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2043ー2057 高瀬邦彦
86-(4/5)
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「計画は既に進められている。順調だ。あなたが知らないだけだ」
高瀬に見せられたゲームセンターのリアルアバターを思った。
アンドロイドに繋がり、アンドロイドを通して見る世界は実体験だ。リアルアバターから得られる感覚は現実とほぼ等しいという。
身体能力が高く、転んでも苦痛はなく、年を取らない完全な肉体。
オーダーメイドで個人所有できる日は近い。
理想の姿。擬似的永遠の生。
現実が滲む。
自分という輪郭が曖昧になる。
リアルアバターに入った人間は、新しい人生を手に入れた錯覚に陥るのではないか。
作り出される不安定な精神状態。それこそが依存と中毒を生んでいく。
これ以上、裏部門がどう手を加えるというのだ。
高瀬の手が伸びてきて髪を掴む。私は強引に引き寄せられた。
「シキ。あなたが魂を他人の肉体に移す感覚はどんなふうだ? 奪った肉体に繋がり馴染んでいく感触はどんなふうだ?」
身体を這う指が傷痕を探してまわる。
逃れようとしても、身体ごと押さえ込まれて身動きが取れない。
「魂が肉体に囚われていく感覚を再現できたならば、リアルアバターは本当に自分の肉体になるのではないか? あなたのように魂を移せなくても、あなたと同じ感覚を知ればアバターがよりリアルに自分の肉体だと錯覚できるようになるかもしれないな」
ぞっとするほど昏く陰湿な目で私を覗き込む高瀬は、 裏部門の渉外担当として常に前線に立ち続けてきた男だ。
意識の空間の隅にある鉄壁の倉庫には、誰にも褒められることのない山ほどの手柄が屑ゴミとして放り込まれているのだと悟った。
決して明かしてはならない工作の数々。評価されないことが成功の証。
私がかつて知った世界に限りなく近いところに、この男も生きている。
「リアルアバターは、あえてヘッドギアで接続をするようになっている。手間がかかる分、虚実の境界ゲートとして機能するからだ。だが、不便だろう? 今はBCI(Brain-Computer Interface)の脳チップを埋め込んで常時アバターと接続する方法がある。初期訓練に多少時間がかかるし得手不得手に個人差はあるが、慣れればアバターを使っていることすら忘れるぞ。国外仕様の標準装備だ」
「高瀬……」
私を押さえつける手に力がこもり、傷痕を圧迫する。
ジジ……ジー……
高瀬に埋められたチップの機械音がかすかに鈍く響いている。
「高瀬……本気なのか? 魂を移した時の感覚……自分のものではない肉体と繋がるリアルな感触……。そんなものをアバターで再現したら、本来の自分が本当に……わからなくなるぞ」
「だから、やるのだろう?」
冷たい目が私を見下ろす。
「あなたはゲームセンターで見ただろう? アバターのアンドロイドは、イオンのように見た目が完全に人間だ。リアルアバターなら理想の肉体が手に入るのだ。その肉体からリアルな感覚も伝わるとなれば、この一体感から人間は抜け出せると思うか? その肉体を自分が支配し自分のものにする感触、満足感はクセになるのではないか?」
リアルアバターの使用者は、私と違って自身の肉体を持ったままだ。現実と地続きのリアルな夢の世界をテーマパークのように遊び、夢と地続きの現実に戻って本来の肉体の中で目を覚ました時、彼らは何を思うのか。
魂が溶けていく。
世界が崩れていく。
人間の決壊。
お前はそれをやろうとしているのだ。
お前は、それを私にやらせようとしている。
高瀬が私を見ている。私の決断を待っている。
私に拒否権はないというのに、協力の同意を取ろうというのか?
お前は律儀で、残酷な男だ。
高瀬に見せられたゲームセンターのリアルアバターを思った。
アンドロイドに繋がり、アンドロイドを通して見る世界は実体験だ。リアルアバターから得られる感覚は現実とほぼ等しいという。
身体能力が高く、転んでも苦痛はなく、年を取らない完全な肉体。
オーダーメイドで個人所有できる日は近い。
理想の姿。擬似的永遠の生。
現実が滲む。
自分という輪郭が曖昧になる。
リアルアバターに入った人間は、新しい人生を手に入れた錯覚に陥るのではないか。
作り出される不安定な精神状態。それこそが依存と中毒を生んでいく。
これ以上、裏部門がどう手を加えるというのだ。
高瀬の手が伸びてきて髪を掴む。私は強引に引き寄せられた。
「シキ。あなたが魂を他人の肉体に移す感覚はどんなふうだ? 奪った肉体に繋がり馴染んでいく感触はどんなふうだ?」
身体を這う指が傷痕を探してまわる。
逃れようとしても、身体ごと押さえ込まれて身動きが取れない。
「魂が肉体に囚われていく感覚を再現できたならば、リアルアバターは本当に自分の肉体になるのではないか? あなたのように魂を移せなくても、あなたと同じ感覚を知ればアバターがよりリアルに自分の肉体だと錯覚できるようになるかもしれないな」
ぞっとするほど昏く陰湿な目で私を覗き込む高瀬は、 裏部門の渉外担当として常に前線に立ち続けてきた男だ。
意識の空間の隅にある鉄壁の倉庫には、誰にも褒められることのない山ほどの手柄が屑ゴミとして放り込まれているのだと悟った。
決して明かしてはならない工作の数々。評価されないことが成功の証。
私がかつて知った世界に限りなく近いところに、この男も生きている。
「リアルアバターは、あえてヘッドギアで接続をするようになっている。手間がかかる分、虚実の境界ゲートとして機能するからだ。だが、不便だろう? 今はBCI(Brain-Computer Interface)の脳チップを埋め込んで常時アバターと接続する方法がある。初期訓練に多少時間がかかるし得手不得手に個人差はあるが、慣れればアバターを使っていることすら忘れるぞ。国外仕様の標準装備だ」
「高瀬……」
私を押さえつける手に力がこもり、傷痕を圧迫する。
ジジ……ジー……
高瀬に埋められたチップの機械音がかすかに鈍く響いている。
「高瀬……本気なのか? 魂を移した時の感覚……自分のものではない肉体と繋がるリアルな感触……。そんなものをアバターで再現したら、本来の自分が本当に……わからなくなるぞ」
「だから、やるのだろう?」
冷たい目が私を見下ろす。
「あなたはゲームセンターで見ただろう? アバターのアンドロイドは、イオンのように見た目が完全に人間だ。リアルアバターなら理想の肉体が手に入るのだ。その肉体からリアルな感覚も伝わるとなれば、この一体感から人間は抜け出せると思うか? その肉体を自分が支配し自分のものにする感触、満足感はクセになるのではないか?」
リアルアバターの使用者は、私と違って自身の肉体を持ったままだ。現実と地続きのリアルな夢の世界をテーマパークのように遊び、夢と地続きの現実に戻って本来の肉体の中で目を覚ました時、彼らは何を思うのか。
魂が溶けていく。
世界が崩れていく。
人間の決壊。
お前はそれをやろうとしているのだ。
お前は、それを私にやらせようとしている。
高瀬が私を見ている。私の決断を待っている。
私に拒否権はないというのに、協力の同意を取ろうというのか?
お前は律儀で、残酷な男だ。
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