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第二話
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男は僕のことを見つけると、硬直した。男は僕を凝視した。それからこちらへ数歩ほど歩いてきた。僕はその歩数だけ下がった。男は立ち止まった。
「こんなところで何をしているの?」
「さ、魚とりです」
「魚!へえ!」
男は興味を持った風だった。男の視線が僕の顔からそれて、下の方に向いた。
「その魚、ゆずってくれないかな?とても……欲しいんだけど」
「あ、あげます」
魚は上げます。だからその代わりに命は取らないで。僕は心の底からそう願っていた。
「その魚をこちらへもってきてくれよ」
そういわれても、僕は男に近づいて行く気になれなかった。僕がしり込みしていると、男はこちらへ近づいてきた。
「こ、ここに置いておくから――」
僕はバケツを置こうとした。その時、男が走り出した。僕に向かって。僕は男に向かってバケツを放り投げた。
「さかなあ!」
男はバケツに向かって飛びついた。バケツからこぼれる水にもお構いなしに。僕はバケツを放り投げたと同時に逃げ出した。
あの木々に囲まれたところへ戻り、階段を駆け上がる。階段を駆け上がった後、僕は後ろを振り向いた。すると奥の方から男が駆け上がってくるのが見えた。僕はまた駆けだした。
看板を通り過ぎて歩道に出た。するとすぐに近所の禿げ頭のおじさんに出会った。
「おじさん助けてぇ!」
おじさんははじめ、僕に視線を向けて、それから後ろに視線を向けた。僕はそれに気づいて、後ろを振り返った。後ろからは、あの男がやってきていた。
「おじさん、あいつが僕を襲うんだ!」
「下がってな!」
おじさんが僕の目の前に立ちはだかる。男がおじさんにとびかかった。かと思うと、おじさんは男の腕をつかんだ。男を抱え込むようにしたかと思えば、男の体は宙をくるりと回って、たたきつけられていた。おじさんが一本背負いを男にかけたのだとわかったときには、男は見事に地面に倒れ伏していた。
倒れた男の上から禿げ頭のおじさんは覆いかぶさり、手をねじりあげ、地面に組み伏せた。
「坊や、誰か大人の人にこのことを伝えて、警察に電話してもらいな」
僕はすぐ近くに家があったので、そこへと向かった。僕は玄関を開けるや、母さんに事情を伝えた。
母さんはすぐに電話をかけてくれた。さらに、家にいた父さんと母さんの呼んでくれた数人の近所の男の人とであの男のいるところへ駆けつけた。
その現場へ駆けつけた人々は誰しも訳が分からなくなったそうだ。なぜなら、そこには一人の男の死体があるきりで、禿げ頭のおじさんはどこかに行ってしまっていたからだ。
○
杉田正和は菓子パンの置いてあるコーナーを目の前にして思案していた。
(メロンパンと一緒にカレーパンがほしい。それと飲み物に野菜ジュース。でもお金は三百二十円しかない。全部買うと……足りない。どれか諦めなきゃな)
正和に飲み物をあきらめるという選択肢はない。家には水よりほかに飲めるものはないからだ。よって、メロンパンにするか、カレーパンにするかの二択となる。
菫は、視線をメロンパンへやったり、カレーパンにやったりを繰り返した末、メロンパンを手に取った。
自動ドアが開き、入店ないし出店のチャイムが鳴る。その時、正和は違和感に気が付いた。それというのも、自動ドアが開くと同時ぐらいに店内が静かになったからである。その静かになり方はちょうど、教室に先生が入ってきたときのような、そんな静けさだった。
正和は菓子パンコーナーの陰から、頭を出した。そして入口のあたりを覗いた。見てすぐさま、棚の後ろに引っ込んだ。棚の後ろに引っ込んでから、正和は心臓が早鐘のようにうつのを感じた。
正和が見たのは、自動ドアの前に立つ禿げ頭のおじさんの姿だった。
「こんなところで何をしているの?」
「さ、魚とりです」
「魚!へえ!」
男は興味を持った風だった。男の視線が僕の顔からそれて、下の方に向いた。
「その魚、ゆずってくれないかな?とても……欲しいんだけど」
「あ、あげます」
魚は上げます。だからその代わりに命は取らないで。僕は心の底からそう願っていた。
「その魚をこちらへもってきてくれよ」
そういわれても、僕は男に近づいて行く気になれなかった。僕がしり込みしていると、男はこちらへ近づいてきた。
「こ、ここに置いておくから――」
僕はバケツを置こうとした。その時、男が走り出した。僕に向かって。僕は男に向かってバケツを放り投げた。
「さかなあ!」
男はバケツに向かって飛びついた。バケツからこぼれる水にもお構いなしに。僕はバケツを放り投げたと同時に逃げ出した。
あの木々に囲まれたところへ戻り、階段を駆け上がる。階段を駆け上がった後、僕は後ろを振り向いた。すると奥の方から男が駆け上がってくるのが見えた。僕はまた駆けだした。
看板を通り過ぎて歩道に出た。するとすぐに近所の禿げ頭のおじさんに出会った。
「おじさん助けてぇ!」
おじさんははじめ、僕に視線を向けて、それから後ろに視線を向けた。僕はそれに気づいて、後ろを振り返った。後ろからは、あの男がやってきていた。
「おじさん、あいつが僕を襲うんだ!」
「下がってな!」
おじさんが僕の目の前に立ちはだかる。男がおじさんにとびかかった。かと思うと、おじさんは男の腕をつかんだ。男を抱え込むようにしたかと思えば、男の体は宙をくるりと回って、たたきつけられていた。おじさんが一本背負いを男にかけたのだとわかったときには、男は見事に地面に倒れ伏していた。
倒れた男の上から禿げ頭のおじさんは覆いかぶさり、手をねじりあげ、地面に組み伏せた。
「坊や、誰か大人の人にこのことを伝えて、警察に電話してもらいな」
僕はすぐ近くに家があったので、そこへと向かった。僕は玄関を開けるや、母さんに事情を伝えた。
母さんはすぐに電話をかけてくれた。さらに、家にいた父さんと母さんの呼んでくれた数人の近所の男の人とであの男のいるところへ駆けつけた。
その現場へ駆けつけた人々は誰しも訳が分からなくなったそうだ。なぜなら、そこには一人の男の死体があるきりで、禿げ頭のおじさんはどこかに行ってしまっていたからだ。
○
杉田正和は菓子パンの置いてあるコーナーを目の前にして思案していた。
(メロンパンと一緒にカレーパンがほしい。それと飲み物に野菜ジュース。でもお金は三百二十円しかない。全部買うと……足りない。どれか諦めなきゃな)
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菫は、視線をメロンパンへやったり、カレーパンにやったりを繰り返した末、メロンパンを手に取った。
自動ドアが開き、入店ないし出店のチャイムが鳴る。その時、正和は違和感に気が付いた。それというのも、自動ドアが開くと同時ぐらいに店内が静かになったからである。その静かになり方はちょうど、教室に先生が入ってきたときのような、そんな静けさだった。
正和は菓子パンコーナーの陰から、頭を出した。そして入口のあたりを覗いた。見てすぐさま、棚の後ろに引っ込んだ。棚の後ろに引っ込んでから、正和は心臓が早鐘のようにうつのを感じた。
正和が見たのは、自動ドアの前に立つ禿げ頭のおじさんの姿だった。
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