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1974ー2039 大村修一
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私はこれまでの人生を相馬に語って聞かせた。機密を扱っていた吉澤識の諜報活動は既に時効だろう。
どのように死に、どうやって他人の身体に入り、どう死神と関わったのか。
隠すことは何もなかった。どう捉えるかは相馬次第である。
寝る前に絵本を読み聞かされる子供のように、相馬は私の横でじっと話を聞いていた。盗聴マイクを布ずれの音で妨害しながら、一言も聞き漏らすまいとしていた。
私が深呼吸とともに長い話を終えると、相馬も深い溜息をついた。
「教授って本当に凄い人だったんですね。いやあ、第二部かあ。吉澤財閥、諏訪の製糸、長野飛行場……しかも、『學天則』がリアル世代ですか。戦争に行って、高度経済成長期を経験して……」
「相馬君は私の話をあっさり信じるのかい?」
「あっさりじゃありませんよ? 僕の知る歴史と照合して、話に矛盾はありません。僕、大学生の頃に歴史クイズ研究会っていうサークルに入っていたんですよ。ただの雑学で何の役にも立たないと思っていたけれど、いやあ、こんなところで使えるとは思わなかったな。それに、教授が虚偽発言する理由がないでしょう。僕をわざわざ騙して楽しませてくれるほど僕は教授に愛されていませんよ」
「君は騙されたいのか?」
「はい。もう、とことん翻弄されたい。恋のかけ引きなんてしたことはありませんが、虚実混じって素顔を見せない相手の本性を暴くのって興奮しませんか?」
「興奮したことがあるのか?」
「今しています」
相馬は屈託なく笑った。
「君は若いな……」
無意識に口をついた自分の言葉に、つい寂しさを感じた。
この肉体が私を弱気にさせている。私を死に導こうとするのは死神だけではないのだ。
私には、未来がない。
「教授……そんな寂しそうな顔しないで下さい。僕、桶専じゃないんですよ?」
「オケセン?」
「あ……」
相馬はイタズラが発覚したような顔をした。
「すみません、失言。桶専っていうのはね、棺桶に片足突っ込んでいるような老人がタイプってことですよ」
「では、死神はオケセンか」
「教授の死神は、ただのストーカーでしょう。僕は……そいつに会ってみたいなあ」
私はまだイオンの先を見たい。だが時間がない。そうはっきりと感じる。
大村の寿命は近い。今度こそ私は終わりなのか。
相馬が私を見ていた。
お前はそれほどに私が好きか?
くだらないことを考えて、また死神を思い出す。
私の全てを欲するような鋭く強い視線。
あの死神の視線に私は満たされてきた。恐怖が感覚を研ぎ澄ます。これ以上ないほどに生きていることを実感させられる恍惚……。
「教授……教授の本当の名前を教えて下さいよ」
「本当の名前? 最初に生まれた時の名か?」
「うーん、そうですね。あなたはずっと一人で続いているから、そうなりますよね……」
相馬が言葉を濁す。ああ、訊きたいのはそういう意味ではないのか。
「死神に嫉妬か? 死神は私をシキと呼んでいるな」
「シキ……」
なぜそんな泣きそうな顔をするのだ。なぜそんなふうに笑う?
相馬は何かを決意したような真剣な眼差しで、黙って私に向き合っていた。
お前も私の寿命が近いことを感じたか。
どのように死に、どうやって他人の身体に入り、どう死神と関わったのか。
隠すことは何もなかった。どう捉えるかは相馬次第である。
寝る前に絵本を読み聞かされる子供のように、相馬は私の横でじっと話を聞いていた。盗聴マイクを布ずれの音で妨害しながら、一言も聞き漏らすまいとしていた。
私が深呼吸とともに長い話を終えると、相馬も深い溜息をついた。
「教授って本当に凄い人だったんですね。いやあ、第二部かあ。吉澤財閥、諏訪の製糸、長野飛行場……しかも、『學天則』がリアル世代ですか。戦争に行って、高度経済成長期を経験して……」
「相馬君は私の話をあっさり信じるのかい?」
「あっさりじゃありませんよ? 僕の知る歴史と照合して、話に矛盾はありません。僕、大学生の頃に歴史クイズ研究会っていうサークルに入っていたんですよ。ただの雑学で何の役にも立たないと思っていたけれど、いやあ、こんなところで使えるとは思わなかったな。それに、教授が虚偽発言する理由がないでしょう。僕をわざわざ騙して楽しませてくれるほど僕は教授に愛されていませんよ」
「君は騙されたいのか?」
「はい。もう、とことん翻弄されたい。恋のかけ引きなんてしたことはありませんが、虚実混じって素顔を見せない相手の本性を暴くのって興奮しませんか?」
「興奮したことがあるのか?」
「今しています」
相馬は屈託なく笑った。
「君は若いな……」
無意識に口をついた自分の言葉に、つい寂しさを感じた。
この肉体が私を弱気にさせている。私を死に導こうとするのは死神だけではないのだ。
私には、未来がない。
「教授……そんな寂しそうな顔しないで下さい。僕、桶専じゃないんですよ?」
「オケセン?」
「あ……」
相馬はイタズラが発覚したような顔をした。
「すみません、失言。桶専っていうのはね、棺桶に片足突っ込んでいるような老人がタイプってことですよ」
「では、死神はオケセンか」
「教授の死神は、ただのストーカーでしょう。僕は……そいつに会ってみたいなあ」
私はまだイオンの先を見たい。だが時間がない。そうはっきりと感じる。
大村の寿命は近い。今度こそ私は終わりなのか。
相馬が私を見ていた。
お前はそれほどに私が好きか?
くだらないことを考えて、また死神を思い出す。
私の全てを欲するような鋭く強い視線。
あの死神の視線に私は満たされてきた。恐怖が感覚を研ぎ澄ます。これ以上ないほどに生きていることを実感させられる恍惚……。
「教授……教授の本当の名前を教えて下さいよ」
「本当の名前? 最初に生まれた時の名か?」
「うーん、そうですね。あなたはずっと一人で続いているから、そうなりますよね……」
相馬が言葉を濁す。ああ、訊きたいのはそういう意味ではないのか。
「死神に嫉妬か? 死神は私をシキと呼んでいるな」
「シキ……」
なぜそんな泣きそうな顔をするのだ。なぜそんなふうに笑う?
相馬は何かを決意したような真剣な眼差しで、黙って私に向き合っていた。
お前も私の寿命が近いことを感じたか。
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