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1974ー2039 大村修一
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シキ……
私を呼ぶ懐かしい声が聞こえる。
シキ……シキ……
なんだ、やっと来たのか? ずいぶんと久しいな。私はすっかりお前のことなど忘れていたぞ。ずっと忘れていた。
いったいどれだけの月日が流れたと思っている?
私のことはとうの昔に忘れ去ってくれたものだと思っていたが、違ったのか?
その声も、その光も、恐怖も痛みも恍惚も。私の身体に染みついたお前の全ては何もかも消え落ち、私にはお前の記憶を呼びさますわずかなカケラも残っていないぞ。
今ここに現れたお前は幻ではないのか?
やっと、やっと……。
「そんなに待ち焦がれたか? それほど俺に会いたかったか?」
目の前で揺れる黒い影に、私は無意識にうなずいていた。
「お前を深く満たしてやれるのは俺だけだからな」
黒い影が私を包む。
これは夢だ。私の意識の中だ。
闇の奥で光り輝く強いエネルギーに手を伸ばし、そのまま倒れ込むようにしてしがみついた。
生きていることを実感させる強い痛みと快感が、魂を焼いていく。
「シキ、次こそ終いだな。いい加減この世に満足したろう?」
私はまだ生きている。死神がそれを私に教えるのだ。
溢れる涙は生への執着でも死への恐怖でもなかった。今こうして死神の発する強いエネルギーで満たされていく喜びが、私の心を揺さぶっていた。
死神に癒される私は、既に地獄の住人なのか。
「俺はお前のすぐ近くにいるぞ。俺はいつでもお前を見ている」
死神の闇は私を包み続けている。だが、わずかに押し戻すような力が働き、私は光から離された。
「近づき過ぎだ。焼けて傷つくだろう?」
なだめるような声が私の内に染みていく。全てを肯定されているような安らぎが広がる。
なぜそれほどに私を尊ぶ?
お前は死神なのだろう?
そのエネルギーで私を満たし、魂が輝きを取り戻したところで狩ろうというのか?
闇に意識が溶けるほどの恍惚。
満ちる。溢れる。
お前の与える慈悲で溺れていくのがわかる。
息が……できない……。
満足そうに笑みを浮かべる気配があった。
私は望んでいた。絡めとられていく……。
再び光に手を伸ばしたところで強烈な痛みに弾かれた。
「あ……」
私はこれを恐怖と呼んできたはずだ。
これは拒絶だ。
私の内の熱が波のように引いていった。
思い出せ。忘れるな。この痛みで私は正気を保ってきたのだろう?
いま一度手を伸ばし、躊躇なく焼けるような痛みを求めた。
意識が現実へ戻るのは一瞬だった。
はっと目を覚まして、死神の嘲笑を聞いた気がしたことに気づく。
俺はいつでもお前を見ている。
いったいどこから……。
私の横で猫のように丸くなって寝ていた相馬は、既にいなかった。
私は重い体を引きずるようにして、朝の支度を始めた。
私を呼ぶ懐かしい声が聞こえる。
シキ……シキ……
なんだ、やっと来たのか? ずいぶんと久しいな。私はすっかりお前のことなど忘れていたぞ。ずっと忘れていた。
いったいどれだけの月日が流れたと思っている?
私のことはとうの昔に忘れ去ってくれたものだと思っていたが、違ったのか?
その声も、その光も、恐怖も痛みも恍惚も。私の身体に染みついたお前の全ては何もかも消え落ち、私にはお前の記憶を呼びさますわずかなカケラも残っていないぞ。
今ここに現れたお前は幻ではないのか?
やっと、やっと……。
「そんなに待ち焦がれたか? それほど俺に会いたかったか?」
目の前で揺れる黒い影に、私は無意識にうなずいていた。
「お前を深く満たしてやれるのは俺だけだからな」
黒い影が私を包む。
これは夢だ。私の意識の中だ。
闇の奥で光り輝く強いエネルギーに手を伸ばし、そのまま倒れ込むようにしてしがみついた。
生きていることを実感させる強い痛みと快感が、魂を焼いていく。
「シキ、次こそ終いだな。いい加減この世に満足したろう?」
私はまだ生きている。死神がそれを私に教えるのだ。
溢れる涙は生への執着でも死への恐怖でもなかった。今こうして死神の発する強いエネルギーで満たされていく喜びが、私の心を揺さぶっていた。
死神に癒される私は、既に地獄の住人なのか。
「俺はお前のすぐ近くにいるぞ。俺はいつでもお前を見ている」
死神の闇は私を包み続けている。だが、わずかに押し戻すような力が働き、私は光から離された。
「近づき過ぎだ。焼けて傷つくだろう?」
なだめるような声が私の内に染みていく。全てを肯定されているような安らぎが広がる。
なぜそれほどに私を尊ぶ?
お前は死神なのだろう?
そのエネルギーで私を満たし、魂が輝きを取り戻したところで狩ろうというのか?
闇に意識が溶けるほどの恍惚。
満ちる。溢れる。
お前の与える慈悲で溺れていくのがわかる。
息が……できない……。
満足そうに笑みを浮かべる気配があった。
私は望んでいた。絡めとられていく……。
再び光に手を伸ばしたところで強烈な痛みに弾かれた。
「あ……」
私はこれを恐怖と呼んできたはずだ。
これは拒絶だ。
私の内の熱が波のように引いていった。
思い出せ。忘れるな。この痛みで私は正気を保ってきたのだろう?
いま一度手を伸ばし、躊躇なく焼けるような痛みを求めた。
意識が現実へ戻るのは一瞬だった。
はっと目を覚まして、死神の嘲笑を聞いた気がしたことに気づく。
俺はいつでもお前を見ている。
いったいどこから……。
私の横で猫のように丸くなって寝ていた相馬は、既にいなかった。
私は重い体を引きずるようにして、朝の支度を始めた。
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