ。現地人でさえ、別の部族の村へ行くのを嫌がるというのに。
私が怪訝そうに宮田を見ても、ただ笑い返してくるばかりである。
「吉澤さんに会って話ができると、何やら安心できます。貴方にお会いできて良かった」
私も、ただ笑い返すしかなかった。
本当にただの友人であれば、何の違和感もなく談笑できただろうか。
常にどこかで宮田を探る自分が嫌になるほど、宮田はまっすぐ私を見ていた。
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