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第五話
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菫はその日、ブランコの方へ向かって歩いていった。別にブランコで遊びたいという気持ちがあったわけではなかった。ただ、祖父母の家に帰りづらかっただけだった。あの二人のそばにいると、なんとなく狭いところでぎゅうぎゅうとつぶされているような気持ちになって居づらかった。それよりは、ブランコを夕方までずっと揺らしながら過ごしているほうがまだしも魅力的に思えた。
ブランコのほうに歩いていくと、四つあるブランコのうち、右の二つを二人の少年が使っていた。
その時、一人の少年の靴がすっぽ抜けて飛んでいった。菫は靴の方へと歩いていって、靴を拾ってやった。
「ありがとう」
一人の少年がけんけんで菫の方へやってきた。
「靴飛ばし、やってるの?」
菫は訊いた。
「うん」
「私も混ぜてもらっていい?」
菫は自分でもどうしてその問いを発したのか、よくわかっていなかった。ただ、なんとなく靴飛ばしをやってみたいと思ったし、こうして声をかけることが当然の行為のように、菫には思えていた。
「いいよ」
少年はブランコの方へ戻り始めた。菫はそのあとへとついて歩いていった。
「その人、誰?」
「うん?名前なんだっけ?あ、僕は杉田正和って名前なんだけど」
「藤原菫」
「僕、マイケル・チャン」
「違うだろ。1900年代のプロテニスプレイヤーだろ、それ。あいつは伊藤智樹っていうんだ」
そういって正和はブランコに座った。菫もブランコに座る。隣の正和がブランコをこぎ始めたので、菫も靴のかかとの部分だけ脱いでから、こぎ始めた。
一番端っこにいる智樹が靴を飛ばした。白い靴は高く放物線を描き飛んでいった。そしてブランコのすぐそばで落ちた。
「Oh No!」
「やかましい」
そういって正和が靴を飛ばす。黒い靴は放物線を描き、なかなか遠くへと飛んでいった。
菫はそれをしり目にブランコをこいでいく。高く高く、こいでいった。
「こ、こぎ過ぎじゃ……」
隣で智樹か正和のどちらかがそういうのが聞こえた。しかし菫は無視してこぎ続ける。ここらへんでいいだろう。菫はそう思うところまでこぎ続けた後、ブランコが前へと戻っていくのを待った。地面がものすごい勢いで迫ってくる。かと思うと滑るように通り過ぎていく。菫は体が上向いたころを見計らって、靴を飛ばした。靴は飛んでいく。まるで靴が宙に浮いているかのような、そんな間があった。直後、靴は地面に落下する。その落下した地点の遥か手前に黒い靴が置いてある。正和のものだ。
「す、っげええええええ!」
智樹が叫んだ。
「なんであんな飛ぶの?」
智樹が訊いた。
「そりゃ、高くこいだからに決まってるでしょ」
「よくあんなにこげるよね。怖くないの?」
「怖くないよ。ブランコにちゃんとつかまってるんだから、落ちるわけないし。むしろこげないの、あれくらい?」
「無理。怖いもん」
「じゃあチキンだ」
「チキン?じゃあぼく、食べられるの?」
「……知らないよ。でも、食人鬼には食われるかもね」
「何それ?」
「人を食う人のこと」
「それどこにいるの?」
「んー、わかんない。どこにでもいると言えば、いるのかもしれない。人を食べるのが大好きな人っていうだけのことだから」
「食人鬼ってどんなの?」
正和が訊いた。
「見た目は普通みたいよ。要するに人を食べるだけだし」
「僕、食人鬼に会ったぜ」
智樹は言った。
「本当?」
「うん」
「牙とか生えてた?」
「うーん」
正和の発した問いに、智樹は悩んだそぶりを見せた。「口元なんかよく見えなかったしなあ」
「牙はどの人間だって生えてるよ」
菫は言った。
「うっそだあ」
「嘘じゃないよ。自分で歯を触ってみ。前歯の隣くらいにとがった歯があるでしょ。それ、犬歯って言って肉をかみちぎるための牙なんだよ」
「あ、本当だ。あるや」
「食人鬼って、やっぱりその、犬歯ってやつがでかいのか?どうだった、トモ?」
「うーん……」
「まあ、いいや。ところでトモ、食人鬼に会った時のこと話してくれよ」
「ああ!あのね、僕はねあそこへ魚を取りへ行ったんだ……」
智樹は夫婦川へ行ったこと、そのとき子供を喰らっている大人の姿を見たことを話した。
菫は智樹のした話を聞いて、激しく動揺した。智樹の言うその大人とは、ほかならぬ菫の父親だったからである。
菫は警察から話を聞いていた。自分の父親は母親を殺した後、一人の子供を殺害し、さらにもう一人襲った。からくも後に襲われたほうの子供は逃れたらしかったが、父親はその子供を襲った後に死んだのだ、と。
その父親が襲ったという子供が今一緒に遊んでいる智樹であった。どういうわけかこの二人だけはそのことを知らないらしく、菫を遊びに誘ってくれまでした。しかし、知っていたクラスの人たちは……。
ブランコのほうに歩いていくと、四つあるブランコのうち、右の二つを二人の少年が使っていた。
その時、一人の少年の靴がすっぽ抜けて飛んでいった。菫は靴の方へと歩いていって、靴を拾ってやった。
「ありがとう」
一人の少年がけんけんで菫の方へやってきた。
「靴飛ばし、やってるの?」
菫は訊いた。
「うん」
「私も混ぜてもらっていい?」
菫は自分でもどうしてその問いを発したのか、よくわかっていなかった。ただ、なんとなく靴飛ばしをやってみたいと思ったし、こうして声をかけることが当然の行為のように、菫には思えていた。
「いいよ」
少年はブランコの方へ戻り始めた。菫はそのあとへとついて歩いていった。
「その人、誰?」
「うん?名前なんだっけ?あ、僕は杉田正和って名前なんだけど」
「藤原菫」
「僕、マイケル・チャン」
「違うだろ。1900年代のプロテニスプレイヤーだろ、それ。あいつは伊藤智樹っていうんだ」
そういって正和はブランコに座った。菫もブランコに座る。隣の正和がブランコをこぎ始めたので、菫も靴のかかとの部分だけ脱いでから、こぎ始めた。
一番端っこにいる智樹が靴を飛ばした。白い靴は高く放物線を描き飛んでいった。そしてブランコのすぐそばで落ちた。
「Oh No!」
「やかましい」
そういって正和が靴を飛ばす。黒い靴は放物線を描き、なかなか遠くへと飛んでいった。
菫はそれをしり目にブランコをこいでいく。高く高く、こいでいった。
「こ、こぎ過ぎじゃ……」
隣で智樹か正和のどちらかがそういうのが聞こえた。しかし菫は無視してこぎ続ける。ここらへんでいいだろう。菫はそう思うところまでこぎ続けた後、ブランコが前へと戻っていくのを待った。地面がものすごい勢いで迫ってくる。かと思うと滑るように通り過ぎていく。菫は体が上向いたころを見計らって、靴を飛ばした。靴は飛んでいく。まるで靴が宙に浮いているかのような、そんな間があった。直後、靴は地面に落下する。その落下した地点の遥か手前に黒い靴が置いてある。正和のものだ。
「す、っげええええええ!」
智樹が叫んだ。
「なんであんな飛ぶの?」
智樹が訊いた。
「そりゃ、高くこいだからに決まってるでしょ」
「よくあんなにこげるよね。怖くないの?」
「怖くないよ。ブランコにちゃんとつかまってるんだから、落ちるわけないし。むしろこげないの、あれくらい?」
「無理。怖いもん」
「じゃあチキンだ」
「チキン?じゃあぼく、食べられるの?」
「……知らないよ。でも、食人鬼には食われるかもね」
「何それ?」
「人を食う人のこと」
「それどこにいるの?」
「んー、わかんない。どこにでもいると言えば、いるのかもしれない。人を食べるのが大好きな人っていうだけのことだから」
「食人鬼ってどんなの?」
正和が訊いた。
「見た目は普通みたいよ。要するに人を食べるだけだし」
「僕、食人鬼に会ったぜ」
智樹は言った。
「本当?」
「うん」
「牙とか生えてた?」
「うーん」
正和の発した問いに、智樹は悩んだそぶりを見せた。「口元なんかよく見えなかったしなあ」
「牙はどの人間だって生えてるよ」
菫は言った。
「うっそだあ」
「嘘じゃないよ。自分で歯を触ってみ。前歯の隣くらいにとがった歯があるでしょ。それ、犬歯って言って肉をかみちぎるための牙なんだよ」
「あ、本当だ。あるや」
「食人鬼って、やっぱりその、犬歯ってやつがでかいのか?どうだった、トモ?」
「うーん……」
「まあ、いいや。ところでトモ、食人鬼に会った時のこと話してくれよ」
「ああ!あのね、僕はねあそこへ魚を取りへ行ったんだ……」
智樹は夫婦川へ行ったこと、そのとき子供を喰らっている大人の姿を見たことを話した。
菫は智樹のした話を聞いて、激しく動揺した。智樹の言うその大人とは、ほかならぬ菫の父親だったからである。
菫は警察から話を聞いていた。自分の父親は母親を殺した後、一人の子供を殺害し、さらにもう一人襲った。からくも後に襲われたほうの子供は逃れたらしかったが、父親はその子供を襲った後に死んだのだ、と。
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